集中治療,ここだけの話
魅力的で奥深い集中治療の世界へようこそ。
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集中治療の分野で議論のあるトピックに関して、第一線の集中治療医はどのように考えて診療しているのか。本書は「昇圧薬・強心薬の使い方」「HFNC vs NPPV」「ICUでの鎮静、鎮痛」など、読者の関心が高い50テーマを取り上げ、関連するエビデンスを豊富に紹介しながら丁寧に解説していく。集中治療が専門ではない若手医師・看護師・薬剤師でも“Controversial”な状況に強くなれる「ここだけの話」!
編 | 田中 竜馬 |
---|---|
発行 | 2018年11月判型:B5頁:442 |
ISBN | 978-4-260-03671-9 |
定価 | 5,500円 (本体5,000円+税) |
更新情報
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- 序文
- 目次
- 書評
序文
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序
集中治療では,わかっていないこと,まだはっきりと結論が出ていないことがたくさんあります.
「人工呼吸器モードはVCVがよいのか,PCVがよいのか?」
「敗血症性ショックでは何を,どれだけ輸液すればよいのか?」
「急性腎障害にどのタイミングで腎代替療法を開始すればよいのか?」
などなど,日常的に遭遇するような問いも,実はまだ決着がついていません.
集中治療に不慣れな人にとって,どこまでわかっていて何がわかっていないのかわからなければ,自施設で行っている診療がローカルルールなのかスタンダードなのか判断するのは難しいですよね.周りの人に聞いても,人によって言うことが違ったりするともっと混乱してしまいます.というわけで,「『わかっていないことはわかっていない』としてわかっておこう」というのが本書の主旨です.
まだ決着がついていないからといって,臨床の現場で判断を保留にするわけにはいきません.「ショックだけど,どれだけ輸液すればいいのかわからないので様子をみます」なんてことはできませんよね.そんなとき,「ほかの施設ではどうしているのだろう?」とか,「専門家はどのような診療をしているのだろう?」などと思いませんか?
そこで,集中治療のまだはっきりわかっていないところを,どのように考えてどう診療しているのか,それぞれの分野の専門家に尋ねてみました.なんだか面白そうじゃないですか? えっ,自分で言うなって? それが,専門家の先生方のアタマの中を覗くようで,本当に面白い内容なのです.
専門家だからといって簡単に決められるわけではありませんし,もちろん「わかっていないから,とりあえずどっちでもいいや」なんていい加減には決めていたりはしません.そもそもこれまでにどのような議論がなされてきたのか,どれがいちばん自分の患者さんのためになりそうなのか,どれが自分の施設の事情に合うのか,などいろいろ悩みながら決めている思考過程を通して,集中治療の考え方を存分にご覧いただけます.
まずは,ご自身が普段疑問に思っているところに目を通してみてください.
「HFNCとNPPVの使い分けは?」(14.参照,p.105)
「重症患者への栄養管理の方法は?」(37.参照,p.297)
「敗血症でのDICはどう診断(治療)するのか?」(42.参照,p.343)
などがありますよね.それぞれの項目を読んでみると,シンプルな問いにみえて,実はけっこう奥が深いことがわかると思います.「急性膵炎にはとりあえず○○○投与だよね」というようなお手軽な医療とはおさらばです.
「ごちゃごちゃ言わずに,マニュアルのようにただ答えだけ教えてくれればいい」というかたには本書は合わないかもしれません.しかし,集中治療に興味のあるかたにとっては,どのような経緯で現在の診療になったのか,どのような議論があるのか,ほかにどのようなやり方があるのかを知っていれば診療の幅が広がり,また今後の学びにつながることは間違いありません.
本書を通じて,より集中治療に興味をもってもらえれば,編者としてこれほどうれしいことはありません.いっしょに集中治療のわからないところを学んでみませんか.
2018年10月
田中竜馬
集中治療では,わかっていないこと,まだはっきりと結論が出ていないことがたくさんあります.
「人工呼吸器モードはVCVがよいのか,PCVがよいのか?」
「敗血症性ショックでは何を,どれだけ輸液すればよいのか?」
「急性腎障害にどのタイミングで腎代替療法を開始すればよいのか?」
などなど,日常的に遭遇するような問いも,実はまだ決着がついていません.
集中治療に不慣れな人にとって,どこまでわかっていて何がわかっていないのかわからなければ,自施設で行っている診療がローカルルールなのかスタンダードなのか判断するのは難しいですよね.周りの人に聞いても,人によって言うことが違ったりするともっと混乱してしまいます.というわけで,「『わかっていないことはわかっていない』としてわかっておこう」というのが本書の主旨です.
まだ決着がついていないからといって,臨床の現場で判断を保留にするわけにはいきません.「ショックだけど,どれだけ輸液すればいいのかわからないので様子をみます」なんてことはできませんよね.そんなとき,「ほかの施設ではどうしているのだろう?」とか,「専門家はどのような診療をしているのだろう?」などと思いませんか?
そこで,集中治療のまだはっきりわかっていないところを,どのように考えてどう診療しているのか,それぞれの分野の専門家に尋ねてみました.なんだか面白そうじゃないですか? えっ,自分で言うなって? それが,専門家の先生方のアタマの中を覗くようで,本当に面白い内容なのです.
専門家だからといって簡単に決められるわけではありませんし,もちろん「わかっていないから,とりあえずどっちでもいいや」なんていい加減には決めていたりはしません.そもそもこれまでにどのような議論がなされてきたのか,どれがいちばん自分の患者さんのためになりそうなのか,どれが自分の施設の事情に合うのか,などいろいろ悩みながら決めている思考過程を通して,集中治療の考え方を存分にご覧いただけます.
まずは,ご自身が普段疑問に思っているところに目を通してみてください.
「HFNCとNPPVの使い分けは?」(14.参照,p.105)
「重症患者への栄養管理の方法は?」(37.参照,p.297)
「敗血症でのDICはどう診断(治療)するのか?」(42.参照,p.343)
などがありますよね.それぞれの項目を読んでみると,シンプルな問いにみえて,実はけっこう奥が深いことがわかると思います.「急性膵炎にはとりあえず○○○投与だよね」というようなお手軽な医療とはおさらばです.
「ごちゃごちゃ言わずに,マニュアルのようにただ答えだけ教えてくれればいい」というかたには本書は合わないかもしれません.しかし,集中治療に興味のあるかたにとっては,どのような経緯で現在の診療になったのか,どのような議論があるのか,ほかにどのようなやり方があるのかを知っていれば診療の幅が広がり,また今後の学びにつながることは間違いありません.
本書を通じて,より集中治療に興味をもってもらえれば,編者としてこれほどうれしいことはありません.いっしょに集中治療のわからないところを学んでみませんか.
2018年10月
田中竜馬
目次
開く
1章─総論
1.Intensivistは必要か?
2.ICU入室・退室基準を設けるべきか?
3.プロトコルの功罪
4.ICUでの多職種の役割
2章─循環
5.循環モニターには何を使うか?
6.輸液の選択は? 量は?
7.昇圧薬・強心薬の使い方
8.敗血症の見つけ方
9.非専門医のための敗血症性ショックの治療(EGDT時代後の治療)
10.重症患者での心房細動の治療は?
11.心筋逸脱酵素の解釈は?
12.急性心不全の治療
13.心原性ショックの治療
3章─呼吸
14.HFNC vs NPPV
15.気管挿管の実際
16.人工呼吸器モードの選択(PCV vs VCVの比較)
17.人工呼吸器設定の実際(PEEPと換気量の設定)
18.人工呼吸管理中の合併症治療(気胸,大量胸水,無気肺の診断と治療)
19.人工呼吸器離脱・抜管の実際
20.気管切開
21.成人呼吸ECMO
22.肺高血圧に伴う右心不全の治療
4章─腎
23.AKIの定義・診断・原因鑑別
24.AKIの治療と予防(RRT以外)
25.RRTの適応と開始するタイミング
26.酸塩基平衡の解釈方法
5章─感染症
27.抗菌薬の賢い使い方とは
28.ICUにおける侵襲性カンジダ症
29.ICUにおける感染管理
6章─内分泌
30.ICUでの血糖管理
7章─神経
31.中枢神経モニタリングとは?
32.低体温療法/体温管理療法
33.ICUせん妄の予防と治療
34.ICUにおける鎮痛/鎮静
35.PICS
36.リハの実際
8章─栄養
37.栄養療法の実際
9章─消化器
38.急性膵炎の治療
1 重症急性膵炎に対する動注療法
2 タンパク分解酵素阻害薬(静注)
3 予防的抗菌薬
4 早期経腸栄養
39.急性肝不全の管理
40.ICUでのストレス潰瘍予防
10章─血液
41.輸血の実際
42.ICUでの凝固/止血異常
43.VTE予防
11章─終末期
44.ICUにおける終末期医療
45.家族とのかかわり
12章─その他
46.重症患者の搬送
47.Rapid response system
48.Tele―ICU
49.小児ICU管理
50.ICUでのエコーの使い道
1 眼球エコー
2 気道エコー
3 肺エコー
4 心エコー
索引
1.Intensivistは必要か?
2.ICU入室・退室基準を設けるべきか?
3.プロトコルの功罪
4.ICUでの多職種の役割
2章─循環
5.循環モニターには何を使うか?
6.輸液の選択は? 量は?
7.昇圧薬・強心薬の使い方
8.敗血症の見つけ方
9.非専門医のための敗血症性ショックの治療(EGDT時代後の治療)
10.重症患者での心房細動の治療は?
11.心筋逸脱酵素の解釈は?
12.急性心不全の治療
13.心原性ショックの治療
3章─呼吸
14.HFNC vs NPPV
15.気管挿管の実際
16.人工呼吸器モードの選択(PCV vs VCVの比較)
17.人工呼吸器設定の実際(PEEPと換気量の設定)
18.人工呼吸管理中の合併症治療(気胸,大量胸水,無気肺の診断と治療)
19.人工呼吸器離脱・抜管の実際
20.気管切開
21.成人呼吸ECMO
22.肺高血圧に伴う右心不全の治療
4章─腎
23.AKIの定義・診断・原因鑑別
24.AKIの治療と予防(RRT以外)
25.RRTの適応と開始するタイミング
26.酸塩基平衡の解釈方法
5章─感染症
27.抗菌薬の賢い使い方とは
28.ICUにおける侵襲性カンジダ症
29.ICUにおける感染管理
6章─内分泌
30.ICUでの血糖管理
7章─神経
31.中枢神経モニタリングとは?
32.低体温療法/体温管理療法
33.ICUせん妄の予防と治療
34.ICUにおける鎮痛/鎮静
35.PICS
36.リハの実際
8章─栄養
37.栄養療法の実際
9章─消化器
38.急性膵炎の治療
1 重症急性膵炎に対する動注療法
2 タンパク分解酵素阻害薬(静注)
3 予防的抗菌薬
4 早期経腸栄養
39.急性肝不全の管理
40.ICUでのストレス潰瘍予防
10章─血液
41.輸血の実際
42.ICUでの凝固/止血異常
43.VTE予防
11章─終末期
44.ICUにおける終末期医療
45.家族とのかかわり
12章─その他
46.重症患者の搬送
47.Rapid response system
48.Tele―ICU
49.小児ICU管理
50.ICUでのエコーの使い道
1 眼球エコー
2 気道エコー
3 肺エコー
4 心エコー
索引
書評
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一流の専門家たちが渾身のアンサーを詰め込んだ,集中治療の広辞苑みたいな本
書評者: 市原 真 (JA北海道厚生連札幌厚生病院病理診断科)
「発売前重版出来(しゅったい)!」景気のいいニュースがTwitterから飛び込んできた。版元の情報が即日読者に伝わってしまうのだからすごい時代である。本が売れなくなったと言われて久しい昨今,刊行前の本が重版されるというのは,どういうことか? まだ誰も読んでもいない本がバカ売れして初版印刷部数が足りなくなった,つまりは医学書院の市場調査が甘かったってコトだよね(笑),などといじわるな想像を膨らませていると,アッと気付いた。「世界に名高いスペシャリスト50名が執筆」。ああそうか,50名にそれぞれ弟子が100人ずついれば5000部売れるもんな。だからか。
私は誰の弟子でもなかったが,とりあえず書籍の予約は早めに済ませた。B5判型のしっかり重そうな本。5000円というからもう少しペラッペラな本かと思った。ちょろっと試し読みしてみようかな……。
そこから4時間。なんと一気に通読してしまった。何度か読み返しもした。圧倒的だったのだ。「どうせエキスパートオピニオンの寄せ集めなんだろうな」的な薄い期待値を大幅に飛び越えてきた。集中医療の世界における猛烈な量の「最新クリニカル・クエスチョン(CQ)」が,総論,循環,呼吸,腎,感染症,内分泌,神経,栄養,消化器,血液,そして終末期(最高!),その他の豪華12項目に分類され,一流の専門家たちが渾身のアンサーを詰め込んだ,集中治療の広辞苑みたいな本。執筆者は単著で教科書を世に送り込んでいるような猛者ばかり。5~10ページごとに平均50本前後の文献が引用され,「ときには総説のように」,「ときには新書のように」,「ときには昔なじみのように」,語りかけてくる展開は圧巻だ。
個人的には,岩田健太郎先生や小尾口邦彦先生の章が大変よかったし(筆力が鬼),福井悠・小船井光太郎両先生の「心筋逸脱酵素の解釈は?」,土井研人先生をはじめとする「AKI(急性腎障害)」,後藤安宣先生の「ICUでの凝固/線溶異常」,さらには古川力丸先生による「ICUにおける終末期医療」などに心を奪われた。瀬尾龍太郎先生の「非専門医のための敗血症ショックの治療」に至っては切り口が素晴らしすぎてほれぼれした。鈴木昭広先生にエコーの話を依頼しているのも最高だ。研修医に読ませたら心の師匠が50人増えるだろう。医学生に読ませたら集中治療医が倍増するのではないか。そう,この本は,すでに著者50名いずれかの弟子である人間たちが発売前に買ってオシマイにすべき本ではない。「50名の師匠に師事したい人間が買うべき本」である。値段設定が5000円というのは頭がおかしい。発売前重版といい,医学書院はこの本をなんだと思っているのか。素晴らしい本を出していただきありがとうございます。
余談だが,CQの選定はおそらく責任編集の田中竜馬先生が行っている。筆力だけでなく編集力も超一流。彼こそ本物のバケモノだ。私は彼の秘書にお会いしたことがあるが,「秘書まで美人だ……」と敗北感に身を焦がしたことがある。
標準治療を踏まえつつ患者ごとに柔軟に対応するために
書評者: 大嶽 浩司 (昭和大教授・麻酔科学)
本書は集中治療室で遭遇する50のクリニカルクエスチョンに対して,エキスパートが答える形になっている。本書がユニークなのはその形式である。なんとクエスチョンに対する明確な答えがないのだ。代わりに,各質問には必ずPro-Conのように一つでない答えが提示され,それぞれを裏付けるevidenceが豊富に示されている。最後に,その両論を踏まえながらエキスパートが自分の行っている臨床の実際を「ここだけの話」として教えてくれる。
集中治療において,Evidence-Based Medicine(EBM)は重要ではあるが,金科玉条ではないと考える。なぜなら,ガイドラインや大規模研究が出るたびにEBMのいう「標準治療」は振り子のように振れるからだ。実際の現場では,新ガイドラインが出されるやいなや,昨日まで入院していた患者に対して治療法が変わるかというとそうではないだろう。EBM通りの治療に追従して,つい安心してしまいがちな医療者に対し,目の前の患者を見て自分なりの考えを持って治療をしようという,編者の田中竜馬先生のメッセージを感じるというと深読みをし過ぎだろうか。
例えば,いつものバーでいつものカクテルを飲むのはとてもリラックスできるひと時である。しかしながら,バーテンダー側の目線で見ると「いつものレシピ」を盲目的に出すのでなく,暑い日は少しライムを多めに絞る,疲れていそうならアルコールを少なめにするなど,客の様子をみながら微妙にレシピを変え,その時の客の状況に合わせた「いつものカクテル」を出せるのが一流の証しであろう。
閑話休題。本書は,敗血症ならこのオーダー,くも膜下出血の術後ならこのオーダーと,固定の「標準治療」をしたい先生,あるいは多くの麻酔とICUを兼任しているなど目の前のタスクが大量にある先生には,多少まどろっこしく,結論が見えにくいかもしれない。しかし,標準治療を踏まえながらも,患者ごとに治療に微調整を加え,その結果を適宜評価しながら柔軟に対応する気力や時間の余裕がある先生方には,本書はこれ以上ない必見の本となる。
うがった見方かもしれないが,「ここだけ」という言葉は,それぞれの医療者の現在置かれている社会的背景まで配慮してくれているような編者の思いやりを感じるタイトルである。本書の使い方すら読者それぞれに,ということであろうか。
選択肢が多い時代だからこそ,常に疑問・興味を持ち続けよ
書評者: 坂本 壮 (総合病院国保旭中央病院救急救命科)
“This is off the record, but ……”(ここだけの話だけど……)
臨床現場では疑問が山ほど生じる。その都度調べはするものの,確固たる答えに到達できずに途方に暮れることも少なくない。そのような,調べても明確な答えが存在しないものに関しては,施設ごとの目には見えないルールにのっとって診療が行われていることが多く,知らず知らずのうちにローカルルールであることを忘れ日々の診療をこなすようになっていってしまう。特に検査や治療においてそのようなことが多く,新たな検査や薬が世に出ると,必ず生じる問題である。「使った方がよいのか」「使うとしたらいつなのか」などはなかなか決まった答えが出ないことも多い。
一昔前,選択肢がそもそもない場合には悩みも少なかっただろう。できることが限られたのだから,それらをfullに利用しなんとかしようとしていた。しかし現在は情報と共に多くの検査や治療薬が開発され,利用できる状態である。そんな時代だからこそ,きちんと根拠を持ってより適切な選択をしたいものである。
「ここだけの話」と聞くと,人には言えない秘密の話,というイメージがあるかもしれないがそれだけではない。この本でいう「ここだけの話」とは,エキスパート達が実践している,本当は隠しておきたいほどの最高のプラクティスということだ。一所懸命患者に向き合い,模索し確立した,最高の術がこの本にはたくさん載っている。中には,「そうそう」とうなずき納得できる内容もあれば,「なるほどそんな見解も」というものまで,深い考察がなされている。選択肢が多く,さらには高齢者が多い本邦における集中治療では,「する/しない」といった白黒をつけることが簡単ではなく,グレーの部分が多々存在する。そんな時に必要なのは,エビデンスに裏付けられた知識であり,経験豊富なエキスパートの意見であろう。エビデンス自体はキャッチしやすい時代である。しかし,「エビデンスがあるから必ず行うべきである」「エビデンスがないから有用ではない」というわけではない。それをどのように実践で生かすのか,目の前の患者に適応するのか,これが大切であり悩む点である。自身の経験不足からあと一歩踏み出せないときに,また軌道修正できないときに,この本が必ずやより良い方向に導いてくれるだろう。
チャットモンチー注1)も「ここだけの話」注2)という曲を歌っていた。本書を読み終えた時,こんな言葉が思い浮かんだ。「つまずいた時こそ,この本からエネルギーをもらうべし」。
ERでも同じような悩みがあるって?! それはそれでねぇ竜馬先生……お楽しみに!
注1)2000年代を彩った徳島県出身の女性ロックバンド。代表曲に「シャングリラ」など。
注2)作詞・作曲:橋本絵莉子,アルバム『Awa Come』所収。
書評者: 市原 真 (JA北海道厚生連札幌厚生病院病理診断科)
「発売前重版出来(しゅったい)!」景気のいいニュースがTwitterから飛び込んできた。版元の情報が即日読者に伝わってしまうのだからすごい時代である。本が売れなくなったと言われて久しい昨今,刊行前の本が重版されるというのは,どういうことか? まだ誰も読んでもいない本がバカ売れして初版印刷部数が足りなくなった,つまりは医学書院の市場調査が甘かったってコトだよね(笑),などといじわるな想像を膨らませていると,アッと気付いた。「世界に名高いスペシャリスト50名が執筆」。ああそうか,50名にそれぞれ弟子が100人ずついれば5000部売れるもんな。だからか。
私は誰の弟子でもなかったが,とりあえず書籍の予約は早めに済ませた。B5判型のしっかり重そうな本。5000円というからもう少しペラッペラな本かと思った。ちょろっと試し読みしてみようかな……。
そこから4時間。なんと一気に通読してしまった。何度か読み返しもした。圧倒的だったのだ。「どうせエキスパートオピニオンの寄せ集めなんだろうな」的な薄い期待値を大幅に飛び越えてきた。集中医療の世界における猛烈な量の「最新クリニカル・クエスチョン(CQ)」が,総論,循環,呼吸,腎,感染症,内分泌,神経,栄養,消化器,血液,そして終末期(最高!),その他の豪華12項目に分類され,一流の専門家たちが渾身のアンサーを詰め込んだ,集中治療の広辞苑みたいな本。執筆者は単著で教科書を世に送り込んでいるような猛者ばかり。5~10ページごとに平均50本前後の文献が引用され,「ときには総説のように」,「ときには新書のように」,「ときには昔なじみのように」,語りかけてくる展開は圧巻だ。
個人的には,岩田健太郎先生や小尾口邦彦先生の章が大変よかったし(筆力が鬼),福井悠・小船井光太郎両先生の「心筋逸脱酵素の解釈は?」,土井研人先生をはじめとする「AKI(急性腎障害)」,後藤安宣先生の「ICUでの凝固/線溶異常」,さらには古川力丸先生による「ICUにおける終末期医療」などに心を奪われた。瀬尾龍太郎先生の「非専門医のための敗血症ショックの治療」に至っては切り口が素晴らしすぎてほれぼれした。鈴木昭広先生にエコーの話を依頼しているのも最高だ。研修医に読ませたら心の師匠が50人増えるだろう。医学生に読ませたら集中治療医が倍増するのではないか。そう,この本は,すでに著者50名いずれかの弟子である人間たちが発売前に買ってオシマイにすべき本ではない。「50名の師匠に師事したい人間が買うべき本」である。値段設定が5000円というのは頭がおかしい。発売前重版といい,医学書院はこの本をなんだと思っているのか。素晴らしい本を出していただきありがとうございます。
余談だが,CQの選定はおそらく責任編集の田中竜馬先生が行っている。筆力だけでなく編集力も超一流。彼こそ本物のバケモノだ。私は彼の秘書にお会いしたことがあるが,「秘書まで美人だ……」と敗北感に身を焦がしたことがある。
標準治療を踏まえつつ患者ごとに柔軟に対応するために
書評者: 大嶽 浩司 (昭和大教授・麻酔科学)
本書は集中治療室で遭遇する50のクリニカルクエスチョンに対して,エキスパートが答える形になっている。本書がユニークなのはその形式である。なんとクエスチョンに対する明確な答えがないのだ。代わりに,各質問には必ずPro-Conのように一つでない答えが提示され,それぞれを裏付けるevidenceが豊富に示されている。最後に,その両論を踏まえながらエキスパートが自分の行っている臨床の実際を「ここだけの話」として教えてくれる。
集中治療において,Evidence-Based Medicine(EBM)は重要ではあるが,金科玉条ではないと考える。なぜなら,ガイドラインや大規模研究が出るたびにEBMのいう「標準治療」は振り子のように振れるからだ。実際の現場では,新ガイドラインが出されるやいなや,昨日まで入院していた患者に対して治療法が変わるかというとそうではないだろう。EBM通りの治療に追従して,つい安心してしまいがちな医療者に対し,目の前の患者を見て自分なりの考えを持って治療をしようという,編者の田中竜馬先生のメッセージを感じるというと深読みをし過ぎだろうか。
例えば,いつものバーでいつものカクテルを飲むのはとてもリラックスできるひと時である。しかしながら,バーテンダー側の目線で見ると「いつものレシピ」を盲目的に出すのでなく,暑い日は少しライムを多めに絞る,疲れていそうならアルコールを少なめにするなど,客の様子をみながら微妙にレシピを変え,その時の客の状況に合わせた「いつものカクテル」を出せるのが一流の証しであろう。
閑話休題。本書は,敗血症ならこのオーダー,くも膜下出血の術後ならこのオーダーと,固定の「標準治療」をしたい先生,あるいは多くの麻酔とICUを兼任しているなど目の前のタスクが大量にある先生には,多少まどろっこしく,結論が見えにくいかもしれない。しかし,標準治療を踏まえながらも,患者ごとに治療に微調整を加え,その結果を適宜評価しながら柔軟に対応する気力や時間の余裕がある先生方には,本書はこれ以上ない必見の本となる。
うがった見方かもしれないが,「ここだけ」という言葉は,それぞれの医療者の現在置かれている社会的背景まで配慮してくれているような編者の思いやりを感じるタイトルである。本書の使い方すら読者それぞれに,ということであろうか。
選択肢が多い時代だからこそ,常に疑問・興味を持ち続けよ
書評者: 坂本 壮 (総合病院国保旭中央病院救急救命科)
“This is off the record, but ……”(ここだけの話だけど……)
臨床現場では疑問が山ほど生じる。その都度調べはするものの,確固たる答えに到達できずに途方に暮れることも少なくない。そのような,調べても明確な答えが存在しないものに関しては,施設ごとの目には見えないルールにのっとって診療が行われていることが多く,知らず知らずのうちにローカルルールであることを忘れ日々の診療をこなすようになっていってしまう。特に検査や治療においてそのようなことが多く,新たな検査や薬が世に出ると,必ず生じる問題である。「使った方がよいのか」「使うとしたらいつなのか」などはなかなか決まった答えが出ないことも多い。
一昔前,選択肢がそもそもない場合には悩みも少なかっただろう。できることが限られたのだから,それらをfullに利用しなんとかしようとしていた。しかし現在は情報と共に多くの検査や治療薬が開発され,利用できる状態である。そんな時代だからこそ,きちんと根拠を持ってより適切な選択をしたいものである。
「ここだけの話」と聞くと,人には言えない秘密の話,というイメージがあるかもしれないがそれだけではない。この本でいう「ここだけの話」とは,エキスパート達が実践している,本当は隠しておきたいほどの最高のプラクティスということだ。一所懸命患者に向き合い,模索し確立した,最高の術がこの本にはたくさん載っている。中には,「そうそう」とうなずき納得できる内容もあれば,「なるほどそんな見解も」というものまで,深い考察がなされている。選択肢が多く,さらには高齢者が多い本邦における集中治療では,「する/しない」といった白黒をつけることが簡単ではなく,グレーの部分が多々存在する。そんな時に必要なのは,エビデンスに裏付けられた知識であり,経験豊富なエキスパートの意見であろう。エビデンス自体はキャッチしやすい時代である。しかし,「エビデンスがあるから必ず行うべきである」「エビデンスがないから有用ではない」というわけではない。それをどのように実践で生かすのか,目の前の患者に適応するのか,これが大切であり悩む点である。自身の経験不足からあと一歩踏み出せないときに,また軌道修正できないときに,この本が必ずやより良い方向に導いてくれるだろう。
チャットモンチー注1)も「ここだけの話」注2)という曲を歌っていた。本書を読み終えた時,こんな言葉が思い浮かんだ。「つまずいた時こそ,この本からエネルギーをもらうべし」。
ERでも同じような悩みがあるって?! それはそれでねぇ竜馬先生……お楽しみに!
注1)2000年代を彩った徳島県出身の女性ロックバンド。代表曲に「シャングリラ」など。
注2)作詞・作曲:橋本絵莉子,アルバム『Awa Come』所収。
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