医学界新聞


アクションプランから読み解く生き残りをかけた戦略

対談・座談会 竹中孝行,鎌形博展,孫尚孝,鈴木怜那

2023.01.16 週刊医学界新聞(通常号):第3501号より

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 2022年7月,厚労省から「薬局薬剤師の業務及び薬局の機能に関するワーキンググループとりまとめ――薬剤師が地域で活躍するためのアクションプラン」(以下,アクションプラン)が発表された1)。アクションプランでは,薬局薬剤師は対人業務を充実させるなどして,今まで以上に地域医療を担うことが求められている。アクションプランで示された将来に向けて,これからの時代に必要とされる薬局薬剤師の職能とは何か。「みんなで選ぶ薬局アワード」(註1)を主催する薬局支援協会で代表理事を務める竹中孝行氏を司会に,議論が展開された。

竹中 地域医療を担う一員としての薬局薬剤師への期待の高まりを受け,2015年に厚労省から「患者のための薬局ビジョン」(以下,薬局ビジョン)が発表されました2)。薬局ビジョンでは,全ての薬局が2025年までにかかりつけ機能を持つとの目標が掲げられたものの,その目標を達成できているとは言い難い状況があります。

 そこで,2022年に厚労省からアクションプラン1)が発表され,現状の課題や薬局薬剤師に求められる行動指針が示されました。また,2023年からは電子処方箋の運用が開始されることもあり,薬局薬剤師の在り方を見直す時期が来ていると言えます。そこで本日は,これからの薬局薬剤師の職能についてお話しできればと思います。

竹中 まずはアクションプランの概要について,薬剤師の立場で厚労省のワーキンググループに参加した孫先生から解説していただけますか。

 アクションプランでは薬局薬剤師に求める具体的な対策として,①対人業務の充実,②対物業務の効率化,③薬局薬剤師DX,④地域における薬剤師の役割の4点を挙げています1)。従来,薬局薬剤師の業務は処方箋受付時の調剤業務が主体でしたが,今後は調剤後のフォローアップといった処方箋受付時以外の対人業務へのシフトが求められているのです。実現のためには,対物業務を効率化し浮いた時間を充当することも必要でしょう。他にもICTなどを活用した患者フォローアップを充実させたり,病院や他薬局との連携を密にしたりして,地域に必要な医療サービスを提供していくことが求められています。

竹中 アクションプランが提案された際,現場で働く薬剤師はどう感じたのでしょうか。鈴木先生から教えてもらえますか。

鈴木 感想が3点あります。第一に,対物業務の負担が軽くなっても,浮いた時間内に対人業務が収まらないのではとの懸念です。現場の感触として,患者に服薬指導をした際に薬歴の記入項目が多く,記入漏れがあると指導を受けるので作業を簡略化できず,かなりの時間を取られます。

 鋭いご意見ですね。ワーキンググループによる議論の中でも薬歴の記載に時間がかかることは指摘されていました。そこでアクションプランでは,電子薬歴の入力アシスト機能を活用した定型文の有用性についても触れられています。電子薬歴による頻用文書の定型化を進めて業務が効率化することに期待したいです。

鈴木 第二に,外部委託する業務や委託先に一定の条件が付けられていますが,条件が徐々に緩和される可能性もあるのではないでしょうか。条件が緩和され他業界の企業が処方薬の販売に参入してきた場合,地域に根付いた個人経営薬局の経営がたち行かなくなる恐れがあります。災害時において薬局は地域のインフラとしての機能を果たすので,実店舗が全てなくなってしまうのは不安です。

竹中 Amazonが処方薬のネット販売事業への参入を検討しているとのニュースが流れましたね。

 薬局業界を震撼させたのが記憶に新しいです。2020年に内閣府が行った「薬局の利用に関する世論調査」の中で,現在かかりつけ薬剤師・薬局がある方に選んだ決め手を聞いたところ,立地の近さではなく「信頼できる薬剤師であるため」が一番多い結果となりました(3)。ですので,地域住民と信頼関係を築けている薬局はなくならないと考えます。薬局薬剤師は積極的に患者にアプローチして信頼関係を築いていくことが今後ますます求められます。

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 かかりつけ薬剤師・薬局を決めた理由(文献3をもとに作成)
かかりつけ薬剤師・薬局を決めた理由として,「信頼できる薬剤師であるため」が最も多い結果となった。回答のうち上位7項目を抜粋して掲載。

鈴木 第三に,現役世代への予防やヘルスケアの啓発も忘れてはなりません。昨今では「薬剤師の在宅医療への参入」が推奨されており,高齢者など自宅療養する患者へのサポートが求められています。しかし,国から示される指針で在宅医療が注目されると皆がそちらに注力し,結果として高齢者を支える現役世代への意識が薄れる可能性があります。

 重要な視点ですね。疾病予防という観点で薬局の健康サポート機能の充実は今後ますます求められていくでしょう。最近では予防に注力する自治体も増えてきています。これまでそれぞれに現役世代への健康サポートに取り組んでいた個々の薬局も,これからは薬局間で連携したり自治体を巻き込んだりして行うサポートが必要でしょう。

竹中 薬局ビジョンで示された「かかりつけ薬剤師・薬局が持つべき3つの機能」の1つに,かかりつけ医を始めとした医療機関等との連携強化が挙げられています2)。これからは薬剤師の可能性を医師にも積極的にアピールしていかなければなりません。

 鎌形先生は医師であると同時に薬剤師の資格もお持ちで,過去に薬局勤務もご経験がありますね。開業医の観点からは門前薬局はあったほうが良いですか。

鎌形 ええ。医師としては助かりますし,おそらく患者にとっても医療機関の近くに薬局があるのは助かるはずです。ただ,国としてはかかりつけ薬局を増やすためにアクションプランを発表したのでしょうが,全ての門前薬局がかかりつけ機能を持つのは難しいと個人的には感じます。現実として門前薬局は,周辺の医療機関にかかる患者以外とのつながりが生まれにくいからです。

竹中 ありがとうございます。非常に現実的なご意見だと思いました。薬剤師が地域医療を...

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薬局支援協会 代表理事

2008年共立薬科大(当時)を卒業後,MRとして外資系製薬企業に入社。その後保険薬局で勤務し,12年に株式会社バンブーを設立。薬剤師として店頭に立ちながら,薬局4店舗の経営や介護事業などを展開する。16年に一般社団法人薬局支援協会を設立し,翌年より薬局の取り組みを紹介することを目的とした「みんなで選ぶ薬局アワード」を開催している。Twitter ID:@take0504

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医療法人社団季邦会 理事長/街のクリニック 立川・村山 院長

2003年明治薬科大を卒業後,MRとして製薬企業に入社する。その後,北里大医学部に編入し,調剤薬局やドラッグストアで勤務しながら,11年に卒業。卒業後は都立多摩総合医療センター,東京医大病院救命救急センターに勤務。17年慶大大学院にてMBAを取得。19年には街のクリニック立川・村山を開業,20年医療法人社団季邦会理事長に就任する。

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薬局薬剤師の業務及び薬局の機能に関するワーキンググループ 構成員

2001年京都薬科大卒。三重県の調剤薬局で薬剤師として勤務した後,03年に薬局を全国展開する株式会社ファーマシィに入社。厚労省の老人保健健康増進等事業や厚生労働科学特別研究の構成員として調剤報酬改定に向けたエビデンスの構築にかかわる。これらの取り組みが評価され,アクションプランの検討の議論に参加した。

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OGP薬局荒川店

2012年北陸大卒。薬剤師としてOGP薬局に勤務する傍ら,一般社団法人SRHR pharmacy PROjectで代表を務めるなど,女性のヘルスケアや子どもの性教育をテーマに情報発信・啓発活動を精力的に行う。薬局で開催している女性向けの健康講座が評価され,「みんなで選ぶ薬局アワード」で,OGP薬局荒川店が2021年度最優秀賞を受賞した。Twitter ID:@reinapharma

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