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『レジデントのための小児感染症診療マニュアル』より

連載 船木 孝則

2022.05.27

レジデントのための小児感染症診療マニュアル』は,国内の感染症診療のバイブル的存在である『レジデントのための感染症診療マニュアル』(医学書院)の小児版をコンセプトに企画され,第一線で活躍する26人の小児感染症医たちが筆を執りました。エビデンスに基づいた記載に加えて,臨床現場で実際に使えるマニュアルの簡明さも備えている点は必見。ぜひ手元に置いておきたい1冊です!
 

医学界新聞プラスでは今回,第3章「感染臓器からみた小児感染症」から「咽頭炎,扁桃炎」,第5章「原因微生物からみた小児感染症」から「ヒトヘルペスウイルス6型、7型」,第7章「予防接種」から「予防接種の基本的な考え方,予防接種スケジュール」の項を抜粋し,3回に分けて紹介していきます。

  • POINT
  •  ヒトヘルペスウイルス6型,7型(Human Herpes Virus-6, 7:HHV-6, 7)は乳児期から幼児期にしばしば遭遇する突発性発疹の原因ウイルスである。
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  •  ほとんどの小児が2歳までにHHV-6,HHV-7に感染する。
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  •  HHV-6,7の感染に伴い,熱性痙攣や脳炎・脳症などの合併症をきたすことがある。
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  •  造血細胞移植や固形臓器移植患者では,HHV-6や7の再活性化や初感染により重篤化して抗ウイルス薬による治療を要することがある。

1 特徴

  •  ヒトヘルペスウイルス6型(HHV-6)は,リンパ増殖性疾患の患者から初めて分離同定されたウイルスで,ヘルペスウイルス科に属するウイルスの1つである。
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  •  HHV-6は,ヒトヘルペスウイルス7型(HHV-7)とともにβヘルペスウイルス亜科ロゼオロウイルス属に属するサイトメガロウイルスと近縁なウイルスである。
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  •  他のヒトヘルペスウイルスと同様,初感染の後に持続感染する。
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  •  HHV-6AおよびHHV-6Bのレセプターは補体制御蛋白の1つであるCD46である。またTリンパ球に発現するCD134がHHV-6Bのレセプターであることも明らかにされた。
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  •  HHV-7のレセプターはCD4である。

1.ウイルスと遺伝子構造

  •  HHV-6およびHHV-7は,エンベロープを有する2本鎖DNAウイルスである。完全粒子の直径は約150~200 nmで,ヌクレオカプシド中に約160 kbpの2本鎖DNAを保持している。
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  •  HHV-6はその特性の違いから,HHV-6AとHHV-6Bに分類される。
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  •  HHV-6Aと6Bは2012年に生物学,免疫学,疫学および疾患の関連性などに基づき,同種の亜型ではなく,異なる種であることが正式に認定された。

2 検査

  •  HHV-6およびHHV-7の実験室診断は,免疫正常の患者において,治療法の選択に影響を及ぼさないが,重症の免疫抑制状態患者の感染については例外である。
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  •  血液,髄液,その他の体液,組織などからHHV-6,HHV-7のDNAをPCR法により検出し,病原体診断する。ウイルス分離による病原体診断も有用だが,検体の扱いに十分な注意が必要であり,結果が出るまで約1~2週間を要する(すべて保険適用外)。
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  •  血清学的検査により,ウイルス感染の確定診断や免疫状態の評価に用いられる。間接蛍光抗体法(IFA),酵素免疫法(EIA),中和抗体法(NT)などにより行われるが,IFAが主流である。特異的IgG抗体は,急性期(有熱期)と回復期(発症2~4週後)にペアで採取し,抗体の陽転化または有意な抗体上昇により診断する。
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  •  最近では,他の病原体と合わせた検出が可能なmultiplex PCRを用いた診断用パネルも入手可能となっている。

1.注意点

  •  PCR法でHHV-6,HHV-7のDNAが検出されたとしても,それが初感染なのか,過去の感染の持続感染なのか,染色体内に組み込まれたHHV-6(ciHHV-6:chromosomally integrated HHV-6)なのか,区別することは難しい。
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  •  ciHHV-6の児のPCR法によるウイルス感染診断時に混乱を招く。すなわち真の活動性ウイルス感染でない場合でも,末梢血単核球,血清,髄液などで高いHHV-6 DNAコピー数が検出されるため注意が必要である。特に造血細胞移植,固形臓器移植後の患者や脳炎患者において注意を要する。

3 疾患

1.疫学(リスク因子など)

  •  出生後の初感染は,HHV-6Bにより引き起こされる。初感染時に典型的な突発性発疹の症状を呈するのは,約20%とされており,残りは発疹や局所症状を伴わない発熱だけの場合もある。また,不顕性感染は約2~3割とされているが,欧米からの報告では本邦よりも高い。
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  •  HHV-6BとHHV-7は,ヒトを唯一の自然宿主としており,ほぼすべての小児が2歳までにHHV-6Bに感染する。HHV-7による感染症の好発年齢は,HHV-6Bの初感染よりも若干遅く,幼児期にピークを示す。
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  •  新生児は,母親からのウイルス特異的抗体の移行により,一時的に感染から守られているが,移行抗体の減少に伴い,生後6か月~2歳までの間に多くの者が罹患する。
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  •  感染に季節性はなく,通年的に発生している。
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  •  固形臓器移植(SOT:solid organ transplantation)レシピエントでは,1%がclinical diseaseを呈するとされている。
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  •  成人の90%以上が,HHV-6に対する抗体を保有しているため,ほとんどのHHV-6感染は,SOT後のウイルス再活性化か再感染の結果としての二次感染である。しかし小児(特に2歳未満)のSOTレシピエントでは,HHV-6抗体が陰性であり,初感染のリスクがある。

2.感染経路

  •  HHV-6B初感染時の潜伏期間は,約2週間と推定されている。
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  •  感染源は患児ならびに既感染者の唾液とされるため,多くの場合,既感染成人からの水平感染により感染が成立すると考えられる。
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  •  造血細胞移植,固形臓器移植において既感染ドナーから未感染レシピエントにウイルスが伝播する。
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  •  HHV-6A,6Bの伝播様式として,chromosomally integrated HHV-6(ciHHV-6)がある。国内での頻度は0.2%とされているが,ヒトの染色体上にHHV-6のゲノムが組み込まれた状態で,親から子に受け継がれる。

3.臨床症状(表5─28

1 突発性発疹(exanthema subitum)

  •  突然の高熱を認め,3日程度持続した後,解熱とともに四肢および体幹を中心に小紅斑が出現する。下痢を伴うことも多い。病初期に口蓋垂の根元両側に粟米粒大の隆起である永山斑が出現することが特徴的所見の1つとされる。また,経過中に児の活気は比較的良好である。

2 固形臓器移植後のclinical disease

  •  発熱,発疹,骨髄抑制が最も多くみられる症状および所見である。この他,肝炎や脳炎,肺炎,腸炎など組織侵襲性の病態を呈することがある。

4.合併症

  •  これまでに報告された,HHV-6B初感染時の合併症を表5─28に示す。まれなものがほとんどだが,比較的頻度が高いものとして熱性痙攣,脳炎・脳症,肝炎が挙げられる。
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表5-28(キャプショントリミング済).jpg
表5-28 HHV-6B初感染時の症状・合併症と再活性化時の症状
  •  HHV-6B初感染時の脳炎・脳症はさまざまな臨床像をとる。以前は急性壊死性脳症の臨床像が多いとされていたが,最近では痙攣重積型(二相性)急性脳症(AESD:acute encephalopathy with biphasic seizure and late reduced diffusion)の経過をとり,神経学的後遺症が多いとされている。
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  •  AESDの典型的な臨床像は,発熱当日または翌日に痙攣(多くの場合痙攣重積)で発症し,いったん意識レベルも回復した後,第3~7病日に痙攣(多くは部分発作の群発)の再発または,意識障害の増悪を認める。

4 治療

  •  基本的に保存的治療でよい。
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  •  HHV-6およびHHV-7感染症の特異的治療薬はなく,治療方法は確立されていない。
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  •  βヘルペスウイルスはチミジンキナーゼを有していないため,アシクロビルなどのウイルスチミジンキナーゼに依存する抗ウイルス薬の効果は期待できない。
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  •  一方で,βヘルペスウイルスであるHHV─6は,ホスホトランスフェラーゼ(U69)を有しているため,CMV感染症の治療薬として使用されているガンシクロビル,ホスカルネットなどはHHV-6感染症の治療に効果的ではある。ただし,HHV-7はHHV-6のU69のホモログを有するがガンシクロビルによる治療効果は認められないと報告されている。
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  •  固形臓器移植,造血幹細胞移植など免疫抑制状態の患者に対する治療は,抗ウイルス薬投与と免疫抑制薬の減量が原則である。しかし,こうした免疫抑制下でも無症候で一過性の場合,抗ウイルス薬投与は不要である。治療を開始する場合は,一般にウイルス量をモニタリングすることにより,血液もしくは病変部位からウイルスが検出されなくなるまで継続することが推奨される。またPCR結果の解釈に際し,ciHHV-6を除外することが推奨される。

1.抗ウイルス薬の投与

1 HHV-6による疾患

  •  ガンシクロビルまたはホスカルネットの投与が有効である。
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  •  投与量はサイトメガロウイルス病のマネジメントに準ずる。
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  •  国内のガイドラインでは,造血細胞移植患者におけるHHV-6脳炎の治療の基本は,ホスカルネット(ホスカビル®)1回60 mg/kgを1日3回で投与開始し,最低3週間投与することと記載されている。

2 HHV-7による疾患

  •  ホスカルネットとcidofovirが推奨される(後者は国内未承認)。

2.免疫抑制薬の減量

5 予防

  •  移植後のHHV-6,HHV-7感染,ウイルス再活性化,再感染などを予防するために,抗ウイルス薬の予防投与やpreemptive therapy(先制攻撃的治療)を行うメリットはないとされる。
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  •  感染予防には標準予防策の遵守が重要である。
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小児の特徴をふまえた感染症診療の原則、考え方、具体的なプラクティス

<内容紹介>小児の特徴“Children are not just miniature adults” をふまえた感染症診療の原則、考え方、プラクティスを示し、「感染臓器とそこに感染した微生物を考える」診療を実践していくために最適な1冊。「発熱へのアプローチ/感染臓器/検査/原因微生物/治療薬/予防接種」の各章で、エビデンスに基づいた記載とともに、臨床現場で実際に使えるマニュアルの簡明さも備えている。小児感染症診療の新しいスタンダード!

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