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『がんCT画像読影のひきだし』より

連載 茶谷祥平,稲葉吉隆

2022.06.03

 

 近年,がん医療の現場では,多職種による症例検討会が行われるようになり,医師だけでなく薬剤師や看護師など,多職種でCT画像を検討する機会が多くなってきています。『がんCT画像読影のひきだし』は,症例検討会における議論やカルテの記載内容を理解し,患者さんの病態をより深く理解できるようになることを目的に,実臨床において「どのように」「何を考えながら」CT画像を読影すべきか,そのポイントを平易に解説しています。薬剤師や看護師はもちろん,これからがん診療にかかわる医師も含めた幅広い層にとって,CT画像読影の入門書として最適な一冊です。

 「医学界新聞プラス」では本書のうち,肝障害症例に対する画像診断,しびれを訴える症例に対する画像診断をピックアップして,2回に分けて紹介します。

1 がん患者におけるしびれ(痛み)

□しびれは,時に痛み(チクチク,ヒリヒリ)を伴う感覚障害であり,身体の感覚受容器から末梢神経(感覚神経),脊髄,大脳へと至る感覚の伝導路のいずれかに障害が起きると出現します.表6-7-1には障害部位ごとに分類したしびれの主な原因を記載しています.

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□一般的なしびれの原因として,椎間板ヘルニアや糖尿病などは日常診療で頻繁に遭遇します.がん患者においては,このような一般的な疾患に加え,がん特有のしびれの原因を考えなければなりません.がんによるしびれの原因は,直接的要因としてがんそのものの神経圧迫や神経浸潤,間接的要因として手術や抗がん薬などの薬剤による合併症や副作用が挙げられます.

□しびれを引き起こしやすい抗がん薬として殺細胞性の抗がん薬ではパクリタキセル(タキソール),ドセタキセル(タキソテール),ビンクリスチン(オンコビン),シスプラチン(ランダ),オキサリプラチン(エルプラット)などが,分子標的型の抗がん薬ではボルテゾミブ(ベルケイド),イキサゾミブ(ニンラーロ)などがあります.これらが原因となるしびれは手先・足先に対称性に分布することが多く,通常,画像検査の対象となりません.一方で,近年適応が拡大している免疫チェックポイント阻害薬では,免疫関連有害事象として脱髄性ニューロパチー(ギラン・バレー症候群,慢性炎症性脱髄性ニューロパチー)や自己免疫性脳炎の報告例があり,画像検査が診断の一助となることがあります.

2 読影の基本

□しびれの性状や分布を問診や身体診察で詳しく調べることで感覚伝導路の障害部位を推定することができます.脊髄神経が支配する皮膚感覚領域を模式図化したデルマトーム末梢神経皮膚支配域の分布に沿った症状の場合,脊髄や神経根や末梢神経レベルの障害が考えられます(図6-7-1*1.デルマトームが示すL5(足外側)領域にしびれの症状があるときはL5領域の神経根レベルでの損傷を疑うことになります.

□推定された部位に対して単純撮影やCT,MRIなどの画像検査を行うことで,さらに原因の精査を進めていきます.特にコントラスト分解能の高いMRIは脳や脊髄,一部の末梢神経の評価において有用な画像検査です.

□ここでは腫瘍の末梢神経浸潤と,oncologic emergencyの一つである転移性脊髄圧迫(MSCC:metastatic spinal cord compression)について学びましょう.

1. 腫瘍の神経浸潤

□腫瘍の神経浸潤の形態として,直接的な浸潤の他に,神経を這うようにして進展する神経周囲浸潤があります.特に神経周囲浸潤は腫瘤を形成せずに原発巣から離れている場合もあり,その他の非腫瘍性神経障害との鑑別が難しいです.

□腫瘍の浸潤により障害を受けた末梢神経は通常,腫大や造影剤による造影増強(造影効果)を伴うことが多いです.水信号が強調されるMRIのT2強調画像および拡散強調像(→p56)では高信号(画像上白くなる)を示します.またFDG-PET/CTでは腫瘍のブドウ糖代謝亢進を反映して集積する(画像上濃くなる)ことが多いです.

□末梢神経は運動神経も伴っているので,障害を受けた末梢神経の支配筋は通常萎縮することが多く,脱神経と呼ばれます.

□しかしながら上記は非特異的な所見であり,診断には時に神経生検を要することがあります.

2. 転移性脊髄圧迫(MSCC)

□転移性脊髄圧迫(MSCC)は脊椎に転移した腫瘍による脊髄圧迫のことで,麻痺や疼痛の原因となり,患者さんのQOLを著しく損なう病態です.重度のMSCCでは非可逆的な麻痺をきたす可能性があり,早急の除圧術が必要となります.

□脊椎椎体骨の転移の診断は,まずMRIのT1強調像および脂肪抑制(水信号と同様に高信号となる脂肪信号を除く,\u0000261ep56),T2強調像の矢状断像が有用となります.加齢に伴い,造血髄(赤色髄)から脂肪髄(黄色髄)に変化した正常成人では椎体は通常,脂肪信号(T1強調像,T2強調像ともに高信号,脂肪抑制画像で低信号)を示しますが,椎体転移の場合,腫瘍や併存する浮腫性変化,圧迫骨折により,脂肪信号が消失して水に近い信号(T1強調像低信号,脂肪抑制T2強調像で高信号)に変化します.

□脊椎転移による圧迫骨折は時に骨粗鬆症などの良性疾患に伴う圧迫骨折との鑑別が難しいことがあります.骨破壊の併存,椎体外腫瘤の形成,びまん性の椎体異常信号などは脊椎転移の圧迫骨折に見られることが多く,鑑別点になります.

□脊椎転移が診断できれば,次は脊髄の圧迫の程度や椎体の不安定性を評価します.脊髄は硬膜で覆われた硬膜嚢と呼ばれる脳脊髄液が満たされた袋の中に存在しており,硬膜嚢はさらに椎体により形成された脊柱管内に存在しています( 図6-7-3).椎体に転移した病変は,増大することで硬膜嚢を圧排し,さらに進行すると脊髄を圧迫するようになります.脊髄への圧迫が強ければ脊髄内の信号変化(脊髄軟化症;myelomalacia)をきたすようになります.また溶骨性転移や圧迫骨折を伴う脊椎転移の場合,脊椎のぐらつきが大きくなり不安定性が増します*2

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□上記に関しては,脊髄圧迫の程度はMRIのT2強調像横断像での脊髄圧迫の程度を評価するESCC(epidural spinal cord compression)scale(硬膜外脊髄圧迫スケール)*3を用い,椎体の不安定性は病変部位・疼痛の程度・骨病変の性状などから評価するSINS(spinal instability neoplastic score)*4のスコアリングシステムを用いることが多いです.脊髄圧迫症状や不安定性が強い場合は緊急の除圧術や放射線治療が必要となります.

3 症例から学ぶ 画像読影のポイント Case 27

□70代男性.悪性リンパ腫の治療歴あり.左上肢のしびれを伴う疼痛,脱力が緩徐に施行.臨床所見からは腕神経叢領域の末梢神経障害が疑われ造影MRIが撮像されました.

1. 画像の見方(図6-7-4

□脂肪抑制T2強調像の冠状断では左C5~Th1の神経根から腕神経叢にかけて,神経の腫大および高信号変化を認めます(図6-7-4a).脂肪抑制造影T1強調像では同神経は造影効果を伴っています(図6-7-4b).右側の神経と比較すると変化は明らかです.

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□ほぼ同時期に撮像されたCTを提示します(図6-7-4c,d ).何か異常に気づきましたか.左側の胸壁や肩回りの筋が右側と比較して萎縮しています*5.腕神経叢を形成するC5~Th1は上肢の筋だけでなく,胸壁や肩回りの筋を支配する枝(肩甲上・下神経:棘上筋,棘下筋,肩甲下筋,大円筋.胸背神経:広背筋.長胸神経:前鋸筋)を分岐しています.腕神経叢の障害により,これらの筋肉は脱神経を起こして萎縮するのです.

□CTでは神経自体の異常を指摘することは困難ですが,このように筋の二次的な変化を指摘することで,診断に繋がることがあります.

2. 治療

□脳にリンパ腫の再燃を認め,神経生検の結果と合わせて悪性リンパ腫の神経浸潤(神経リンパ腫症, neurolymphomatosis)と診断されました.その後,化学療法を再開しています.

4 症例から学ぶ 画像読影のポイント Case 28

□60代男性.左下葉肺癌術後.左背部から側胸部にしびれを伴う疼痛が出現し,2か月後に歩行困難になりました.

1. 画像の見方(図6-7-5

□Th7椎体骨に圧迫骨折を伴う転移を認め,同部にはT2強調像で高信号変化が広がっています(図6-7-5a).圧迫骨折により椎体後方から飛び出した腫瘤は硬膜嚢内の脊髄を強く圧排(→p48)しています.

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□硬膜嚢内は通常,脳脊髄液(T2強調像で高信号)で満たされていますが( 図6-7-5b),腫瘍により強い圧排を受けた病変部レベルの硬膜嚢内には脳脊髄液の信号が確認できません( 図6-7-5c).

□神経根や脊髄圧迫による神経症状を伴うMSCCと診断されました.圧迫骨折を併発しており,不安定性の観点からも早急の処置を要する病態です.

2. 治療

□準緊急的に胸椎除圧固定術が施行されました.その後,放射線療法を追加し,リハビリビリテーションを継続することで補助下での歩行が可能となりました.


*1 コラム:デルマトームと末梢神経皮膚支配域の違い
 デルマトームと末梢神経皮膚支配域の図がどうして異なるのかを理解するために末梢神経の解剖を整理しましょう.中枢神経である脊髄から31対(第1~8頚神経:C1~8,第1~12胸神経:Th1~12,第1~5腰神経:L1~5,第1~5仙骨神経:S1~5,尾骨神経:Co)の末梢神経が分岐します.脊髄から分岐する部位を神経根(前根:運動神経,後根:感覚神経)と呼び,31対それぞれの脊髄神経根が支配する皮膚分節を示しているのが「デルマトーム」です.神経根はこれより遠位で,数本の枝に分かれたり,合流したりすることで神経叢を形成し,末梢神経へと移行します.そのため,末梢神経は単一髄節の脊髄神経根だけでなく,他髄節の脊髄神経根の枝とともに形成されています.この末梢神経の支配域を示したものが「末梢神経皮膚支配域」です.
 例えばC5~Th1は神経根が脊髄を出て,それぞれが分岐・合流して腕神経叢を形成し,最終的に上肢を支配する正中・尺骨・橈骨・筋皮神経になります(図6-7-2).「デルマトーム」の領域に沿った感覚異常の分布は脊髄-神経根レベルの障害が疑われ,「末梢神経皮膚支配域」に沿った感覚異常の分布は神経根より遠位の末梢神経レベルでの障害が疑われます.

*2 脊椎(骨)のぐらつきが大きくなることを不安定性が増すと表現します.

*3 ESCC scale:MRIのT2強調像の横断位における脊髄圧迫所見を使用したスコア.

*4 SINS:病変部位・疼痛・骨病変の性状などにより転移性脊椎腫瘍における脊柱不安性を評価するスコア.

*5 臓器が正常のサイズよりも縮小して見える場合,萎縮していると判断できます.

 1)伊藤隆原著,高野廣子改訂:解剖学講義(改訂2版),pp133-135,216-217,340,668-672,南山堂,2001
 2)日本臨床腫瘍学会編:神経・筋・関節障害.がん免疫療法ガイドライン(第2版),pp43-46,金原出版,2019
 3)Crush AB, et al.:Radiographics. 2014 Nov-Dec;34(7):1987-2007(PMID:25384297)
 4)上谷雅孝他:脊椎圧迫骨折(骨粗鬆症によるもの).上谷雅孝編:画像診断別冊KEY BOOKシリーズ 骨軟部疾患の画像診断(第2版),pp264-265,学研メディカル秀潤社,2010
 5)福島文他:MRIによる脱髄神経筋の評価.上谷雅孝編:画像診断別冊KEY BOOKシリーズ 骨軟部疾患の画像診断(第2版),p411,学研メディカル秀潤社,2010
 6)Lawton AJ, et al.:J Clin Oncol. 2019 Jan;37(1):61-71(PMID:30395488)
 7)Bilsky MH, et al.:J Neurosurg Spine. 2010 Sep;13(3):324-328(PMID:20809724)
 8)Fourney DR, et al.:J Clin Oncol. 2011 Aug;29(22):3072-3077(PMID:21709187)

 

「繋ぐ、囲む、比べる」を実践して、CT画像の読み方のコツを身につけよう。

<内容紹介>がんのCT画像は「何を考えながら」「どのように」読影すべきか。そのポイントをわかりやすく解説した入門書。本書のゴールは「初心者が画像読影のスキルを伸ばし、症例検討会の議論やカルテの記載内容への理解を深め、結果的に患者の病態をより深く把握できるようになる」こと。正常画像(web動画あり)の見方に始まり、臓器別(ex. 肺癌、胃癌)や臨床課題別(ex. 症状は薬剤性/原疾患)の切り口で症例も掲載。

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