医学界新聞

書評

2022.11.21 週刊医学界新聞(通常号):第3494号より

《評者》 桜十字グループ福岡事業本部リハビリテーション統括

 脳卒中片麻痺患者の下肢装具は入院中から退院後まで必要なものであり,近年では『脳卒中治療ガイドライン』にも掲載され,臨床場面で多く使用されるようになった。しかし,筆者が就職した2004年当時の理学療法は,下肢装具の使用に積極的ではなく,どちらかといえば「下肢装具の使用は理学療法士の敗北」と揶揄されていた。筆者が就職した施設は,湯之児式装具を開発された浅山滉先生がいらっしゃったので,何の抵抗もなく下肢装具を使用することができた。しかし職員の中には,下肢装具の使用を嫌う者も多く存在し,冷ややかな目で見られていたのを思い出す。そのような世の中だったため,下肢装具を学ぶにも参考となる書籍が少なく苦労した。

 下肢装具は,非常に多くの種類と機能,適応や使い方など多くの学びを必要とするため,初学者だけでなく,経験者においても壁にぶつかりやすい分野である。筆者も日本義肢装具学会学術大会に毎年参加し,下肢装具を知ることに努めたが,臨床での使用には難渋していた。そんな時,本書と出合うことができた。きっかけは,当院に出入りしていた義肢装具士に本書初版を紹介されたことであった。ハンドブックサイズで,多くの種類の下肢装具を写真付きで紹介し,機能や特徴に至るまで説明してあった。手にした時の衝撃はいまだに忘れることができず,バイブルとして暇さえあれば読み返したものである。本書のおかげで多くの種類の下肢装具の特徴を理解し,目の前の患者に適した選定をするための知識を得ることができた。

 今回の第4版も初版から良いところを引き継ぎ,時代にあった内容を追加している。筆者が初版の時から最も参考にしている章は,第25章の「各AFOと足継手の詳細」であり,他の書籍には類を見ない数の短下肢装具の機能を網羅してある。臨床において下肢装具の選択に悩むのは日常茶飯事である。数ある下肢装具の中から最適なものを選ぶには,下肢装具を多く知っているほうが有利である。下肢装具は実物を手に取ることでより理解できるが,その数が多いため,一朝一夕にできることではない。しかしながら,本書を読めば多くの種類の下肢装具をまるで実際に手に取ったように理解をすることができる。臨床で下肢装具にかかわる方々の選択の幅を広げてくれることは間違いない。さらに第4版からはQRコードからアクセスして動画を見ることができたり,近年,重要視されている長下肢装具の紹介が一新されたりしている。ここまでの種類の短下肢装具をまとめるには,日々たゆまぬ努力の積み重ねと,長年の経験を積み重ねた著者代表の渡邉英夫先生にしか成し得ないものだと思う。

 多くの臨床家が本書を手に取り,患者の個々の状態に応じて下肢装具のベストフィッティングをめざすことを切に願う。


《評者》 奈良医大教授・整形外科学

 全ての運動器医療にかかわる方々に,本書をお薦めいたします。

 超音波画像構築技術の進歩やリニアプローブの開発により,整形外科診療にパラダイムシフトが起こり,今や超音波は日常診療に必須のものとなってきました。操作が簡単になり,誰でも手軽に目的とするものが描出できるようになったことで,裾野はますます広がっています。しかし,中にはまだ,超音波の有用性を感じながら,ご自身で超音波プローブを触ったことがないという方もいらっしゃるのではないでしょうか。本書ではそのような方のため,第1章「はじめの1歩―まずはのぞいてみよう」で,超音波画像の基本的なプローブの操作の仕方や描出方法など,全身の各部位について,誰でもわかるようにやさしく記載されています。

 もちろんこれは序章で,次に一般的な整形外科疾患について掘り下げられ,超音波をある程度診療に活用されている方にとっても,日頃疑問に思われている事柄について,丁寧に解説されています。

 第3章までは一般的な超音波診療に関する事項ですが,第4章ではブラックボックスであった患者の痛みに末梢神経からアプローチし,「患者を痛いまま帰さない」臨床をめざして,超音波を使いこんでいる方にも新鮮な事項がたくさん登場してきて,まだわれわれが見たことがない新しい世界が見えるのではないかと期待感を抱かせます。最後には理学療法士とタッグを組み,新たな整形外科診療の可能性についても言及されています。

 皆さまSMAPというメンバーをご存じでしょうか。歌手のSMAPではなくSonography for MSK Activating Projectの略で,運動器に興味を持って超音波診療の進化と深化に取り組んでいる若手医師グループです。本書の執筆陣のほとんどがSMAPのメンバーであり,まさに現在進行形で発展している運動器超音波をけん引している集団です。彼らの勢い,ほとばしるエネルギーを本書から感じ取ってください。

 皆さまご存じのように整形外科診療の90%は保存治療であります。患者が病院や医院を訪れる主訴は「しんどい」か「痛い」かが多くを占めるのではないでしょうか。「痛い」という主訴の多くは整形外科的疾患で,その原因となる病態を提示し,治療介入することが求められています。言い換えれば,整形外科医はプライマリ・ケア医としての役割が大きく,間口を広くして,運動器に関することは全て対応する必要があるのではないかと常々考えております。

 ぜひ皆さまも本書をご熟読いただき,日常診療にお役立てください。


《評者》 徳島大教授・臨床薬理学/徳島大病院薬剤部長

 薬剤師が患者の薬物療法にかかわるには,客観的指標に基づいて薬の治療効果や副作用を評価する必要がある。特に,病棟においてチーム医療の一員として薬剤業務に従事する際は,臨床検査値や画像データを読み解くスキルが求められる。本書を白衣のポケットに忍ばせておけば,臨床検査・画像検査を活用した薬効・副作用の評価の心強い味方になるはず。現在あるいはこれから病棟で活躍する薬剤師にとって,頼りがいのある一冊となるに違いない。

 本書は,前半は薬効別に分類した代表的な薬の治療効果と副作用の評価について,必要な臨床所見や客観的データを含む種々の確認項目が簡潔にまとめられている。また,薬剤選択のチェックポイントを図表化し,治療開始から評価・介入に至る一連の流れがフローチャートで示されていることで,実践的かつわかりやすい内容となっている。さらに薬剤管理指導記録の記載のポイントに関しても解説しており,病棟で薬剤管理指導を行う際の記録作成の参考となるマニュアルである。

 後半は,臨床検査・画像検査の評価ポイントを的確にまとめている。各臨床検査の基準値はもちろん,異常値を示したときに考慮すべき疾患が列挙されていることも,薬剤師にとって魅力ある内容となっている。また,薬剤師があまりなじみのない,さまざまな画像検査の目的やチェックポイントに関して簡潔にまとめられており,医局カンファレンスにおける画像所見を理解する上でも大いに役立つ。

 本書は薬の治療効果と副作用発現の評価について,検査・薬効・副作用をオールインワンにまとめた薬剤師にとって魅力ある必携のバイブルであることに間違いない。加えて,薬物療法に携わる研修医,若手医師,看護師も活用できる充実した内容となっている。近年は医療機関から保険薬局に検査値情報を提供しているケースも増えてきており,保険薬局薬剤師にとっても本書は価値ある一冊となるだろう。


《評者》 順大老人性疾患病態・治療研究センターセンター長

 藤田・藤田の『標準組織学』は,総論各論からなる大冊です。教科書は,その時点で科学的に事実と認められている事象を基に書き上げることが必要です。これを徹底すると,教科書ほどつまらない読み物はありません。しかし,個人で書き上げる教科書は,事実に基づく記載に独自の味付けをすることで面白くなると考えられます。今や故人となられた藤田恒夫先生と藤田尚男先生の手による『標準組織学』は,その典型であると思います。

 藤田恒夫先生が本書第4版の執筆時,岩永敏彦先生に多くを依頼されていたことを記憶しています。版を重ねるごとに,岩永先生の免疫組織細胞化学の技が随所にちりばめられるようになりました。岩永先生は,藤田恒夫先生の下で,免疫染色を武器に消化管をはじめさまざまな領域のペプチドホルモン産生細胞(脳腸ペプチドホルモン)の研究を進めてきました。その後,独立して北大に移り,獣医学部,医学部と経験され,第5版で『標準組織学』の改訂者になられています。本書はフォローしている論文の数だけでも膨大です。この5~7年間で,新たに加える事項と切り捨てる事項を調べるだけでも大変な作業です。藤田恒夫先生は科学者であるとともに文筆家でもあり,非常にたくさんの本を世に出されました。岩永先生も形態関連の本を出版されていますが,筆まめな先生でないと,この大著を仕上げるのは至難の業かもしれません。

 第6版の改訂では章構成は変わりませんが,内容は,かなり踏み込んで手を入れられています。岩永先生は総論の序で,「形態を主にした研究はdescriptive(記述的)で物事の本質に迫ることができず,mechanistic(メカニズムを解明するもの)な研究より低くみられる傾向にある。しかし,現象や形態像を正確に記述することこそが医学の基本である」という趣旨のことを述べられています。本書の電子顕微鏡像,光学顕微鏡像,免疫組織細胞化学的染色像は,どれをとっても美しい像ばかりです。これは科学的な思考力を要求される若き学徒にとって,重要な刷り込みになります。美しい形態を見ると,細胞の中の小器官が何かを語りかけてくれるような,そんな感覚にとらわれます。これが組織学学習の第一歩であると思います。

 第6版では,共著者の方々の特徴も十分に反映されています。読みやすい,わかりやすい,さらに高度な内容も含む教科書を一人で作り上げることは,不可能に近い話です。本書も,総論では岩永ひろみ先生,小林純子先生が,各論では渡部剛先生が共に改訂者となっています。そして諸所で素晴らしい仲間の手による章もあり,内容をより豊かにしています。

 本書は,組織形態学に分子細胞生物学的要素を随所に取り込んだ教科書です。若い学生が本書を読み込むことで,形態科学の歴史的な背景を知ることができ,読み物としても一級品です。学部学生のみならず,院生や若き研究者にとっても手元に置いておきたい教科書の一つです。

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