医学界新聞

対談・座談会 鈴木研裕,髙見秀樹,磯部真倫

2022.11.14 週刊医学界新聞(レジデント号):第3493号より

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 日本外科学会は2022年4月,「外科医希望者の伸び悩みについての再考」と題したメッセージを発信した。背景には,18年に新専門医制度が導入されて以降,22年度の専攻医採用者数が初めて減少に転じたことがある。そうした中,独自に開始した外科専門研修プログラムにより志望者数を大きく伸ばしているのが聖路加国際病院だ。同院で外科専門研修プログラムの副統括責任者を務める鈴木氏を司会に,名古屋大学医学部附属病院で臨床実習や研修医教育に携わる外科医の髙見氏,産婦人科医としての顔を持ちながら新潟大学医歯学総合病院全体の教育を統括する磯部氏による座談会を通じて,外科系志望の医師を増加させるアイデアを検討する。

鈴木 2022年度の外科専攻医採用者数は846人と,ここ数年増加してきた採用者数が減少(昨年度比58人減)に転じました1)。専攻医全体に占める割合(9.0%,2022年度)も低下しており,対策は急務です。

 髙見先生は医学生と交流する機会が多いと伺いました。やはり外科は人気がないのでしょうか。

髙見 外科に実習をしに来た医学部5年生に対して「将来どの診療科を考えていますか?」とアンケート(複数回答あり)を行うと,外科にチェックを付ける方は4割程度存在します。臨床実習終了後に再度アンケートをしてみても,「思ったより良かった」「臨床実習開始前に比べて外科に興味を持ちました」との回答が意外と多いです。リップサービスが含まれていることを差し引いても,人気が全くないわけではないととらえています。しかし,1学期に比べて2学期,3学期と,外科を将来の選択肢に挙げる医学生が減っていく傾向がみられます。さまざまな診療科を見て回る中で,相対的に外科の魅力が負けてしまっているのでしょう。

 鈴木先生は外科の人気が低迷している原因をどうとらえていますか。

鈴木 外科医のキャリアパスに問題があると考えています。何年もかけて下積みをした結果,最終的に執刀医の座を勝ち取れる医師は一握り。勝ち残れた人にとっては面白い領域であるのは間違いないのですが,それが難しいと早い段階で判断してしまえば,わざわざ外科に進もうとは思わないはずです。

髙見 組織としての構造的な問題ですね。若手に手術の機会が与えられる施設には志望者が増える傾向にあります。リクルートという観点からみても,若手が安全に手術経験を積める環境の担保は重要でしょう。聖路加国際病院では初期研修医が手術を担当することはありますか。

鈴木 はい。「体腔内結紮で2分を切ること」などを条件にして,全てにクリアすれば虫垂切除術や胆嚢摘出術を行ってもらいます。ただ,ローテートする初期研修医約20人の中で,執刀できるのは毎年2~3人程度です。

髙見 昔からそのくらいの人数ですか?

鈴木 近年は明らかに減っています。腹腔鏡手術の件数が増えたことにより,手術参加へのハードル自体が上がってしまいました。

髙見 本来経験の浅い時期に行うはずであった結腸切除術や胃切除術などが,腹腔鏡手術に置き換わってしまっていることが,この問題に拍車を掛けているように感じます。高い技術力が求められるがゆえに,若手が参加しにくくなりましたよね。

磯部 学生時代や医師としてのキャリアの早い段階で,チームの一員として医療に貢献している感覚が育まれにくいことは,志望者を減らしてしまう要因となってしまいます。内科であればdecision makingに携わって治療方針の検討にも参画できますが,手術となるとどうしても難しい。臨床実習や臨床研修というごく短期間でやりがいを伝えることは相当ハードルが高いです。

髙見 「貢献している感」は大事ですよね。私の場合,手術見学している医学生に「ちょっとここ持ってて!」とお願いすることもあります。

鈴木 私もです。皆喜んで参加してくれます。手術の場面に限れば,執刀医がどのような思考回路で手術に臨んでいるのか,例えば「郭清範囲をどう決めているのか」といったことを言語化し伝えていくことも,興味関心を深めてもらうには重要なポイントでしょう。

髙見 臨床実習を担当する医師の中には,「早く実習を切り上げたほうが喜ぶだろう」など,学生に配慮しすぎている方が多い印象を受けます。けれども外科に進みたいと考えている学生にとっては,将来自分の仕事になり得る環境を体感する機会を減らしてしまっているだけです。密度濃く,外科医の仕事を隣で見せることが重要だと考えます。

鈴木 その問題は学生だけでなく,ローテート中の研修医への対応でも同じことが言えますね。働き方改革の影響もあり,18時には退勤できるような体制を敷いていますが,外科をローテートする数週間の間で,指導医側が見込んだ成果に達しているかと問われると,昔ほどは到達していないと言わざるを得ません。

磯部 研修期間が短すぎて,苦手意識のあった研修医が「できる!」という感覚になる前に研修が終わってしまっている可能性は否めないです。

髙見 そのため当院では外科に割り当てられる研修期間の4週間を2週間ずつに分け,2領域の研鑽に励んでもらっています。本音を言えば,上部,下部,肝胆膵,乳腺内分泌の4領域を全て回ってもらいたいのですが,各領域1週間ずつだと患者さんの術前,術後の流れが一通り把握できないために,このような体制にしました。

鈴木 それは面白いですね。当院では第2助手として手術に参加してもらったり,患者を受け持ってもらったりします。以前はプライマリーで,基本的には受け持ち患者が退院するまでを全て担当してもらう方針でしたが,働き方改革に伴い,チーム制を敷くことになりました。勤務時間の是正は達成しつつあるものの,受け持ち患者を必ずしも入院時から退院時まで診ることができなくなった点はマイナスに働いているように感じます。

 当院外科の伝統は,「自分ができることは自分でやるな。できるよう下を指導しろ」。しかし,この伝統も働き方改革で岐路を迎えました。定時の勤務時間に収めるには,先輩が代わりに担当してしまうことが多くなります。そのほうが早く業務が終わり,効率的だからです。けれども,若手の伸びしろを消してしまっているのではと,疑問を持つようになりました。

髙見 外科診療は,1人の医師にかかる負担も大きいためにチーム制を採用すべきだと考えますが,「もうすぐ交代時間だから,あとはお任せします」など,責任感がやや希薄になっているようにも感じますね。働き方改革の推進は重要である一方で,こうした問題にも同時に目を向けていかなければならないと考えています。

鈴木 磯部先生が専門とする産婦人科は,専攻医採用者数は一時期減少したものの,最近では増加傾向を示し始めたようですね。

磯部 ええ。2022年度の産婦人科専攻医採用者数は517人(前年度比42人増)と,初めて500人を超えました1)。最も不人気と形容されたこともある診療科でしたから,上昇傾向にあるのは率直にうれしいです。

鈴木 なぜ増加に転じたのでしょう。

磯部 要因はさまざまあると思いますが,産婦人科医としてのキャリアが自身のスキル向上や多様なライフスタイルに合わせやすいことはポイントと言えるのかもしれません。まず,産婦人科は術者経験が他の診療科より圧倒的に早く積めます。加えて産婦人科の売りは,周産期,腫瘍,生殖,女性ヘルスケアと,大きく4つの専門分野があり,自身の希望によって手術にかかわるレベルを変えられること。若い世代は選択肢を絞られるのを嫌う人が多いこともあり,多様性を訴えられる点は強みです。また女性医師の割合が高まってきた影響も大きいでしょう。

鈴木 産婦人科の志望者が減っていた頃の要因に心当たりはありますか。

磯部 産婦人科の魅力の発信不足やアンコンシャスバイアスがあったと私は考えています。「勤務体系がキツイ」「医療訴訟が多い」「女性が働きづらい」など,実態に必ずしもそぐわない内容が医学生や研修医に広まっていたことで敬遠する方が多かった。こうした状況に対し,産科医療補償制度による無過失補償が整備(2009年)されたり,日本産科婦人科学会が勤務実態に関する客観的なデータを共有したりして,1つひとつ不安を解消していきました。また,同学会の産婦人科未来委員会若手委員が中心となり,全国規模のリクルートイベントを開催し,魅力を発信してきたことも結果に結び付いている要因だと考えます。

髙見 リクルートイベントの対象は研修医だけではないのですね。

磯部 タイミングやレベルによってニーズは異なるため,対象に合わせて内容も変更しています。具体的には,医学生や初期研修1年目の医師に産婦人科のおもしろさややりがいを知ってもらうための「サマースクール」,初期研修2年目の医師を対象に,産婦人科を専攻にしてもらう最後の一押しを行う「Plus One Project 2」などが挙げられます。これらのイベントは年1回だけの開催にしてしまうと参加できない方もいますので,地方学会単位や都道府県単位で行うこともしばしばです。多面的な戦略を講じ,診療科の魅力に触れられる機会を創出した上で最後の一押しができると,効果的なリクルートにつながるでしょう。

鈴木 磯部先生はリクルート活動に携わり始めてから10年くらいでしょうか。これまで数多くの人材のリクルートに成功するなど,十分な成果を収めているように拝見していますが,その裏には苦労もたくさんあったのではないですか?

磯部 そうですね。単に医学教育であれば教え子の成長をやりがいの1つとしてとらえられるものの,リクルートの場合,全ての努力が専攻医採用者数という明確な数字で評価されるために,プレッシャーは人一倍かかります。そもそも私がこれまで行ってきたリクルート活動における大変さをお伝えするには,新潟県という「地方」に位置する大学であることの特殊性を踏まえる必要があるでしょう。

鈴木 詳しく教えてもらえますか。

磯部 最大の問題は,地方には基本的に人材が新規に流入しにくいことです。残念ながら,地方の医学部を卒業した医師が臨床研修などで一度県外に出てしまうと,高い確率で戻ってきません。つまり,臨床研修中の2年間だけ積極的にリクルートすれば成果が出るというものではなく,臨床実習が始まる大学4年次から継続的に取り組み続けなければならないのです。

鈴木 なるほど。でも,そうした心の内はあるものの,4年次に産婦人科の実習に来た約100人の学生に対して,分け隔てなく産婦人科の教育をされているのですよね?

磯部 もちろんです。医学生を分け隔てなく教育するのは大学教員の責務ですから。あからさまに態度を変えて産婦人科の評判を落としてしまったら元も子もありません。

髙見 興味のある学生だけに熱心に教育する手法は,他の無視された学生にとってはネガティブな印象しか生みませんよね。そうした悪評が巡り巡って,「あの診療科はイマイチ」と言われかねない。学生たちに均等に教育の機会を提供することが,リクルートにつながる第一歩だと私も考えます。

磯部 また,他県の学生をリクルートする場合にも問題が潜んでいます。初期研修医獲得のために地方の大学が他地域の学生と交流する機会をつくるには,都市圏で開催される合同説明会などに出展しアピールする必要があります。出展には相応のコストを要する一方で,経験上,成果にはほとんどつながりません。こうしたリクルート活動は,夜間や土日といった勤務時間外で取り組まざるを得ないことも長年の課題と言えます。

髙見 深夜に学生や研修医とメールのやり取りをすることもありますからね。

磯部 その通りです。進路に関する相談メールにはすぐ返信しています。妻へのLINEの返信よりも早いですね(笑)。大学の将来だけでなく,多数の関連病院もあることで地域医療の未来も担っているだけに,その重責は常に重くのしかかっています。

鈴木 これだけのエフォートを割いているからこそ,最終的に専攻してくれなかったときのショックは大きいでしょう。

磯部 ええ。4年間の努力が……。ただし,どれだけ戦略的に励んでも,最終的な進路を決めるのは,私ではなく,学生であり,研修医たちです。個々人の主義・主張までをコントロールすることはできませんから,たとえ産婦人科を専攻する人数が少なかったとしても,リクルーターの力で簡単に解決できることではありません。

髙見 多くの施設では,教育担当=リクルート担当として扱われていることが多いですが,アウトカムとして入局者数を求められてしまうと,本来注力すべき「教育」に真剣に取り組めなくなってしまうのは問題と言えます。

磯部 まさにそうです。リクルートにつながらず,自身の教育活動に落ち度があったのかと思い詰める人は数多く存在します。正義感が強い人ほど,こうした思考に陥ってしまう。さらに言えば,喉から手が出るほど人材が欲しい診療科の場合,学生・研修医をつなぎとめようと,リクルートに携わる中堅・ベテラン医師が彼らに気を遣い過ぎてしまい,関係性が逆転する場合すらあります。やはり教育とリクルートの相性は悪いと言わざるを得ません。

鈴木 長年の経験から導かれる解決策はありますか。

磯部 教育担当とリクルート担当を分けることです。つまり教育に関心が高い人は,教育だけに注力すればいい。その活動が結果的に診療科の魅力を伝えることになるからです。そしてリクルート担当には「今年は何人獲得する!」などの過度なプレッシャーを与えないことです。ここまで述べてきたように,リクルートには不確定要素が常に付きまといます。そのことを組織のトップも理解し,リクルート活動を支援していく体制が必要です。たとえ役割を分けることができなくても,リクルート担当者の心の在り方として,教育とリクルートは別物であると考え,同列に並べて論じないことが重要です。

鈴木 ここまで外科系志望の医師を増やすための戦略を伺ってきました。最後に学生・研修医へ向けたメッセージをお願いできますか。

髙見 外科の良さは,自身のレベルに見合った手術が常に存在することだと思います。初期研修が修了する頃であれば,先ほど話題に挙がった虫垂切除術や胆嚢摘出術,10年目当たりになれば肝切除や膵頭十二指腸切除術,さらに年次を重ねれば,より高難度の術式もあります。すなわち,技術の探求に終わりがない。生涯学習的な楽しさがあるので,飽きることもないでしょう。

 そもそも外科医は「大変そう」「体力がないと務まらない」「手先が器用でなければならない」とよく言われますが,実際そうではありません。私自身,手先は全く器用ではないですし,体力というよりは集中力をいかに保てるかが重要だと考えています。百聞は一見に如かずで,まずは外科医の働きぶりを直接見て,魅力を感じてもらいたいです。

磯部 産婦人科は,教育とキャリアをサポートする体制はかなり整備されていると思います。少しでも関心があれば,各地方で開催されているセミナーに参加していただき,ロールモデルを見つけてほしいです。将来の不安についても相談できますので,ぜひ積極的に活用してみてください。

鈴木 お2人ともありがとうございます。間違いなく言えるのは,外科が楽しいということ。手術が上手くいった時の爽快感はこの上ないです。髙見先生と同じ意見ではありますが,物は試しということで,敬遠することなく,まずは体感してほしいですね。これからのわれわれ3人の仕事は,その体感する場をいかに整備していくかだと思います。共に頑張っていきましょう。


1)日本専門医機構Webサイト 年度採用数.

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聖路加国際病院 消化器・一般外科 副医長

2003年信州大卒業後,聖路加国際病院にて外科の修練に励む。08年同院消化器・一般外科チーフレジデント。09年に外科専門医資格を取得した後,米テキサス大MDアンダーソンがんセンター消化器腫瘍科フェローとして渡米。12年に帰国したタイミングで聖路加国際病院にて研修医教育に携わるようになる。現在は,同院の外科専門研修プログラムの副統括責任者として,研修のカリキュラムづくりからリクルートにも携わる。22年4月より現職。

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名古屋大学医学部附属病院 卒後臨床研修・キャリア支援センター センター長補佐

2003年名大卒。名古屋記念病院,小牧市民病院にて外科修練の後,12年名大大学院消化器外科学にて博士課程に進むと同時に,肝胆膵外科の臨床に携わる。15年に大学院を修了後,同大の教育専任教員になったことで医学教育に注力するようになる。21年4月より現職。20年から2年間は文科省医学教育科の技術参与として出向もした。現在は臨床実習や研修医教育,肝胆膵外科医教育に携わるほか,病院全体の研修医指導や指導医講習会の講師も担う。

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新潟大学医歯学総合病院 総合研修部副部長/医師研修センター副センター長

2002年山形大卒業後,同大病院産婦人科に入局。08年大阪労災病院産婦人科。婦人科腹腔鏡手術を専門とし,新潟大と関連病院における腹腔鏡手術の実施および教育に取り組むため,13年新潟大病院産科婦人科に助教として異動。21年5月より現職。現在は新潟大の医学生に対する卒前教育の実施や,新潟大病院にて行われる臨床研修全体の統括を担う。外科教育も専門としており,日本全体で外科医の教育マインドの向上に取り組む。また,日本産科婦人科学会未来委員会に所属し,産婦人科医のリクルート活動を全国で支えている。

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