医学界新聞

書評

2022.09.12 週刊医学界新聞(レジデント号):第3485号より

《評者》 順大先任准教授・理学療法学

 神経疾患,整形外科疾患,内部疾患,悪性腫瘍など多種多様な疾患において,どのようなリハビリテーションが必要なのか? 最良のリハビリテーションを提供するには,どのような知識が必要なのか? 本書では,そういった不安や疑問を,日本のリハビリテーション医学・医療を牽引してきた慶大リハビリテーション医学教室に携わるリハビリテーション専門医が,明確にポイントを示しながら図表とともにわかりやすく解説している。

 監修を務める木村彰男先生が序文で述べられているように,近年の医学・医療では,医療制度の改定により,疾患ごとの治療法や治療期間が制限され,画一的な医療が提供されるようになった。これはリハビリテーション医学・医療においても同様であり,日常生活動作の早期獲得のみを目的とした,生活動作の反復練習を主体とするリハビリテーションを目の当たりにすることがある。当然,生活動作の反復は重要であり,日常生活の自立度を高めるために必要である。しかしながら,リハビリテーション医学・医療の治療は,動作反復だけでよいのだろうか?

 第I章では,この問いに答えるように「リハビリテーション医学・医療」について,重要な定義が記載されている。リハビリテーション医学は,運動障害(dysmobility)を来す疾患・病態の診断・評価・治療を専門とする医学の一分野であり,臓器・疾患別ではなく,運動障害をシステムとしてとらえる。さらに運動障害の原因は,①神経・筋・骨関節系(運動実行系),②呼吸・循環系(エネルギー供給系),③生活環境に分けられる。そのいずれかに問題がある場合には,疾患横断的に,リハビリテーション医学・医療の対象となる。そして治療として,廃用を予防するとともに,機能回復的アプローチにより,障害の的確な評価に基づいて,機能を最大限まで回復し,代償的なアプローチにより日常生活の自立度を高める。このリハビリテーションの治療概念は,医学・医療の進歩により,新しい治療が開発されたとしても,リハビリテーション医学・医療の根幹だと考える。

 第II章では,リハビリテーション医学・医療を実践するための診断と評価が障害や動作レベルに分類され説明されている。さらに,第III章では,具体的な治療方法について記載されるとともに,治療後の効果判定にまで言及されており,より実践的な視点を学ぶことができる。第IV章では,リハビリテーション医学・医療の対象となることが多い疾患別の診断と評価,リハビリテーション治療がわかりやすく説明されている。第V章では,在宅リハビリテーション,行政や福祉用具の知識,さらに災害リハビリテーションにまで触れられている。

 本書はポケットサイズで,物足りない内容なのではないかと考える方もいるかもしれないが,前述のように重要なポイントが全ての項目で端的にまとめられており,本当に必要な知識が記載されている。本書は,リハビリテーション科専門医をめざす研修医や医師,他科の医師,理学療法士,作業療法士だけでなく,養成校の学生においても必要な知識を提供してくれる一冊と言えるだろう。


《評者》 獨協医大主任教授・総合診療医学

 本書の役割は,巻末の対談で野木真将先生が仰っている「みんなの(リーダー育成のための解決法に対しての)共通認識を広げ,育てるツールとして役立ってほしい(p.331)」という言葉に集約されていると感じます。日米の伝統的なチーフレジデント制度を持つ研修病院でチーフレジデントを経られたメンバーらが,指導医として,ミドルレベルのマネジャーとして,教育者として,どのようなことに気を付けながら診療・教育・マネジメントを実践していけばよいかを指南してくださっています。しかし,押しつけのような形ではなく,ソフトな語り口調で,“研修教育をしたことがない”“自信がない”という読者の皆さまにも,入りやすい構成になっているのではないかと思います。

 本書で評者が個人的にお勧めしたい章はたくさんあります。以下列挙すると,カンファレンスを盛り上げるためのコツは?(p.70),病棟などで少人数相手の指導で役立つポイントは?(p.96),EBMをどうやって教えれば良いか?(p.102),せっかく作ったカリキュラムがうまく共有されてないときの良い対処方法(p.179),当直表をどのように作成,調整したら良いですか?(p.228),医学生を上手に勧誘するコツは?(p.251),採用過程でのアドバイスはありますか?(p.254)……。このように,他書にない“痒い所に手が届く”“それ,興味ある!”指導医向けの内容が満載です。Think-pair-shareやEPA(Entrustable Professional Activity),Bloom's taxonomyなど,経験値のある指導医たちが多く踏襲していると思われる重要な概念の共有まで行き届いていて,とても勉強になると思います。その他,忙しい臨床現場で効率的に教えるコツ(p.26),多くの指導医が直面するであろう世代間ギャップをどのように考えるかの章(p.34),うつ(p.277),やBurnout(p.283)への対処,医学教育を学ぶプログラムの紹介(p.296)なども,多くの指導医たちのサポートになるのではないでしょうか。書評タイトルに記載したように,役職として責任あるレジデントを束ねるミドルマネジャーらが集結して記述された指導医指南書は,評者の調べる限りこれまで日本にはなかったのではないかと思います。新世代の後輩たちを指導する立場の全ての指導医たちにお薦めの,珠玉の一冊です。


《評者》 阪大大学院准教授・変革的感染制御システム開発学

 臨床現場では,患者さんの問題を整理するのが難しいことがしばしばある。特に昨今は,急激な超高齢社会の深化に伴い,他疾患併存が当たり前の世の中である。そのような環境における診断の複雑性を解決するために,さまざまな臨床推論に関連した良著が生まれている。本著もその系統の1つに並ぶであろう,診断方略のエッセンスを凝縮した書籍である。

 本著では,患者が持つ臨床問題のうち最も疾患特異性の高い問題点を「キーフレーズ」という言葉で表現し,そこから鑑別疾患を発想・整理することを目的としている。われわれは臨床推論を進める際,しばしば1, 2)のようなキーワードのタイプから整理を進めることが多い。

3485_01034jpg.jpg
 病歴から鑑別診断に至るコンセプトいろいろ(文献1,2

 著者が扱う「キーフレーズ」は,この中でも「Semantic qualifier」をメインに構成している。痒いところに手が届き(=臨床現場で困りやすく),かつ頻用するフレーズを抽出している点がとても秀逸である。これはひとえに,天理よろづ相談所病院,洛和会丸太町病院を経て真摯に臨床経験を積まれてきた著者の臨床能力に基づくものであると確信する(利益相反あり)。これを使えば,患者の問題点を速やかに整理できることは間違いない。いわばこの本は「名医の王道」へと誘う良著である。

 ただし,この本を使用する際には2点注意が必要である。

①読者のキーフレーズの診断そのものを間違えない!

 例えば本著にもあるが「ばち指」「Raynaud症状」などの用語には「定義」がある。その定義に合わない状況を誤って診断してしまうと,臨床推論そのものを大きく踏み外すことがある。

②自分の経験に即したキーフレーズのカードを作ろう!

 本著の鑑別疾患は,あくまで著者が臨床的に重要だと判断した内容や,著者の臨床経験に即した記載であろう。そのため,頻度的に極めてまれなものや,逆に極めてコモンディジーズすぎるものは記載されていない。例えば「急性発症の開口障害」の第一鑑別は,僕にとっては顎関節症だ(=僕自身がそうだから)。だからこそ,読者は本に含まれている「Web付録」を使って,そこに自分なりの鑑別診断を付け加えるとよい。そうすれば,素晴らしい臨床経験を持つ医師の思考と,自分の実体験を合わせた自分なりの「キーフレーズ」が生まれるだろう。

1)N Engl J Med. 2006[PMID:17124019]
2)Pediatrics. 2012[PMID:23090337]


《評者》 亀田総合病院附属幕張クリニック・院長

 ESDは日本で開発された早期がんの画期的な治療手技である。

 この治療が始まったころの2003年,長野県の佐久総合病院で,ESDライブデモンストレーションが行われ,全国から内視鏡医が集まったことが懐かしく思い出される。あれから20年が過ぎ,その手技は飛躍的に進歩し普及した。当時,やや困難例とされた病変の治療が平易になった一方,より難度の高い病変や,リスクの高い十二指腸,基礎疾患や高齢化などで背景の複雑な患者にも適応され,ESDは多様化・複雑化した。ESDが開発されて四半世紀,その進歩の恩恵は大きいがESDを確実に安全に行うことは容易ではない。

 本書は「総論」「臓器別各論」「ESDに役立つ知識」の3つの章で構成されている。さらにそれぞれが安全に施行するための独立したテーマから成り,安全を多角的に深く考えることが意図されている。

 「総論」ではESDの周術期管理,合併症の対処法,抗血栓薬,高周波手術装置の設定など治療に欠くことのできないテーマが丁寧に解説されている。リスクを招かないためには用意周到さと,偶発症が起こったときの判断力,チーム力が必要となる。それを支える知識や考え方が包括的に織り込まれている。ぜひ,お役立ていただきたい。またESDから全層切除への応用や,間葉系幹細胞や各種シートを利用した術後狭窄予防に関する編者らの研究は新たな可能性を感じさせる。

 「臓器別各論」では,咽頭・食道・胃・十二指腸・大腸のESDの実際と手技の基本・コツ・戦略,合併症の予防と対応が実践的にわかりやすく執筆されている。それぞれの臓器で手技や合併症の起こりやすさは少しずつ違う。一つひとつの操作はおろそかにできない。経験豊富なエキスパートの思考が技術に反映されている。手技がシェーマで解説され動画で供覧できるので理解しやすい。それぞれの臓器で標準的な治療,困難な症例,出血や穿孔の予防,穿孔したときの対応の手順と操作が丁寧に解説されている。難しい症例の提示もあり,ESDは内視鏡医の挑戦の歴史だと感じさせられる。

 「ESDに役立つ知識」では,まずスコープとESDを支える小道具たちに焦点を当てている。フード,ナイフ,デバイス,クリップ,止血鉗子などもそれぞれ工夫・開発され,その特徴と使い方が紹介されている。また,ESDの成否を左右するのは,内視鏡の基本操作であることが触れられている。有効な局注,粘膜下層への潜り込み,空気量の調節,最後に止血のコツと穿孔時の対応で結ばれている。

 今日,無事に終えた治療であっても,全ての工程がベストであったかを見直すことは欠かせない。本書をめくり,自身のESDと対比することで確実で安全なESDにつながることを願ってやまない。


開く

医学書院IDの登録設定により、
更新通知をメールで受け取れます。

医学界新聞公式SNS

  • Facebook