医学界新聞

書評

2022.09.05 週刊医学界新聞(通常号):第3484号より

《評者》 慈恵医大主任教授・リハビリテーション医学

 1990年に大学を卒業しリハビリテーション医学を志した当時の私にとって最大の問題は,臨床に根ざしたリハビリテーション医学に関する良い教科書がほとんどなかったということでした。当然ながらマニュアル的なものは皆無でありました。焦った血気盛んな若いときの私は,リハビリテーション医学をどのように勉強したらいいのかと上司にしつこく相談していました。上司からは「自分が勉強したやり方で良かったらどうぞ」と言われ,おおよそ100編のバイブル的な英語論文をA4表裏にまとめてある,全て英語の手書きのファイルを渡され,「コピーしてもいいけどしっかりこれを読んで,もちろん原著も読んで同じようにまとめて勉強するようにしなさい」と言われたのを昨日のことのように覚えています。

 本書の初版発行は1994年でした。「こんなにまとまったものが作られて出版されたんだ」と当時やけに感動しました。もちろん,すぐに日常臨床や認定医試験,専門医試験対策に大活躍させたことは言うまでもありません。この度,第4版として出版された本書を手に取りながら,1994年の初版に比べると随分厚くなり,ちょっと重くなったけど,内容が充実したなと思いました。

 リハビリテーション医学・医療の対象はとても幅広いものです。赤ん坊から超高齢者まで。超急性期から生活期まで。予防医学の領域から障害軽度,重度まで。治療は言うまでもなくケア的な要素も必要。ADLの評価やQOLの評価も必要。また,他の科の医師と大きく違い,行政的な知識もとても必要。本書は,こんな幅広い要望に対して,見事に全6章と付録で構成して答えを示してくれています。これほどの要点を凝縮させて,まとめ上げているのはなかなか見事であると感じます。「歴史ある慶應リハの叡智の結集ここにあり」と言っても過言ではありません。

 第I章は総論として,「リハビリテーション医学・医療とは」について,わかりやすく整理されています。第II章は「リハビリテーション診断・評価」,第III章は「リハビリテーション治療」,第IV章は「主な疾患のリハビリテーション診療」として42の項目を掲げています。第II章から第IV章まで注目すべきポイントがまとめられ,臨床上のコツもそれぞれについて挙げられ,読み手に親切かつ有意義な構成になっています。第V章は「地域生活とリハビリテーション医療」,第VI章は「リハビリテーション医療における医療倫理・感染対策・医療安全」,付録は「リハビリテーション医療に必要な基礎知識」が続きます。

 執筆を担当された先生方は,現在,わが国の第一線で研究や診療に従事し,国内外の法制度を熟知されている方ばかりであります。本書は,医師を始めとして,リハビリテーションにかかわる全ての専門職の皆さまの座右の書として,ご活用していただけると思います。


《評者》 練馬光が丘病院総合救急診療科 総合診療部門科長

 著者の長野広之先生は,現在,日本病院総合診療医学会若手医師部会副代表,日本プライマリ・ケア連合学会若手医師部門病院総合医チーム2代目代表を務められています。キャリアとしては上田剛士先生のいらっしゃる洛和会丸太町病院で研鑽を積まれた後,現在は在宅臨床をしつつ京大大学院医療経済学分野の博士課程で研究にまい進され,SNSでも積極的に情報を発信されているという,臨床も教育も研究も全てできる,まさにこれからの総合診療医を牽引される先生です。こうしたバックグラウンドから生み出される,アウトプット特集,腎盂腎炎特集,在宅医療×病院特集と,現場最前線で臨床に取り組む医師の琴線に触れる雑誌特集企画を連発されている長野先生の著書が面白くないわけがない,ということで読ませていただきました。

 本書は医学書院の総合臨床誌『medicina』で好評を博した鑑別診断の連載企画が基になっており,一言でいうと,「即日で鑑別診断能力の数も質も向上する」,そんな構成に思えました。さまざまな診断カンファレンスで無双の強さを示す長野先生が,その経験から導き出された「数多ある情報から診断につながる特異的な情報をピックアップする」という視点で執筆された,日常診療で役立つ内容になっています。

 例えば「CRP上昇に乏しい発熱」「遅発性アナフィラキシー」「リンパ節腫脹,腫瘤が目立たない悪性リンパ腫」「治らない肺炎」「原因不明の脳梗塞」……このキーワードだけでワクワクしませんか? どれも内科診療をすれば必ず出合い,そして症例によっては辛酸を舐めた方もいると思います。本書で挙げられている鑑別診断リストは,教科書には載っていないけれども実用的であり,非常に魅力的な内容になっています。

 本書の特徴は魅力的な鑑別診断リストだけではありません。わかりやすい病態ベースの説明,豊富な参考文献,使いやすい索引,鑑別診断リストをPDFで閲覧できるWeb付録もあり,書籍の内容を理解しやすい・使いやすいユーザー視点の仕様が盛りだくさんです。一周読むだけでも学びになり,二周読めばさらに学びが深まります。主だった症候の鑑別がわかってきたぐらいのフェーズの若手にも,若手を教育する立場の指導医にも,珠玉のパールがちりばめられた総論ともあわせてジェネラリスト必携の一冊です。


《評者》 東海大副学長(医系担当)

 本書の原著はスコットランド生まれでカナダのトロント大などで活躍したGrant教授により1943年に初版が出版された。本書はその第15版の日本語訳本であり,坂井建雄先生の監訳のもと4人の卓越した解剖学者の翻訳により出版された。原著は当初より専門教育を受けた医学画家の手により精密に描かれており,その後,多くの関係者の手に引き継がれながら完成度を高めてきた。当初は木炭粉画で白黒調だったが,原画の高解像度スキャンによる再彩色により,魅力的な器官の輝きと組織の透明感が高まり,単なる彩色では達成できない深い可視化ができており,臨場感が一段と増している。

 坂井先生が序で書かれているように,本書は「知識をもとに頭の中で組み立てられたもの」ではなく,一切の予備的知識を捨てて,純粋にありのままの姿を描くことを基本としている。例えば外科医が初期に行う手術として鼠径ヘルニアの手術がある。多くの外科書では鼠径管と周囲臓器の関係が概念的に描かれているので,研修医には理解が容易でない。私自身も外科医になりたてのころは,実際の解剖学的鼠径管の構造が理解できなかった。本書では二次元図ではあるものの,深鼠径輪から浅鼠径輪までの道筋が周囲の筋肉や靭帯と共に俯瞰的に描かれており,極めて容易に理解できる。

 本書はもともと学生に勉学してもらうことを目的に出版されたと想像する。しかし,外科手術の発達により外科医にはより高いレベルの解剖学的知識が必要となったために,本書は臨床家(外科医)にも役立つ解剖学書としての役割を増していったのであろう。CTやMRの画像を実際の水平断あるいは冠状断面標本と比較しながら学ぶことができ,表の作成も熟考されており,該当する図を一体的に配置するなどの工夫が施されているために,臨床の先生方の理解は一層深まると思う。また,現場の臨床家にとって必要な解剖学的特徴については,青色で目立つように記載されており,臨床家にも役立てたいという担当者の強い意向が伺える。

 近年の外科手術の発展は,より精緻な解剖学を必要とするようになっている。多くの領域で内視鏡下手術が導入されたことにより,肉眼では見えなかった画像,すなわち拡大された視野の下で手術が施行されるようになった。例えば私が専門とする直腸癌の手術では,これまで肉眼では特に気にしてこなかった骨盤腔底部の膜構造を認識することが重要となってきた。膜構造を意識することで,出血や神経損傷などを未然に防ぐとともに,より精緻な手術が行えるようになった。本書では骨盤内臓については表層筋膜と深筋膜などが周囲臓器との関連を含めて丁寧に描かれており,外科医が手術前に必要な解剖をあらためて確認し,気合を入れ直して手術に臨む点でも大切な役目を果たしてくれると確信する。

 870ページ余りの彩色豊かで情報豊富な本書が低価格に抑えられていることに驚く。学生にとっては高いかもしれないが,今後数十年にわたり使用できる秀逸の教科書であることを考えれば,本当に安価に設定していただいていると思う。本書の作成にかかわってこられた全ての皆さまに心から敬意と感謝を表する。

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