医学界新聞

寄稿 牧野淳

2022.09.05 週刊医学界新聞(通常号):第3484号より

 医療の高度化に伴い,医療者の業務負担も次第に増加してきました。近年,こうした業務負担を軽減する解決策として,各職種の強みを生かしつつ職種を超えて連携・協働しタスクを遂行する多職種連携が求められています。具体的には,2010年にWHOが発表した「専門職連携教育および連携医療のための行動の枠組み」1)を皮切りに,13年には厚生労働省が「多職種協働によるチーム医療の推進事業実施要綱」2)を,21年には日本集中治療医学会が「集中治療室における安全管理指針」3)を発表しました。

 多職種連携は,単にタスクシェアによる業務負担軽減だけではなく,医療の質や安全性の向上,医療費の削減などの効果も期待されます。集中治療領域では,ICU患者の予後が集中治療医主導の多職種連携で改善することが過去の研究から明らかになりました4)。改善の主な理由として,集中治療医がエビデンスやガイドラインを基に日々の診療方針決定へ大きくかかわっていることや,標準化されたプロトコルやオーダーセット,予防バンドルを積極的に活用していることが挙げられています。

 現在ICU多職種連携には,ICU回診,栄養カンファレンス,倫理カンファレンス,RST(Respiratory Support Team)ラウンド,RRS(Rapid Response System)などの形態が存在し,集中治療医をはじめ主治医,(診療)看護師,薬剤師,セラピスト,臨床工学技士,管理栄養士,ソーシャルワーカー,緩和ケア専門職などの医療者は,患者(家族)のニーズへ寄り添った患者(家族)中心のケア提供を最優先事項として共有しています。こうした連携の質を向上させることで,より良い医療が提供できると考えられます。

 しかし,ICUで働く医療者は,これまで多職種連携に関する教育を十分に受けてこられなかった上,時間的制約やマンパワー不足,医師のパターナリズム,職種間での理解不足やコミュニケーション不足などの複数の阻害要因がICUには存在していたことから,連携体制がうまく構築できていなかったと言えます。WHOは多職種連携体制の構築における重要な3項目として,専門職連携教育,連携医療,医療・教育システムを掲げました(表15)。すなわち,まず医療者に対して専門職種間の連携を強化するための教育(専門職連携教育)を行い,教育を受けた医療者が実際に医療現場で多職種や患者(家族)と協働(連携医療)しつつ診療の質を向上させ,最終的に行政が法的・経済的にサポートすることで医療・教育システムをブラッシュアップし,患者予後を改善する,という枠組みです。

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表1 WHO多職種連携の構築において重要な3項目(文献5より転載)

 また,ICU多職種連携体制を構築するには,対外的側面と対内的側面からシステムの改善効果を定期的・客観的に評価する必要があります。対外的側面では,患者(家族)へ提供される医療の質や安全性,医療費などをDonabedianモデル6)やPDCAサイクル7)で評価します。Donabedianモデルでは医療の質を構造・過程・結果の3つに分けます。構造では医療が提供されるための諸条件(物的資源・人的資源・組織学的特徴),過程では医療がどう提供されたか(診断・治療・看護・手術・リハビリ・予防・接遇・家族参加など),結果では提供された医療に起因する結果(治療...

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東京都立墨東病院集中治療科 部長

1999年長崎大卒。千葉大病院,成田赤十字病院で内科初期研修,都立駒込病院で内科後期研修を修了後,2003年都立墨東病院救命救急センターへ入職。自治医大さいたま医療センター,横須賀市立うわまち病院を経て,21年より現職。

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