医学界新聞

書評

2022.08.08 週刊医学界新聞(レジデント号):第3481号より

《評者》 一般財団法人国際医学情報センター理事長
慶大名誉教授

 このたび,医学書院から新刊『救急整形外傷学』が発刊された。外傷学の書籍は多数出版されているが,その多くは共著であり本書のように単著で書かれている書籍は少ない。

 著者は2001年より10年間,慶大整形外科学教室において,外傷患者が多い地方の関連病院に出向して臨床経験を積み,その後2011年から慶大病院救急部に異動して救急医としてのキャリアをスタートさせている。そして,整形外科専門医と救急科専門医の両者を有する数少ない救急整形外科医の一人である。その豊富な経験を基に2013年には医学書院より『救急整形外傷レジデントマニュアル』を出版している。その後,著者は整形救急医療のスペシャリストとして2016年に藤田医大病院に救急科教授として赴任し,同大救命救急センターの臨床現場で陣頭指揮を執って活躍された。2021年から東京女子医大附属足立医療センターに異動したが,現在も臨床現場の第一線で活躍中である。

 本書は,救急外傷に経験豊富な著者が整形外科を専門としない医師や整形外科後期研修医,初期研修医,救急医療に携わるコメディカルの方々を対象に,わかりやすい図表を使って実践的に書かれた,まさに救急整形外傷の手引き書である。本書の序文で著者自身が述べている「整形外科医と救急医としての二足の草鞋を履く立場から,両者の間に存在する思考の壁がよく理解でき,この壁を極力取り払うことが筆者の存在意義であり使命である」を忠実に守って書き上げられている。運動器を扱う整形外科において,外傷,中でも骨折・脱臼の診断と治療は基本中の基本であり,評者自身も医師3年目に勤務した外傷病院での経験がその後の臨床に大いに役立ったと認識している。どの分野の外傷も同様ではあるが,特に整形外傷における的確な診断と適切な初期治療は,その後の運動器の機能に大きな影響を及ぼす。反対に,適切な初期治療が行われないと重大な機能障害を残すことにもなる。救急外来では,初期治療が患者さんの将来に大きく影響を及ぼすことを常に念頭に入れ対応することが求められる。本書は,整形外傷の的確な診断と適切な治療法の選択を丁寧にわかりやすく教えてくれる必見すべきマニュアルである(前述の『救急整形外傷レジデントマニュアル』と比べると,大判のサイズゆえ写真が大きく配置され,イラストもフルカラーで印象に残りやすい)。

 本書は第1章の外傷治療に必要な解剖から始まり,第2章では全身管理,3章が創傷処置と続く。そして第4章では整形外傷治療の基本である外固定法と整復手技,第5章で牽引,第8章では脱臼,第9章から13章までは骨折が取り上げられている。さらには第17章で救急治療に必要な薬剤,最後の第18章と19章では診断書の書き方から医療費や保険診療の基礎知識まで記載されている。文中のイラストも簡潔にわかりやすく描かれ,索引も使いやすく整理され,著者の豊富な臨床経験から書かれた実践向きの『救急整形外傷学』である。整形外科医に限らず,救急医療に携わる医師,コメディカルの手元に置いておきたい,お薦めの書籍である。


《評者》 愛仁会高槻病院総合内科主任部長

 「筒泉先生,米国ではケア移行(Transition of Care)はやっぱりすごいんですか?」

 これは私が練馬光が丘病院で勤務している際に,本書の編者である小坂鎮太郎先生よりいただいた質問である。

 米国で内科レジデントとしてのトレーニングを受けたが,ケア移行という単語は恥ずかしながらそれほどなじみ深い単語でなかった。しかし先輩である手前,「そ,そらそやろ」ととっさに返答して,すぐに得意のコソ勉でケア移行について猛勉強したことを今も覚えている。タイミングよく『Annals of internal medicine』という雑誌内の有名コーナーである「In the clinic」でケア移行の特集があったため熟読したが,そこで強調されている内容が当時の内科レジデントにおけるトレーニングに十二分に組み込まれていることを知った際は大変驚いた。やはり米国の実践的教育はシステマティックにできていることを改めて感じた次第である。

 私自身が米国で経験したケア移行にかかわる入院診療,申し送り,コードステータスを含めたアドバンスケアプランニングなどについて小坂先生を含めた若手医師にでき得る限り伝えたつもりだが,それをいかに日本の診療に落とし込むか,ということが課題であった。どうしても日本の医療システムや文化,保険診療などにおいて米国との違いがあり,簡単にコピーアンドペーストできる内容ではないためである。一方で,わが国においてケア移行の必要性は切実な問題となっていることもまた事実である。かかりつけ医制度が米国と比べると厳しく規制されておらず,多くの患者が基礎疾患はもとより老年症候群やフレイルの影響で再入院を繰り返しているのは全国的な問題となっている。

 本書は私が米国で学んだ入院診療における断片的なケア移行を外来や地域にまで広げつつ,かつ日本において汎用性の高いものに昇華させた素晴らしい実践書となっている。ケア移行はいろいろな場面において起こる。院内の転棟や退院時だけではない。外来への申し送りや地域ぐるみの対応を行うときにも必要となる。その際に実に多くの職種の方および患者家族との良好なコミュニケーションが必要となる。想定し得る状況ごとにエビデンスを多分に含めた丁寧かつ実践的な記載であるため,今日からでも目の前の患者に適用できる。執筆陣も若手医師を多く登用している。経験がまだ少ないと侮ってはいけない。彼ら彼女らはまさに現場の患者を目の前にして日々鍛錬を積み重ねている現場第一のスペシャリストである。私のたどたどしいケア移行の教育が有望な後輩たちにより熟成され,本書の完成となったことを大変うれしく思う。次の世代である読者の皆さまが本書から質の高いケア移行を学び,それが日本全国におけるスタンダードとなるほど浸透していくことを切に望む。

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