チーフレジデントと探る
デキる若手指導医に必須の視点
対談・座談会 橋本 忠幸,小杉 俊介,三谷 雄己,横須賀 亮介
2022.08.08 週刊医学界新聞(レジデント号):第3481号より

「あなたにとって一番の指導医は?」。ベテランや中堅の指導医はもちろん,研修時に出会った世代の近い先輩医師を思い浮かべた読者は多いのではないだろうか。実際に医療現場では,研修医や専攻医も後輩の育成に重要な役割を果たしている1)。若手指導医は,自身も学ぶ過程にいる中でどのように後輩の指導に当たるべきか。
このたび上梓されたのは,若手指導医の代表的な存在であるチーフレジデント経験者によってまとめられた『チーフレジデント直伝! デキる指導医になる70の方法』(医学書院)。著者である橋本忠幸氏を司会に,日本チーフレジデント協会(JACRA)代表の小杉俊介氏,そして現役チーフレジデントの三谷雄己氏,横須賀亮介氏との座談会から,若手指導医に求められるスキルを探る。
橋本 RaTs,すなわち「レジデント(研修医・専攻医)も教育者である」という考え方が米国で広がる一方,わが国では認知度が低いままです。さらに国内の研修プログラムの中で若手が指導者の役割を果たしているにもかかわらず,若手が医学教育を学ぶ機会は乏しい現状があります。こうした状況下,後輩指導に悩みを抱える若手指導医は多いのではないでしょうか。本日は,若手指導医の代表的存在であるチーフレジデントの経験者にも参加していただきながら,若手指導医に求められるスキルを議論したいと思います。
チーフレジデント制度とその役割とは
橋本 チーフレジデント制度はまだ国内での知名度が低く,耳なじみのない方も多いでしょう。現在チーフレジデントを務めるお二人から,役割を教えてください。
三谷 勉強会の運営や研修医へのオリエンテーション,業務へのフィードバックなど教育的な面が主です。レジデントに対してのメンターの役割やカウンセリングは行っていない点で,他の病院と異なるかもしれません。
横須賀 当院も研修医の教育が一番大きな役割で,定期的なレクチャーや勉強会の企画・運営を行います。加えて業務負担や仕事状況を把握し,研修医のメンタルケアも担います。それから病院の運営会議や他科との折衝に内科代表として出席するなど,中間管理職的な役割も任されています。
橋本 私がチーフレジデントを経験した飯塚病院と比べても,施設によって役割はさまざまですね(表1)。

国内全体ではどうでしょうか。私と同じく飯塚病院でチーフレジデントを経験し,現在はチーフレジデント制度に関連した研究を行う小杉先生から,制度の概観を教えてください。
小杉 国内ではチーフレジデントの明確な定義がない上,導入施設も少なく役割も施設により異なります。ただし,制度を導入していない施設の中にも,「研修医代表」として同様の役職を置く組織は多くあるようです。
橋本 なるほど。海外ではいかがでしょう。
小杉 チーフレジデント制度は,19世紀後半には米国ですでに存在していたようで2,3),内科だけで見ても今やプログラムの大部分に設置されています。内科系プログラムディレクターの組織,APDIM(Association of Program Directors in Internal Medicine)が規定するチーフレジデントの定義は,「管理・教育・メンタリングとカウンセリングの業務を実施している,卒業もしくは卒業見込みの研修医」です(表2)4)。バックアップ,カンファレンス進行,ローテーション決め,外来サポートの4つが主な業務内容とされます5,6)。

中間管理職であることの強み
橋本 制度について質問はありますか。
三谷 米国ではチーフレジデントに優遇があると聞きます。これは米国で共通のものなのでしょうか。
小杉 ええ。まず給与が上がります2)。加えて,高倍率のフェローシップ獲得をめざす際の高評価につながります。名誉職としても浸透しているのです。
橋本 チーフレジデントを務めるメリットが米国では明確な一方,国内では特に優遇がありません。現役のお二人が考えるチーフレジデントのやりがいは何でしょうか。
三谷 教育の枠組みの作成にかかわれる点です。当院はチーフレジデントの役割がまだはっきりとは確立していない分,勉強会の開催などを私から提案すれば,上級医の先生方から柔軟に検討していただけます。私はもともと医学教育に興味があり,後輩と一緒に考え,学ぶのが好きでした。救急科を志したのも,先輩方から指導を受ける中で領域の魅力に気付いたことがきっかけなので,今度は後輩に魅力を伝えたいと考えています。
横須賀 医師5年目の早い段階から病院の企画・運営に参画できる点を魅力に感じています。また,後輩に教えることが自分自身の学びになっている実感も,やりがいにつながっています。初期研修時に出会った先輩を理想の医師像としてめざして日々の診療にまい進した結果,チーフレジデントに選んでいただきました。
橋本 任期を終えて時間がたった小杉先生はどう振り返りますか。
小杉 思い返せば,2つ上の橋本先生を私もロールモデルにしていましたね。
橋本 若干,言わせた感もありますけど(笑)。やりがいはどうでしょう。
小杉 患者さんをミクロでなくややマクロに見られる点です。皆が働きやすい環境を作ることも,結果的に患者さんへの診療の質を高める1つの手段だと考えていました。橋本先生はいかがですか。
橋本 皆さんに加えるならば,中間管理職だからこそ組織を動かしやすい点も魅力だと思います。学生時に米ハワイ大が主催するClinical Reasoning Workshopに参加した際,医学教育の部門長であったDr. Kasuyaから「leading from the middle」と教えられたのが印象に残っています。「中間管理職」は日本語ではネガティブな印象があるものの,上下の世代双方に近しいからこそできる仕事があるのです。
若手指導医は「足で稼ぐ」べし!
橋本 先に,後輩とのかかわりに注目したいと思います。チーフレジデントに限らず,若手が後輩に指導する際,効果的な方法はありますか。普段の後輩指導の中で気を付けている注意点を聞かせてください。
三谷 できたこととできなかったことを整理しつつ,できる限りポジティブなフィードバックを行うことです。自分ができていることは他者から指摘してもらわないと自覚できないことが多く,ネガティブな側面ばかりを伝えると過度に自信をなくしてしまう傾向がある気がします。
横須賀 研修医の中でも,習熟度がそれぞれ異なることです。そこで相手の知識量や理解度に応じた指導を心掛けているものの,なかなか把握しきれません。教える内容のレベルが高すぎたり,逆に既知であったりと,その時何を教えるべきかを量り違えることがあります。
橋本 相手の習熟度を判断する際に,注目しているポイントはありますか。
横須賀 一方的に指導するのではなく,「これは知ってる?」と問い掛け,相手のリアクションを得ることです。
小杉 フィードバックが妥当な学習者かどうかの判断は重要ですね。指導医の役割は,学習者を評価してその1段階上のレベルを示してあげること。まずは教える手段としてフィードバックが妥当かどうかを判断し,妥当ならフィードバックする。そもそも知識がなくフィードバックが意味をなさない相手に対しては,知識の習得を促すべきでしょう。
橋本 同感です。その判断のためには,学習者の近くでよく観察することが必要です。しかし,プログラム長など立場が上になるほど,学習者と一緒にいられる時間は少なくなります。多くの時間を共有できる若手指導医だからこそできる指導や評価があるはずです。そのメリットを最大限生かすべきだと常々感じています。
他に,例えば後輩のケアの観点で工夫はありますか。
三谷 後輩から声を掛けてもらいやすいように,あえて余裕があるように振る舞ったり,普段から雑談したりするのは大切だなと感じます。それから,臨床の切迫した場面での対応を迫られるのは,慣れない研修医にとって大きなストレスになる点に注意しています。特に救急科では重症患者さんを診る機会が多く,私自身も初期研修の時に重症患者さんを対応した際は緊張し,ストレスも強かった記憶があります。その頃の思いを忘れずに後輩と接するよう心掛けています。
横須賀 私は,後輩が悩みを一人で抱え込まないように,積極的に情報を収拾しています。例えば上級医から注意された後に,研修医が必要以上に落ち込んでしまうことがあるのです。悩みを一人で抱え続けてしまうと,モチベーションが失われたり業務効率が落ちたりするので,「あの先生が落ち込んでいる」などとうわさ話があれば,私から声を掛けるようにしています。
橋本 お二人とも優しいですね。若手指導医のあるべき姿だと思います。中でも横須賀先生のように自ら情報を得る姿勢は,コロナ禍で特に重要性を増したと思います。以前は飲み会などで愚痴をこぼし合えたものの,今はできませんから。「研修医は足で稼げ」「時間があれば患者さんのもとへ行け」とよく言いますが,若手指導医にもやはり足で稼ぐ姿勢が求められますね。
若手が指導法を学ぶ機会の確保を
橋本 ところで,卒後7年目以降には,臨床研修指導医となるために受講が必要な指導医講習会などの学ぶ機会があるものの,それ以前の若手指導医が医学教育を学ぶ場は多くありません。若手指導医は後輩への指導法をいつ,どこで学べばよいのでしょうか。三谷先生は,われわれが開催している若手指導医勉強会のRaTsワークショップに参加してくれましたね。
三谷 はい。医学教育の基礎を教えていただきました。卒後3年目の当時は,どうすればうまく後輩に指導できるかちょうど悩んでいた時期でした。
橋本 参加者は,実際に指導する中で悩みを抱えて受講する卒後5~6年目の医師が大多数でした。卒後3年目で受講して,医学教育について学ぶのはまだ早いと感じましたか?
三谷 当時は少し早いかなと感じました。ただ今となっては,早い段階から教育方法や型に基づいた指導法を学べたおかげで自信を持って後輩を指導できているので,本当に感謝しています。
橋本 うれしいですね。横須賀先生は,施設内などで医学教育を学ぶ機会がありましたか。
横須賀 体系的に学ぶ機会はなく,自分が受けた指導をそのまま実践しているのが現状です。機会があれば,ぜひ医学教育を学びたいと考えています。ただ,チーフレジデントが始まった後に学ぶのでは遅いとも感じています。任期中は一層多忙になるので,さらに指導法の学習に時間を割くのは困難でしょう。チーフレジデントになる準備段階として,事前に学んでおくのが理想的です。
小杉 米国では,チーフレジデントになる準備期間として,3か月前からAPDIMでの研修が始まります。研修の最...
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橋本 忠幸(はしもと・ただゆき)氏 大阪医科薬科大学病院総合診療科=司会
2010年大阪医大卒。和歌山医大病院で初期研修後,12年から飯塚病院総合診療科で後期研修。同院で14年度にチーフレジデントを経験した後,15年より橋本市民病院で総合内科の立ち上げを経験。22年より現職。近著に『チーフレジデント直伝! デキる指導医になる70の方法』(医学書院)。

小杉 俊介(こすぎ・しゅんすけ)氏 飯塚病院総合診療科
2012年熊本大卒。北九州総合病院での初期研修修了後,14年より現職。後期研修3年目の16年度にチーフレジデントを務めた。19年「若手のことは若手が一番わかっている」をモットーにする日本チーフレジデント協会(JACRA)代表に就任。

三谷 雄己(みたに・ゆうき)氏 広島大学救急集中治療科
2018年広島大卒。マツダ病院での臨床研修を経て現職。臨床の傍ら,チーフレジデントとして後輩の指導,勉強会の企画などに積極的に取り組む。信念は「知行合一」。単著『みんなの救命救急科』(中外医学社)を22年秋に出版予定。

横須賀 亮介(よこすか・りょうすけ)氏 聖路加国際病院内科
2018年東京医歯大卒。初期研修の後,20年より現職。本年4月よりチーフレジデントを務める。レジデントの代表として後輩教育や病院運営にかかわり,若手医師の模範となるように努める。若手側から病院全体を盛り上げるため尽力している。
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