医学界新聞

書評

2022.08.01 週刊医学界新聞(通常号):第3480号より

《評者》 横浜市立脳卒中・神経脊椎センター病院長

 A4サイズの本書を手に取るとずっしりとした重みにまず驚かされる。本書を開くと,簡潔にまとめられた説明文,丁寧に描かれたイラスト,単純レントゲン写真やCT画像,術中写真が目に飛び込んでくる。それらは整然と配列され,その数は非常に多く,本書の重みの理由に納得する。

 本書の構成は第1部が手術進入法,第2部が症例の2部構成で,巻末に参考文献と骨折・脱臼分類が掲載されている。教科書を読んで覚えるという,これまでの体裁をとっていない。読み始めると,実際に治療に携わる外科医の視点や手術に対する思考過程に準拠して記述されていることに気付く。

 手関節部は橈骨手根関節,遠位橈尺関節,遠位列と近位列を形成する手根骨からなる。それらの関節が緊密に協調・連動することにより,日常生活に最も重要な役割を果たす手部を三次元空間に自由自在に配置することを可能にする。関節面の部分的な適合不良は必然的に関節症性変化を生じさせ,機能障害を引き起こす。したがって,手関節の骨折ではより厳格な解剖学的整復固定術が求められる。

 解剖学的整復固定術には,高精細なCT画像などによる骨折型の正確な評価とともに,複雑な解剖学的形態を持ち,神経,血管,腱組織が密集する手関節では的確な手術進入法の選択が求められる。本書では,多くのページを外科的進入法に割き,全ての部位の骨折に対応している。正確な整復には展開がいかに重要かがわかる。工夫されたスクリューヘッド,プレートの形状,骨切り用の機器など精緻に考案された内固定材からは,開発者の意図が明確に伝わってくる。

 本書で最も特徴的なのが,症例を通して学ぶ点である。手関節のほぼ全ての骨折に対して,初めに症例が提示され,病態と適応,術前に準備する固定材料,体位と肢位の取り方,外科的進入法,整復と固定法などの手術の要点,術後管理とリハビリテーションについて記述されている。最後の章では,変形治癒骨折の矯正骨切り術や複雑な病態に対する対処法について言及されている。豊富なイラストと緻密に検討された動画を通して,手外科専門医以外でも手術の流れが想定でき,専門医にとっては手術の要点を再確認できる内容となっている。

 本書は,世界的に著名な手外科医が執筆しており,彼らの長年の経験と知識を集約して,さまざまなレベルの外科医が的確な手術を行えるように著述した渾身の実践書である。

 日常診療で比較的よく遭遇する手関節部の骨折を治療する外科医にとって,まさに必携の書である。


《評者》 飯塚病院総合診療科

 「指導医」と聞くと「自分なんか指導医とはまだ言えないし」と思われる若手医師も多いと思います。しかし,研修医1年目であっても学生が実習に来ることもあるし,研修医2年目は1年目から気軽に相談を受けることは日常茶飯事だと思います。このように若手医師もいろいろなシチュエーションで実は「指導(教育)」をしています。

 しかし,本邦では,例えば厚労省が行っている指導医講習会も卒後7年目以降の医師が主な受講対象者となり,若手の医療者が「指導」について体系的に学ぶ場はあまりなく,「指導」については教わることなく見様見真似で行っていることが多いと思います。

 書籍としても,医学教育の概念的なことが書かれたものはたくさん出ていますが,いずれも「指導医」レベルを想定して書かれており,若手医師が遭遇しやすい具体的なシチュエーション別の記述や具体化した対応策の記載などが書かれたものはあまりありませんでした。

 本書はそういった,若手医師がまず疑問に思うことや実際に遭遇するようなシチュエーションを,日本・米国どちらでもチーフレジデント(研修医の代表)を務めた野木真将先生を筆頭に,飯塚病院と聖路加国際病院という日本での研修医教育のリーダー的存在の病院でチーフレジデントを務めた橋本忠幸先生・松尾貴公先生・岡本武士先生が,実際の自身の経験と医学教育の理論やエビデンスをミックスさせた形でわかりやすく書かれています。

 読者(若手医師)に比較的近い卒後10年目を超えたばかりの先生方が著者のため,著者らが指導医として成長してくる中で疑問に思ったことや調べたことなどは若手医師が疑問に思うことや困ることと直結しており,そういったものが網羅されている一冊だと思います。

 「後輩ができた(既に後輩がいる)」医療者はぜひ一度読まれることを強くお勧めします。


《評者》 イムス板橋リハビリテーション病院リハビリテーション科

 回復期リハビリテーション病棟で働く療法士にとって必要な知識・スキルは,時代によって変化しており,ジェネラリストとしての知識が求められています。脳卒中や整形外科疾患のリハビリテーションに関する書籍は数多く出版されていますが,「回復期」という切り口の実践書は意外に少ないのではないでしょうか。

 本書は,回復期リハビリテーション病棟の患者さんを診る上で必要な情報を余すことなく網羅しており,疾患や症状に留まらず,社会背景や評価についても解説を加えている良書だと思います。回復期病棟で働く初学者や若手の療法士に最初に読んでもらいたい本の一冊です。Q&Aで構成されており,読みやすく,初学者でも頭に入りやすくなっています。

 本書は,療法士が回復期病棟に入院した方を担当する際の実際の業務手順に沿って構成されています。基本情報・診療情報提供書の解釈や医師の指示など,他の書籍ではあまり見ない項目にもフォーカスを当てて解説してくれています。

 また,『「困った!」ときの臨床ノート』というだけあって,実際に回復期病棟で困ってしまう項目が多く,研修会などでは聞きにくい内容の解釈や解決方法まで記載されています。特にバイタルサインや循環器・呼吸器については,回復期病棟では専門的に診る機会が少なく,対応に慣れているセラピストは少ないと思いますが,初学者でも理解でき,対応できるように工夫して書かれています。2022年度より,心大血管疾患リハビリテーション料が回復期病棟で算定できるようになりましたが,回復期病棟で心疾患を診る上での第一歩として本書を参考にすることができると思います。

 現場で働いている療法士が中心となって執筆されているため,より臨床感が伝わる内容となっています。また,臨床現場での苦労や思いを感じる成書であり,本書を作成する上での努力を垣間見ることができました。

 コロナ禍で実習があまり経験できなかった療法士も多いのではないでしょうか。臨床に入る第一歩として本書を読んでおくと,よいイメージトレーニングになるでしょう。経験者にとっては,まさに,回復期病棟で困ったときに助けとなる本だと思います。


《評者》 大阪公立大大学院教授・作業療法学

 元来,医学領域の情報を求める際のファーストチョイスは,識者の査読という審査を通過した情報を取り扱う科学論文が主であった。今の時代も,情報の正確性という点では,当然ファーストチョイスとなるべき情報の供給元が科学論文であることに変わりはない。しかしながら,1990年代以降の急激なインターネットの発達や,誰でも気軽に情報をアウトプットできるしくみであるSNSの台頭により,情報の正確さよりも,入手の手軽さや拡散性の高さを重要視する層が急速に拡大した。

 医学領域の情報においてもその傾向は同様で,俗にいうフェイクニュースと呼ばれる情報が安易に拡散され,通常の生活を送っていても不正確な情報に接することが多くなったと感じる。特に,医学領域におけるフェイクニュースを医療者が真に受けて治療などに用いた場合,その先にいる患者は大きな不利益を被ることになるため,対策が求められている。

 しかしながら,医学領域の情報を取り巻く環境が目まぐるしく変わる現代において,不正確な情報を流布する当事者は後を絶たず,一定の取り締まりが行われているものの,大きく減少する気配は認められない。したがって,医学領域の情報の特徴に鑑みると,不正確な情報を流布する当事者の取り締まりと同時に,情報を受けとる側に高い情報リテラシー(世の中に溢れるさまざまな情報を適切に活用できる能力)が求められる。

 本特集は,医学領域の知識としても利用されることが多い脳科学に対する読者のリテラシーを高めることを目的に編集がなされており,医学領域における情報の正確性に関する問題において,脳科学の分野に特化した内容となっている。前半は,科学論文の書き方・査読対応における論理性の確保,査読の実施方法などについて記載されている。後半は,脳科学の知識に対して,さまざまなバイアスに惑わされることなく,真の解釈を促すための知識が記載されている。そして最後に,特集の前後半の情報リテラシーにかかわる知識を統合し,それらを用いた情報のアウトプットが読者自身の今後の振る舞いの中で可能となるよう,「科学研究と発表のリテラシー」といった題目で締められている。

 本特集の中で,特に多くの方々に触れていただきたい内容は,冒頭の科学論文の書き方・査読対応における論理性の確保,査読の実施方法に関する論述である。学術的なアウトプットに関して,一般的に「医学領域の情報収集手段のファーストチョイスは,識者の査読という審査を通過した情報を取り扱う科学論文から」と推奨されていても,初学者においては,科学論文の情報の正確性がどうして高いのか,その理由に真に納得できていないかもしれない。本特集で,論文の作成から採択されるまでの正確な情報の生成過程を学ぶことで,科学論文からの情報収集がファーストチョイスとなるゆえんを明確に理解することができる。脳科学の応用が期待できる医学領域に属する医療者にぜひ手に取ってほしい特集の1つである。

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