MEDICAL LIBRARY 書評・新刊案内
書評
2022.07.18 週刊医学界新聞(通常号):第3478号より
《評者》 吉村 芳弘 熊本リハビリテーション病院サルコペニア・低栄養研究センター長
だから回復期リハビリテーションはやめられない。そういう意味でのバイブルでもある。
回復期リハビリテーションがテーマの書籍はこれまで数多くありましたが,ここまで体系的かつ徹底的な現場目線で回復期リハビリテーションの教育および臨床に適した書籍はありません。どうしても断片的で執筆者目線になりやすい情報が,本書では包括的かつ現場目線でまとめられています。目次を眺めていたら,つい寝食を忘れて最後まで一気に読んでしまいました。時がたつのを忘れるほど読書に熱中したのは久しぶりです。
病態や症例に関する基本的な情報整理に始まり,回復期リハビリテーションでよく遭遇する“困った!”をステージ,機能障害,呼吸循環,老年医学,チーム医療,家屋調査というさまざまな角度から展開しています。これらは,どれも回復期リハビリテーションに携わる医療および介護従事者にとって,欠かすことができないテーマです。さらに,わかりにくい言葉や新しい言葉は小見出しでしっかりと説明されており,この構成バランスが俊逸です。まさに,回復期リハビリテーションのバイブルとなり得る一冊です。
本書の目次項目を一部要約して紹介すると,「少し歩いただけで血圧が180を超えた! どうする?」「いつもリハビリを拒否される。どうしたらいい?」「機能訓練はいつまで続けるの?」「女性セラピストの歩行練習のコツは?」「低栄養の患者に注意することは?」「服薬状況から何がわかる?」「カンファレンスでは何を話したらいい?」など,回復期リハビリテーションへの現場目線の鋭い情熱とスタッフへの愛情があふれた問いかけが満載です。
ひたすら現場目線の,まるで同僚から発せられるような身近な疑問を丁寧に解説する書面づくりが素晴らしいです。何よりテーマの立て方が超一級です。私や同僚がしょっちゅうつまずいて苦労している回復期リハビリテーションの“困った!”を見事に言い当てており,この書籍はもしかして私(や同僚)に向けて書かれた本なのでは,と何度も膝を打ってしまいます。
私はこの本を読んでいる間,ずっと「早く病棟(リハ室)に行きたいな」「明日の回診が楽しみだなぁ」「あの患者の歩行状態はどうなったかな」などと考えてばかりいました。何しろ回復期リハビリテーションが対象で,書籍の中にあらゆる現場の様子がリアルに登場しますので,生唾が出てくるくらい“回復期リハビリテーション”をやりたくなってきます。
だから回復期リハビリテーションはやめられない。この書籍はそういう意味でのバイブルでもあります。
《評者》 柏木 秀行 飯塚病院連携医療・緩和ケア科部長
比類なき網羅性を実現した第2版
レジデントマニュアルシリーズと聞けば,「片手で持てて,ポケットに入るけど,ちょっと厚めのマニュアルね」と多くの人がイメージする。そのくらい,各領域に抜群の信頼性を備えた診療マニュアルとして位置付けられ,定番中の定番だろう。そんなレジデントマニュアルに,緩和ケアが仲間入りしたのが2016年であった。初版も緩和ケアにかかわる幅広い論点を網羅していたが,さらに充実したというのが第2版を手にとっての感想である。
緩和ケアもここ数年で大きく変化した。心不全をはじめとした非がん疾患をも対象とし,今後の症状緩和のアプローチが変わっていくような薬剤も出てきた。こういったアップデートをふんだんに盛り込んだのが第2版である。緩和ケアに関するマニュアルも増えてきたが,網羅性という点において間違いなく最強であろう。そう考えると分厚さも,「これだけのことを網羅しておいて,よくこの厚さに抑えたものだ」と感じられる。
もう少し具体的に本書の魅力について触れてみる。まず,エビデンスレベルの表記が相変わらず秀逸だ。自分の参考にしている情報やプラクティスが,何を根拠にしているかを理解することは重要である。これらの情報はただ単にマニュアルとしての価値ではなく,学習者を支援する一冊であることを物語っている。症状緩和に関しては,ここ数年で登場したヒドロモルフォンやアナモレリン,ミロガバリンといった薬剤についてカバーされている。こういった新たな薬物療法がどのように位置付けられているかに注目しつつ,安全に利用するためのガイダンスとしても活用できる。さらに,心不全や神経難病といった多様な非がん疾患に対する緩和ケアはもちろんのこと,「小児の緩和ケア」や「がんの親をもつ子どものサポート」といったさまざまな状況での緩和ケアについて扱われている。こういった点は,より緩和ケアのマニュアルらしい点として強化されている。
以上を踏まえ,この『緩和ケアレジデントマニュアル 第2版』の使用シーンをイメージしてみる。まず文字通りのレジデント世代は,その都度確認するためのマニュアルとして活用してみよう。繰り返し手にすることで,あやふやな知識が確かなものになっていくはずだ。上級医はぜひ指導に活用してほしい。「あの本に書いてあるから見ておいてね」というには,網羅性の高いこの本がうってつけだろう。各パートはそれぞれの領域のエキスパートが手掛けている。いずれも指導医として信頼できる執筆者たちのメッセージが,あなたの目の前の学習者に直接指導してくれるのである。
レジデント世代はもちろん,緩和ケアにかかわる幅広い医療者に活用していただきたい一冊である。
《評者》 戸口田 淳也 京大iPS細胞研究所特定拠点教授・基盤技術研究部門
初めて論文を書く学生のみならず,指導者にもお薦め
著者の堀内圭輔先生とは整形外科の臨床における専門領域を共有していることから,以前より親交を深めていただいている。同時に基礎生物学の研究にも従事されていることから,私が編集委員を務めている学術誌に投稿された論文の査読をしばしばご依頼申し上げている。大きな声では言えないが,査読者のreviewの質は,いわゆるピンキリである。その中で著者のreviewは,内容を十分理解した上で,研究の目的は論理的なものであるのか,実験計画に見落としがないのか,結果の解釈は妥当であるのか,そして結論は結果から推定されるものなのかという点について,毎回極めて適切なコメントを寄せている。たとえ最終的な意見がrejectであっても,投稿者にとって有用なアドバイスとなるコメントをcomfortable Englishで提示しており,いつも敬服していた。本書を一読して,なるほど論文を書くということに対して,このような確固たる姿勢を持っておられるから,あのようなreview commentが書けるのだと納得した次第である。
著者が述べているように,学術論文とは情報を他者と共有するためのツールである。SNSを介しての情報共有と異なる点は,情報の質,信頼性に関して,複数の専門家が内容を吟味した上で公開されることである。そして公開された情報に基づいてさらに深く,あるいは広く研究が行われ,その成果が再び学術論文として公開されていく。つまり学術論文を書くということは,小さな歩みであるかもしれないが,科学の進歩に貢献するということであり,自分の発見したことを,わくわくする気持ちで文章にするということである(私の大学院生時代のボスは,Nature誌に単独著者でI foundで始まる論文を書かれていた!)。
本書は,「動詞化できる名詞はできるだけ動詞化する」などの「医学論文を書くコツ」的なガイドブックではなく,論文全体の構造から細部に至るまでを,タイトルにあるように手トリ足トリ教えてくれる内容になっている。全ての論文の基本構造であるIntroduction,Methods,ResultsそしてDiscussionの説明の冒頭には,それぞれのパートの重要なポイントが簡潔に記載されている。Methodsは「信頼に足る研究手法・研究倫理に基づいた研究結果だと示すこと」,Resultsは「研究の追体験ができるように書くこと」,そしてDiscussionは「結局この論文で言いたいことは何なんだろう」という疑問に答えるための「適切な論点・回答を用意すること」であると,いずれも読んだ時に思わず「その通り!」と心の中で喝采した。「英語論文の作法」としてフォントの使い方や,今でも時々迷ってしまうようなスペースの使い方などの解説から,近年問題が増加している研究不正の疑念を抱かれないための適切な画像処理の手法,SDとSEの使い分け,biologicalとtechnical replicateの「n」の違いなど,適切な統計法の使用に関しても丁寧な解説がなされている。さらにPodcastの応用などの時代に即した内容も盛り込まれている。
初めて論文を書く学生のみならず,指導者の立場にいる方も,ぜひ一読をお薦めしたい。
《評者》 渡辺 亨 浜松オンコロジーセンター院長
がん診療「ジェネラリスト活躍の時」
二人に一人が罹患するほど,がんは「当たり前の」疾患であり,肺がん,胃がん,大腸がん,乳がん,肝臓がんは,罹患率,死亡率も高く「五大がん」と呼ばれています。他にも前立腺がん,子宮頸がん検診が公費負担されており,卵巣がん,膵臓がん,膀胱がん,食道がんなども,医療者から見て何ら特別な病気ではありません。
がん治療として,最初に発展したのは外科手術,次に放射線治療で,これらは局所治療と分類されます。一方,現在は全身治療として,抗がん剤などの薬物療法が治療の主体を担っており,がん診療を専門としている病院,診療所も全国に多数整備されています。昭和の時代,がん薬物療法を受ける患者は,副作用に苦しみながら数週間入院するのが当たり前でした。しかし,好中球増加因子(G-CSF),制吐剤,抗生剤など,各種の有効な副作用対策薬の開発とともに,モノクローナル抗体薬,ホルモン療法薬,免疫チェックポイント阻害薬など,新しい作用機序を持ち,優れた効果が得られる治療薬が導入され,「外来化学療法室」が専門病院に整備され,今やがんの薬物療法は通院で受ける時代,がんと共に生活を送り,仕事を続ける人が増えています。通院でがん薬物療法を受けている患者は,治療の間に生じる副作用の苦痛,病院を離れている不安などから,頻繁に病院受診を希望しますが,予約が取りにくい,受診しても待ち時間がすごく長い,担当医は手術中で対応できない,偉い先生は学会出張で不在,など必ずしも満足できるとは言えません。一方で,広範囲の診療能力を有する「ジェネラリスト」がかかりつけ医として21世紀の医療を支えています。
今般,医学書院より出版された『ジェネラリストのためのがん診療ポケットブック』は,コモンディジーズであるがんの診療に,さらに多くのジェネラリストの参画を促す卓越した良書です。本書の第1章に「本当のがん診療とは,『がん』という疾患の診療ではなく,『がん』という疾患をもつ患者のために行われる診療である」とあります。まさに,がん治療のスペシャリストと,全人的医療を担うジェネラリストがハイレベルな連携を構築することが,全てのがん患者を最高の幸福に導く鍵となるでしょう。
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