医学界新聞

書評

2022.07.04 週刊医学界新聞(通常号):第3476号より

《評者》 桜十字グループ福岡事業本部リハビリテーション統括

 2000年に回復期リハビリテーション病棟が制度化されてから22年が経過しました。私が養成校を卒業して理学療法士になってから,20年がたとうとしています。私が最初に就職したのは回復期リハビリテーション病棟を中心とした病院で,現在も同様に回復期リハビリテーションを中心とした病院に所属しています。

 私が理学療法士として働いてきた20年間で,リハビリテーションは大きく様変わりしました。思い返すと,私が入職した当時のリハビリテーションは「科学」「根拠」などという言葉で説明できるものではなく,先輩方の経験や勘のように言語化できないものが多かったように感じます。そのため,客観的でわかりやすい指導というより,先輩の背中を見て学ぶ,いわゆる職人を育てるような時代でした。若手だった私は,先輩方の行っている臨床の背景にある一つひとつの理由を深く理解できておらず,多くの悩みを抱え,臨床の楽しささえ感じることができなくなっていたのを覚えています。

 本書は臨床にある代表的な「困った!」を,まるで先輩と一緒に話しながら7つのステップを踏んでどう考えていくかを学ばせてくれる,まさに職人技の部分を言語化してくれる一冊となっています。回復期リハビリテーション病棟には多くの新人セラピストが就職してきます。新人セラピストの中には,私が感じたような悩みを感じている人もいるでしょう。そのような方々にぜひ本書を読んでいただき,臨床の楽しさをわかっていただければと思います。

 毎年多くの新人セラピストが誕生するということは,すぐに先輩という立場になるわけで,後輩を指導する場面に直面します。指導する立場になったとき,後輩に何を,どう教えますか? 後輩は指導者の教え方によって将来が左右されます。私も今まで多くの新人セラピストを指導してきました。教育について学んだことのないわれわれにとって,後輩を指導するのは模索の日々です。本書は,後輩を指導する立場にあるセラピストにとって,何を,どのように教えるかを理解させてくれる一冊になっています。

 本書のタイトルには「回復期リハビリテーションで」とはありますが,回復期リハビリテーションだけでなく,臨床にかかわる全てのセラピストにとって役に立つと思います。本書は,若手が臨床で「困った!」ときには身近な理想の先輩のような助けとなり,先輩となったセラピストが指導で「困った!」ときにはお手本を具体的に示してくれる一冊です。


《評者》 東京都健康長寿医療センター 消化器・内視鏡内科部長

 本書を手に取って直感的に感じる重厚感はその物理的な特性によるものだけではないだろう。

 消化管内視鏡領域の名門『胃と腸』編集委員会がまとめあげた増刊号としての用語集は,「図説『胃と腸』所見用語集2017」など,これまでにも多くの名著がある。初心者に向けた基本から熟練医のための最前線の知識まで網羅しているその完成形は,単なる教科書という枠を超え,各執筆者の消化管内視鏡学に込める情熱が織りなす,もはや一つの作品と言っても過言ではあるまい。

 脈々と受け継がれるその系譜において,「図説『胃と腸』画像診断用語集2022」と王道のタイトルで銘打たれた本書は,さらなる異彩を放つ一冊となっている。表紙を開いてまず圧倒されるのは錚々そうそうたる執筆者の顔ぶれであろうか。しばし眺めていると,その中にさまざまな関係性が見えてきて,あたかも最前線で活躍される執筆者たちの活発な議論を拝聴しているようにも感じられる。これはすなわち,消化管内視鏡学の最前線で走り続ける専門家たちの息づかいを集約した一冊なのであろう。

 総勢約200人の執筆者,計約190項目,掲載画像数約750点の仕上がりは,読む者に圧倒的な存在感を与える。しかしそれでいて,開いたページには常に新しい知識と多くの美麗な画像がちりばめられていて,刺激された知識欲に誘われるがままにさらに次のページをめくってしまう。インターネットで調べれば大概の知識は得られる時代において,本書は書籍というレトロなスタイルでありながらも消化器内視鏡医にとっての知識欲をくすぐり,それを満たしてくれる。まさに,教科書とは本来かくあるべきと感じる一冊である。

 もちろん,この書籍に至るまでには,先達の努力の積み重ねがあったことは間違いない。しかし,インターネット全盛の時代においてここまで知識欲を刺激してくれる本書は,脈々と受け継がれる師弟の関係性に想いをはせつつも,姿勢を正して読みたくなる一冊である。ぜひ初心者から熟練医まで手に取っていただきたい。


《評者》 畿央大ニューロリハビリテーション研究センターセンター長・教授

 現代社会に生きる私たちは,氾濫する情報に日々接している。情報はその信憑性が確認されないままにSNSなどを通じて拡散される。匿名による情報提供は,それが偽りであってもほとんどは謝罪されることはない。このような時代においては,情報リテラシーが必要であることは言うまでもない。情報の拡散は科学的知見にまでも及んでいる。時代背景から,科学論文は加速度的にオープンジャーナル化されている。誰でも簡単に科学的知見を入手でき,その知見を誰でも解釈を加えて発信できる。このような時代だからこそ,受信側だけでなく発信側も責任を負う必要がある。つまり,研究する側の質が問われるわけである。

 「脳科学リテラシーを高めるために」と題された本特集は7論文で構成されている。脳科学研究そのものを扱った論文は2編のみで,それ以外は科学全般を対象としており,編集者の強い意図を感じ取ることができる。

 冒頭論文は「科学論文の書き方・査読のしかた」である。誰でも簡単に投稿できる時代だからこそ,書き物としての美しい表現の大切さについて,本論文を読むことで再認識することができる。研究ビギナーにとっては襟を正すための有益な論文である。その次は「うまい英語で世界一流誌に採択される医学論文の書き方」である。なかなかダイレクトな表題であるが,価値のある結果であったとしても,日本語をそのまま英訳するだけは適切に伝わらない。Comfortable Englishとなるためのコツが本論文にはちりばめられている。その次は「査読対応における科学的推論の論理性」である。演繹的あるいは帰納的論証をどのように査読対応に使うか,査読者と著者のやりとりが公開されるようになった今日ではなおのこと,今一度論理学を正確に学びたいと思わせる内容であった。その次が「生物医学研究の基盤としての医療統計学」である。近年,ますます高度化している統計学であるが,本論文では誤用が多い多重比較法について詳しく書かれている。まずは基本に忠実にというメッセージであろう。

 そして,本丸である「神経活動を解釈するということ」,「機能的磁気共鳴画像法による脳活動の解釈をめぐって」である。脳活動をとらえることは見えないものを見ようとするわけであり,解釈前までの手続きが誤ってしまえば活動の真意を問えない。両論文はそのための手続きを解説してくれている。最後が「科学研究と発表のリテラシー」である。ある専門領域を勉強すると確実にやってしまうのが情報過多な発表である。対象者の注意を適切に操作できていないプレゼンテーションは失敗であり,結果として,誤った情報のとらえ方をされてしまう可能性がある。そうした情報伝達の技法も含めて,科学研究であることを認識させてくれる。

 いずれにしても,どの論文も第一線の方々が書いておられ,文章を読むだけでも研究倫理を獲得した気分になれる。そして,研究領域を超えて本特集は教材として利用価値が高い。ぜひとも手にとっていただきたい特集である。


《評者》 順大大学院特任教授・運動器疾患病態学

 「医学英語論文」を書くことは,医師であれば誰もがごく普通に考えることではあるが,実際には必ずしも多くの医師が英語論文を書いているわけではない。そもそも医師が英語論文を書く理由は何なのか。本書では,「Ⅰ 論文を書く前に」において,このような根本的な疑問に答えることからスタートして,「医学英語論文」を書くことの意義や考え方について述べ,「Ⅱ 英語論文の『作法』」と「Ⅲ 英語論文の基本構造とその対策」において論文の書き方に関する基本的かつ実際的な注意点が丁寧に(まさに手トリ足トリ)解説されている。

 本書は,優れた研究実績を有する整形外科専門医である防衛医大整形外科学講座の堀内圭輔准教授が執筆し,同講座千葉一裕教授の監修のもとに発刊されている。この手の本でよく見られる便利な英文表現や英文法の解説書ではなく,①英語論文作成の作法・決まり事の理解,②指導医,共同研究者,編集者,査読者,読者などの論文作成にかかわる人々とのコミュニケーションの重要性,③英語論文として発表することによる視野の拡大と充実した医師・研究者生活指向の必要性を若手医師・研究者に伝えることを主眼としている。

 インターネット導入前の論文作成の解説書では,適切な英語表現の文例や英文法の提示は重要であったが,現在ではこれらはインターネットで簡単に検索可能となっている。したがって,今求められているのは,効果的なインターネットの使い方である。実際,本書では,コンピュータ・インターネット使用に関する重要情報が随所に盛り込まれている。また,「フォントのserif体とsans serif体」,「文字のスペース」,「略語」,「遺伝子名・遺伝子表記法」,「文献,グラフ作成,作図ソフト」,「データの検定法」などに関する情報は論文作成に極めて有用である。

 本書のもう一つの特徴は,英語論文がほぼ完成してから行われる「校閲の仕方」,「インパクトファクターの問題点」,「投稿先の決め方」,「査読に伴う問題点」,「受理後の作業」,「査読の仕方」など,最終的に論文が発表されるまでの全体像が理解できるようになっていることである。

 一連の決まり事を本書で理解すれば,「あとは書くだけ」ではあるが,全ての人が簡単に医学英語論文を書くことができるわけではない。英語力が必要である。本書の「英語力を養う」の項目で,ポッドキャストや洋楽(英語の歌)が推奨されており,DeepL翻訳ツールなどの機械翻訳の有望性についても触れられている。医学英語論文を書くとの強い意志をもって,本書の各項目における要所を押さえていけば,比較的スムーズにできるようになると思われる。タイトルに「いまさら聞けない論文の書きかた」とあるが,そもそも医師や医学生は「医学英語論文の書きかた」をこれまでにほとんど習っていないことから,本書は若手医師や研究者が学ぶための必読の書であり,できれば医学生にもぜひ読んでほしい良書である。

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