医学界新聞

書評

2022.06.20 週刊医学界新聞(通常号):第3474号より

《評者》 千葉大病院講師・感染制御部・感染症内科

 一人の成人内科専門医および感染症専門医としての視点で本書を読んでみた。青木眞先生の『レジデントのための感染症診療マニュアル』もそうだが,本書の最も読み応えのあるところは「総論」だ。小児と成人の感染症診療のアプローチははっきりと違う。ここでは「小児の免疫の特徴」に多くのページを使っている。これらの特徴をしっかりと把握することにより,成人とは違う病態の気付きなども得られる。また基礎的な病態生理にもしっかりと触れられている。総論でここまで網羅している感染症の本はなかなか見当たらない。それだけ小児感染症診療の実践には基礎的な知識が必要であるということなのだろう。

 読み進めると,所々に散りばめられたメモ欄には,小児科ならではの疾患の知識やクリニカル・パールが詰まっており,これを拾い読みするだけでも勉強になる。各論に入ると,さまざまな治療方法が感染症ごとにまとめられている。欧米で使用できる薬なども日本では使用できず,歯がゆい思いをされている先生方も,日本で小児感染症のトップランナーたちがまとめた実践的な抗菌薬使用方法は,読んで納得することができるのではないだろうか。

 米国では基本は必須としつつも成人感染症の領域は「一般」「移植」「HIV」など細分化しており,例えば普段から固形臓器移植など免疫不全の患者の感染症に触れていないと苦手意識が出るのだが,日本の小児感染症医はオールマイティにこなさなければならない。本書を手に取りながら基礎を学ぶのは,最も効率的と思われる。「小児感染症の本」というのは英語でもなかなか良書に出合うのが難しいが,日本語でこれだけ臨床に実践的な内容が詰めこまれている本があるということ自体,素晴らしいのと同時に世界にもひけをとらない小児感染症領域のレベルを築き上げるのにも役立つだろう。また私が青木先生の本を手に取り感染症医を志したのと同じように,本書を手に取り小児感染症医を志す医学生や研修医も必ず出てくると思う。レジェンドが描く,将来の日本小児感染症診療の世界が楽しみだ。


《評者》 西記念ポートアイランドリハビリテーション病院リハビリテーション科統括科長

 回復期リハビリテーション病棟は2000年4月に制度化され,これまで多くの脳血管疾患や整形疾患の患者さんに対して,回復期のリハビリテーションに取り組んできました。そして,この22年間で高齢化は進み,患者さんが抱える障害像は多岐に変化してきています。

 2022年度の診療報酬改定では,「回復期リハビリテーションを要する状態」の対象に「急性心筋梗塞,狭心症発作その他急性発症した心大血管疾患又は手術後の状態」が追加され,心大血管疾患リハビリテーション料が算定可能となりました。また,重症患者の受け入れ割合が高められたこともあり,今後,回復期リハビリテーション病棟では,重複疾患・障害を有する重症度の高い患者さんを受け入れ,質の高いリハビリテーションを提供し,アウトカムを出すことが求められています。

 しかし,急性期での臨床経験が少ない若手セラピストも多く,多様化・重症化する患者さんに対応できる人材育成が課題となっています。急性期・回復期・生活期と病床機能分化が進んだことにより,症状経過に沿った臨床を経験することが難しく,多様化・重症化した患者さんの状態に合わせた臨床介入に難渋するケースが見受けられます。

 本書は,回復期リハビリテーション病棟の臨床現場で困る事例に焦点を当て,症例把握の「型」を7つのステップに分けルーティン化し,臨床場面で遭遇する悩みや疑問点を解決していく,その糸口となるよう構成されています。第1章では,まず病態把握と症例理解を標準化するため社会的背景・全身状態の把握・リスク管理など7つのステップに分けられ,ルーティン化できる「型」を構成しています。第2章では実際の臨床場面で遭遇する事案に対し,「型」を通しながらどのように情報を収集・整理し,臨床活用していくのか,先輩セラピストと後輩セラピストのQ&A方式で提示されています。難渋症例に対して,先輩セラピストが解釈している視点と,後輩セラピストが解釈している視点にどのような違いがあるのか,その違いをうまく気付かせてくれる内容となっています。本書を通して先輩セラピストの臨床思考を学べる機会となり,また,後輩セラピストが陥りやすい臨床課題がどこなのかを考えさせられます。あらためてセラピスト自らの臨床思考を見直せる良い機会になるものと思います。

 「型から入って型を出る」と言われますが,「型」である7つのステップをルーティン化し,病態把握と症例理解を標準化するための基礎を学ぶことで,さらに「なぜ,そのように考えるのか」と深みのある解釈へつなげられるものと思います。「型」を出て,一人ひとりの患者さんに質の高いリハビリテーションが提供できるように,継続した学びの大切さに気付かせてもらえる書籍です。ぜひ本書を手にとって,7つのステップの「型」を感じとってください。


《評者》 福岡大薬学部教授・医療系薬学/福岡大学筑紫病院薬剤部

 がん医療の現場では,多種職・多診療科によるキャンサーボードなどのカンファレンスが広く行われ,薬剤師や看護師などの医療チームのメンバーが,これまで以上にCT画像を見る機会が増えている。しかしながらメディカルスタッフが読影に関する教育を受ける機会は乏しく,放射線科医が普段から「どのようにとらえ」,「何を予測しながら」読影しているか知ることは難しい。

 本書のポイントは「序」にあるように,到達目標を「自力でCT読影ができる」という高いレベルに置くのではなく,若手のメディカルスタッフが「症例報告会における医師の議論やカルテの記載内容を理解し,患者さんの病態をより深く理解できるようになる」という,取り組みやすくかつ実践的なレベルに設定したことだ。そのため,全編において難解な理論については深く立ち入らずにシンプルな内容に徹し,CT画像に詳しくない読者でもスムーズに内容を理解できる。とはいえ,初学者が学習すべきことはしっかり押さえられており,その結果,本書のターゲットであるがん医療に携わるメディカルスタッフにとって非常に理解しやすい入門書となっている。

 本書は「章」に相当する計7段の「ひきだし」で構成され,1段目の「総論」に続いて2段目では「正常画像」について書かれている。われわれは普段から疾患を抱える患者の画像(異常像)ばかり見ているので,「正常画像と異常像はどのような違いがあり,その二つをどのように比較するのか」という当たり前の視点や考え方を忘れがちなのかもしれない。以前,ある著名な腫瘍内科の医師が,「研修医は患者の(所見や検査値の)悪い点ばかりを探しがちで正常な点を見ようとしない。『(悪い点ばかりの指摘なのに)この患者は生きているのですか』と意地悪く問いたい気持ちになる」とおっしゃっていたことがある。そういう意味で,「まずは正常画像を先に学ぶ」という考え方を,本書が目次上で体現しているのは実践的であるし,好感が持てる。また5段目では臓器別に,6段目では臨床課題別にがんCT画像読影のポイントをさまざまなケースを通して詳しく丁寧に解説している。本書に記載されているようなケースに関する知識が備われば,多くの症例で放射線科医がどのように状態をとらえ,何を予測しているかを推察するには十分であろう。

 がん患者のCT画像から患者の病態をより深く理解するために,ぜひ本書を多くの方に読んでいただき,本書で身につけた「ひきだしの中身」を活用して,がんCT画像に日々接する医療チームの一員として活躍してほしい。

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