医学界新聞

インタビュー 小坂 眞一

2022.05.16 週刊医学界新聞(レジデント号):第3469号より

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 基本的な手術手技の習得は外科医にとって必須であり,それには優れた指導医の下で学ぶのが最短の道のりだ。しかし,誰もが良い学習環境に恵まれるとは限らない。そうした運の良し悪しを解消することを目的に,書籍『切る・縫う・結ぶ・止める 外科基本手技+応用スキル』(医学書院)では外科手術の基本手技を解説する。本書の特徴は,これまで言語化されていなかった「基本手技に通底する理論」までを解説した点にある。本書を上梓した小坂氏が考える,外科医が成長するために重要なこととは。

――多数の手術経験から考える,外科医にとって必須のスキルとは何ですか。

小坂 手術の手技,中でもあらゆる外科領域で基本となる「切る・縫う・結ぶ・止める」は特に重要です。“切る”は切り開くことと切り離すこと,“縫う”は組織を針糸で縫い合わせること,“結ぶ”は糸で体の組織を寄せること,“止める”は出血を止めることを指します。

――若手医師はそうした手技を体得できているのでしょうか。

小坂 十分でないと感じることが少なくないです。私は2011年から9年間,早稲田大学で「早稲田心臓外科塾」と題した技能研修会を40回近く開催し,関東圏の若手心臓外科医らに心拍動下冠動脈バイパス手術を指導していました。その中で,若手医師らの基本手技の熟達度がやや不足していると感じました。基本手技がおぼつかないと,その先の応用技術もままなりません。

――では,基本手技は,どのように習得し,上達させればよいのですか。

小坂 日々の基礎練習の反復と積み重ねです。乳癌の根治術を米国で初めて実施したWilliam S. Halsted(1852-1922)は,「音楽家や演奏家は毎日練習するのに,なぜ外科医はそうしないのか?」と述べています。例えば,すぐに実践できる訓練として糸結びはお勧めです。手術では指の第1関節から先を使いますが,日常生活で使う機会は少ないため,糸結びは指先を使ういい訓練になります。私はマグネットクリップで紐の真ん中を挟んだ道具を自作して,糸結びの練習をしています。紐に左右で違う色を付けることで,糸の向きやねじれを視覚的に認識できます。持針器,鑷子なども高価な道具ではないので,自分で購入していつでも練習できるようにしておくとよいでしょう。

 また,手術における非利き手の役割は大きく,利き手による操作の巧拙を左右するほどです。箸やはさみを用いる時など,生活の中で非利き手を意識的に使うことを推奨します。

小坂 技術的修練に取り組むに当たっては,基本手技に通底する理論を押さえておくことも非常に重要です。「昨日は針を安定して動かせたが今日は安定しなかった。理由もわからない」では,患者の命を預かる手術は成り立ちません。手技に関連する物理的原理や,手指の解剖と機能的特徴など,日頃何気なく行う多くの手技や道具の使い方に通ずる原理原則を知る必要があるのです。これらの理論を......

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医療法人SHIODA塩田病院 副院長/総合診療科・血管外科 部長

1975年日医大卒。78~80年榊原記念病院心臓外科レジデント。82~84年ニュージーランドに心臓外科留学。94年帝京大市原病院心臓血管外科部長。国際医療福祉大教授,大和成和病院院長などを経て,20年より現職。著書に『冠状動脈バイパス手術手技』(南江堂),『切る・縫う・結ぶ・止める 外科基本手技+応用スキル』(医学書院)。編著に『心臓・大動脈外科手術 基本・コツ・勘所』(医学書院)。
 

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