MEDICAL LIBRARY 書評・新刊案内
書評
2022.04.18 週刊医学界新聞(通常号):第3466号より
《評者》 柳澤 昭夫 京都第一赤十字病院病理診断科特別顧問/京府医大大学院特任教授・人体病理学/名誉教授
拡大内視鏡像と病理組織像が厳密に対比された一冊
胃癌の診断・治療の進歩は著しいものがある。拡大内視鏡の診断もその一つであるが,内視鏡診断において最も重要な点は,通常内視鏡観察による病変の認識である。病変の認識がない状態での拡大内視鏡観察や病理所見との対比は成り立たない。本書は,タイトル『胃の拡大内視鏡×病理対比アトラス』から推察されるように,内視鏡で観察された所見と病理組織像をより正確に1対1対応させることにより,内視鏡で観察される所見が,どのような組織形態により成り立っているか解説したものである。
正しい内視鏡診断は,観察されている内視鏡像がどのような病理組織像により成り立っているか理解することで得られることは言うまでもない。本書を読むことにより,内視鏡観察により認識された病変が,どのような病理組織像により成り立っているか理解することで,病変の認識・診断が容易になるとともに,より興味深いものとなることが期待できる。
内視鏡像と病理組織像の対比が行われている成書は多く出版されているが,本書のように内視鏡像と病理組織像がこれほど厳密に対比されているものはほとんどない。内視鏡像と病理組織像の対比は,内視鏡医と病理医との協力があって初めて成り立つものであり,両者の協力があって初めて,このような書籍が出版されることになる。本書を読んでいただければ理解されると思うが,実際にここまで厳密に拡大内視鏡像と病理組織像を対比した成書は,なかなか見当たらない。
「I章 総論」では,まず拡大内視鏡の基本が明確,簡潔に述べられており,拡大内視鏡像を容易に理解することを可能にしている。次に,内視鏡所見と病理組織像とのより正確な対比方法が述べられている。内視鏡的に切除された標本と病理組織像をより正確に1対1対応させることは決して容易ではないが,その方法がより丁寧にわかりやすく解説されている。ここで紹介している“KOTO method”は,内視鏡観察所見が病理組織像のどのような形態を反映しているかを正確に知る上で重要な方法であることが理解される。そして,この方法で対比された内視鏡像と病理組織像が具体的に提示されているが,両画像の関係が一目瞭然であることがわかる。
「II章 症例提示」では,通常内視鏡観察像,拡大内視鏡像,切除された標本像と“KOTO method”で1対1対応して得られた病理組織像が掲載されている。通常内視鏡観察像や拡大内視鏡像が,どのような病理組織像を基に形成されているかを理解する上で有用となることが期待される。
内視鏡像と病理組織像の対比は,あくまでも通常内視鏡観察で病変を見つけ,次のステップで生検などの確定診断を行い,内視鏡切除の治療が行われて可能となる。前述したように,通常内視鏡観察で病変を認識することが最も重要であることは言うまでもないが,このような内視鏡像で病理組織像を想定することにより,より正しい内視鏡診断が得られることが期待される。
最後に,本書は,「序」で新潟大地域医療教育センター・魚沼基幹病院消化器内科 八木一芳先生が述べられているように,西日本の京都,奈良,神戸,岡山,高知の若手からなる拡大内視鏡研究会での症例を基に作成されたものである。研究会での内視鏡医と病理医の熱心な意見交換があって初めてこのような成書が成り立ったことが行間(写真間)から伝わってくる。このような病理医と内視鏡医との親密なる意見交換が行われることにより,ほとんどの胃癌が侵襲のない治療法で治癒されるようになるために,本書が貢献することが期待できる。
《評者》 生野 公貴 西大和リハビリテーション病院
「生きた評価」を扱った若手PTにベストバイな参考書
「理学療法士は評価に始まり評価に終わる」。この言葉は,私が養成校の学生時代に教員の先生から事あるごとに聞かされた言葉である。当時はそれほど“評価”が重要なものと考えていなかったが,臨床実習に出ると,その考えは即座に打ち砕かれ,「評価に始まり評価に終わる」が理学療法にとっていかに重要か痛感したことを鮮明に覚えている。
理学療法評価における各種の検査測定項目は,この20年で大きく変化している。20年前の教科書を眺めてみると,そこにはアウトカム(帰結評価)という概念が乏しく,定性的な評価が数多く記載されていることに気付く。本書で取り上げられている項目は,普遍的な評価法に加えて,近年の研究結果に基づくアウトカム評価がよいあんばいで付け加えられており,必要最低限どころか高い水準で理学療法を実施するための評価が十分そろっている。
本書を読んだ第一の感想が“生きた評価”が使われているという点である。それは,執筆された先生方が臨床の最前線において高いレベルで理学療法を実践し,現場で活用されている評価を産地直送しているからであろうと想像する。疾患別の章では,病態評価に使われるもののほかに,疾患特異的QOLの評価項目が数多く取り入れられている。理学療法が何を目的に行うのかをICF(International Classification of Functioning, Disability and Health)に準じて臨床思考を進めておられる先生方だからこそ,これらの評価を取り入れる重要性が強調されているのであろう。
また,総ページ数656ページという本書のボリュームにも圧倒される。その中でも,理学療法の共通項目には約250ページも費やされている。理学療法が疾患別に存在するものではなく,その障害に対して評価し,介入を考える職種であることが体現されていると言える。もし,私が学生で,600ページもある評価を全て頭に入れておかないといけないと思うと気が滅入るだろうが,現実問題として必要になるので「頑張って勉強してください」としか言いようがない。ただし細かい評価手法まで完璧に暗記しておく必要はなく,必要なときに本書を片手に正確に実施すればよい。本書は臨床実習に出る学生や新人理学療法士にベストバイな参考書であろう。
学生や新人療法士には,本書をバイブルとして,どのように自分自身で評価を体系化するかが重要であるとアドバイスしたい。ただ単に評価項目を満遍なく実施することで“評価”が終わるわけではない。評価項目を取捨選択し,解釈し,仮説を構築し,介入を行い,再度評価し結果を再考する,というプロセスを常に回し続けなければいけない。このプロセスの精度と効率が上がることが,いわゆる臨床力の向上である。私は「理学療法士は評価に始まり評価に終わる」という言葉の意味は,このプロセスの習熟した最終形態と理解している。評価も生き物であり,この20年で普遍的な評価項目が変化してきたように,研究成果によって今後も日々更新されるはずである。まずは本書で理学療法評価における“State of the art”を学んだ上で,さらに個々で発展されることを願う。
《評者》 佐々木 淳 医療法人社団悠翔会理事長・診療部長
専門職による「地域づくり」のイメージが動き出す
在宅医は「生活を支える医療」を行っていると自任している。
しかし,実は全然生活を支えてなんていない。
在宅医にできるのは,せいぜい看護・介護職の人たちの仕事を邪魔しないことくらいだ。しかし,その看護や介護にしても生活の全てを支えられるわけではない。
「日々の暮らし」の中で,医療保険や介護保険の公的サービスで支えられる部分なんて,実はごくわずか。要介護高齢者の場合,そうでないように見えるのは,それ以外の暮らしを最初から諦めさせているから。そんなことに気が付いてしまった専門職の方々は少なくないはず。
高齢者福祉の目的は「生活・人生の継続」。どのような生活・人生を送るのか,それは本人が選択すべきだ。そして,その生活の支援に当たっては,本人の強みが発揮できることが重要である。これが1970年代にデンマークで提唱された高齢者福祉政策の三原則だ。
しかし,日本の公的サービスの多くは,その人の「弱み」を補完し,その人が事故を起こさないよう生活を管理し,支援者の都合によって人生の最終段階を過ごす場所や治療方針が選択される。
納得できる人生を最期まで生き切る。そのために必要なのは,その人の生命・生活・人生を医学モデルで支配することではない。その人の望む生き方を実現するための環境を整えることである。これがICF・生活モデルの考え方だ。
高齢者医療や介護には,衰弱していくその人の心身の機能を最適にケアすることが求められる。しかし,これだけでは,その人を「生かす」ことで終わってしまう。大切なのは,その人が「生きる」こと。そのために必要なのは,栄養やリハビリテーションや薬ではない。人と人とのつながり,つながりの中に自然発生的に生まれる居場所や役割,そしてそこに心の支えや生きがいを見いだせること。そして,そこまでできて初めて,その人のニーズを満たすことができるのではないかと思う。
しかし,専門職が専門性を磨けば磨くほど,生活モデルを実装するのは難しくなっていく。真面目に仕事をしようとすればするほど,その人を,その人の生活空間の中に閉じ込め,地域とのつながりをおろそかにしてしまう。
その人の「病気・障害」の専門家から,「その人」そのものへ,そして「その人の生活」へ,さらに「その人の暮らす地域」へ。少しずつ視座を上げていく。
「その人の生活」まではなんとかかかわれる。しかし,「その人の暮らす地域」までコミットするのは容易ではない。
どうすればいいのか?
何ができるのか?
そもそも自分たち専門職にできるのか?
しかし,ICF・生活モデルを突き詰めていくと,どうしても,この「地域の壁」にぶち当たる。いや,そもそもこれは壁なのか? 壁だとすれば,それは誰が作っているのか?
行政? 地域住民? それとも自分たちの意識?
そんなこんなでもやもやしている在宅医療・介護にかかわる方々へ。まずはこの本を読んでみたらどうだろう。
読み進めていくと,これまで「壁」だと思っていたものが,大きなキャンバスに見えてくる。プラスチックワードの一つにすぎなかった「地域づくり」が,多種多様なイメージとなって,頭の中にどんどん広がっていく。ワクワクしてきて,頭に浮かんだあの人と,1秒でも早く動き出したくなる。誰もが心のどこかに隠し持っているアイデアを実現化するための「地図」と言ってもいいかもしれない。
自分たちがコミットしたい地域はどこか。その地域で,まずは点と点をゆるやかにつないでいく。柔軟性のある結び目が,しなやかな協働・共生のプラットフォームとなって,そしていろんな人たちが,そのプロセスを楽しみながら地域のつながりを多層化していく……。
本書の誘惑に,多動な僕はもうじっとしていられなくなっている。
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