医学界新聞

書評

2022.04.04 週刊医学界新聞(通常号):第3464号より

《評者》 鹿児島大名誉教授

 日本は世界で一,二を争う高齢化率の超高齢社会である。人口の高齢化の進行の中で医療と福祉の連携体制強化に努めてきたが,今回の新型コロナウイルス感染症の拡大ではその備えの弱点が明らかになっている。また新型コロナウイルスに感染したハイリスクの高齢者への医療で並存疾患の悪化への対応に苦労していることから,高齢者へのリハビリテーション医療の体制強化への関心が高まっている。

 本書は初版の発刊から50年近くの長い歴史を持つが,常に高齢者の疾病構造の変化とそれに伴う医療体制やリハビリテーション治療の変遷に対応して内容の拡充を継続しており,リハビリテーション医療に従事する者あるいはそれを志す者にとって,常に新しい知識と技術が得られる必読の書となっている。

 高齢者への医療では疾病の診断と治療,さらにリハビリテーション医療と,切れ目なく必要な医療を提供することの重要性への認識が強まっている。特にリハビリテーション医療は,脳卒中や心不全など特定の疾患だけでなく,全ての診療科における基礎的な治療として不可欠な存在となっている。

 本書はリハビリテーション医療が置かれた環境への対応の必要性を敏感に反映して,高齢者を取り巻く社会環境の変化や加齢に伴う身体機能の変化の概略を説明した後,医療における高齢者の尊厳を守ることへの配慮,さらには終末期におけるリハビリテーション医療の注意点を述べている。

 「IV.主な老人性疾患のリハビリテーション」の章では,高齢者に多い中枢神経系から内臓,運動器の疾患までの幅広い疾患を取り上げているが,いずれの疾患についても多くの図表を用いて障害の特徴や治療内容の理解を容易にしている。特に脳卒中については,急性期医療の説明に多くの写真や図を用いて,急性期の手術室から回復期,慢性期への医療の流れを読者に実感させて,その流れの中で行われるリハビリテーション治療を詳細に説明している。さらに,その画像診断は豊富なCTやMRIを用いて詳細に説明し,病巣部位の診断を容易にしている。高次脳機能障害についても,失語や失行失認,認知症の症状と病巣の関連を,豊富な画像と図表でわかりやすく説明している点は特筆すべきである。

 「V.知っておくべき多様な問題点」の章では,ノーマライゼーションの重要性,障害者心理への理解,廃用症候群,嚥下障害などリハビリテーション治療で配慮すべき事柄について,漏れなく取り上げている。

 本書が多くのリハビリテーション医療の関係者に愛読されて,高齢者のリハビリテーション治療に残る課題が少しでも解消され,多くの障害を持つ高齢者に恩恵があることを願っている。


《評者》 豊田地域医療センター総合診療科・教育顧問

 私は総合診療医ですが,体系的な皮膚科の教育を受けたことのない世代でもあり皮疹の診断は苦手です。

 皮疹の診断ができるといいと思いつつも,勉強してもなかなかすっきりわかるようになりませんでした。

 わからないから苦手意識が募りますが,そうかといって何でも皮膚科医に診てもらうわけにもいかない,という困ったジレンマに陥り,すっきりしないがとりあえず外用薬を出しておこうという診療になってしまいがちです。

 この理由の一つは,本書にもありますが,皮疹の現れ方は多種多彩なので典型的な皮疹をマスターしてそれを応用して診断するという戦略が取りにくいことにあります。つまり,教科書にある写真との「絵合わせ」では典型的な皮疹以外は診断ができるようにはなりません。

 さらに,皮膚科疾患の病名は内科に比べて桁違いに多いのも要因です。診断するためには,分類の基準となる疾患名の命名が必要ですが,これが皮膚科領域では錯綜しています。

 病名付けの軸となる視点が,原因物質,病因,部位,年齢,臨床像(見え方)など多数あるため,疾患名の数が膨大になります。同じモノに違う病名が付くことがあり,非専門医にとって混乱の原因になります。

 これも本書に書かれていますが,皮膚科医でもわからないものはわからないので(こう言い切ってもらえると安心します),とりあえず病名を付けるためにこうした命名体系になっているのだろうと思われます。

 これらの理由で非専門医には,システム1を形成して直感的に診断していくには無理があるのです。

 さて,そんな苦手な皮疹の診断ですが,この本で勉強すると頭の中に地図ができて大まかな方向性が見えてくるでしょう。本書が提案するのは,判別しやすい皮疹表面の性状に着目して組織学的病変と対比しながら区別していくという比較的シンプルな診断推論の戦略ですが,これをマスターすれば今までの教科書を読んでもわからなかったことがわかり,なぜわからなかったかも少し理解できるようになると思います。

 皮膚科領域の診断推論の地図を与えてくれる本書は,皮疹を診なければならない非専門医,プライマリ・ケア医にこそお薦めの教科書です。

 最後になりますが,本書では,拙著『誰も教えてくれなかった診断学――患者の言葉から診断仮説をどう作るか』(医学書院,2008)に多大なる賛同をいただきました。この本で診断の思考プロセスを紹介して以降,「診断推論」の概念が臨床医に浸透し,いろいろな分野で発展,応用されているのは非常にうれしいことです。「診断推論」がさらに病に苦しむ人たちの助けとなることを願って筆を置きます。


《評者》 弘前大大学院教授・総合リハビリテーション科学

 理学療法における評価は,障害の把握,治療方針,目標設定のために行う。理学療法を行う上での基盤となるものである。正しい知識を基に,適切な技術で評価を行う必要がある。いまさら述べるべきことでもなく周知されてはいるだろうが,意外に十分達せられていない自分に気付くことが多い。

 本書は,各評価の基本を述べた共通事項,また障害・疾患別の脳血管障害,脊髄障害,運動器障害,内部障害,神経筋疾患,小児系疾患,がん,高齢期に章分けされている。章ごとに各障害・疾患の代表的な機能障害,能力障害に関する評価項目が並べられ,それぞれ評価の基本,評価方法,注意点,どう活用するか,の要素に分けて述べられている。

 評価の基本は,評価法の紹介だけではなく,引用文献を基に簡単な歴史的背景も述べられている。評価方法については,より臨床的に解説されており,実際の理学療法の場面で役立つはずである。また,注意点は,評価する際のポイントやアドバイス的な内容も盛り込まれ,かといって分量が多いわけではなく,無駄を省いた簡潔なカラーの紙面で,非常に読みやすく,眺めるだけでも好感が持てる。

 感心した点の一つに,評価項目ごとに「どう活用するか」という要素が設けられていることが挙げられる。評価の臨床的な意義について述べられており,いわば評価の手順書とは異なった構成になっている。

 私も古い人間の部類に足を踏み入れており,「昔はこんな評価法はなかったよな……。何だろうこれ?」と思ってしまうようなさまざまな略語の評価法が散見されるようになった。評価法は数え上げればきりはないだろうが,私が見る限り,ここまで主要な評価法を解説している書籍は,近年では珍しいと思う。そして,つい読み入ってしまうほど,読みやすく,かつわかりやすい。いわば“教科書”のような堅苦しさが感じられないのである。

 A5判のコンパクトな本書は,学生であれば臨床実習に携帯してもよいだろう。臨床に出て間もない新人であれば,臨床実践のヒントとして役立つはずである。仮にベテランと呼ばれる年代であっても,復習の意味で読む価値はある。まだ知らないことも多い。

 ぜひ手に取って,あらためて評価の意義を感じ取っていただきたい一冊である。

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