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老人のリハビリテーション 第9版

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高齢者に生じる疾患とその障害のリハビリテーションについて詳細に学べる好評テキストの改訂第9版。今版では、新たに「終末期のリハビリテーション」の章が新設された。また主要な神経や脳の疾患を中心に、各ガイドラインの内容も踏まえながら、最新の情報に基づき解説が更新されている。写真やイラスト、図表も満載で初学者にもわかりやすいフルカラーテキスト。

原著 福井 圀彦
前田 眞治 / 下堂薗 恵
発行 2022年02月判型:B5頁:440
ISBN 978-4-260-04805-7
定価 6,600円 (本体6,000円+税)

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第9版の序

 2019年11月に発生した新型コロナウイルスで,日本をはじめ世界は感染症のパンデミックとなり,人々は恐怖と不安に襲われた。高齢者の感染による死亡率も高く,医療職をはじめ多くの関係者は多大な感染への配慮と医療の供給を余儀なくされた。社会の情勢も在宅勤務のようにコンピュータなどを用いたリモートで仕事をするような情報・働き方改革が進み,高齢者や障害者の仕事や生活のあり方も変貌した。
 本書は1975年に初版が発行され,50年近く経過している。その間,脳卒中などによる死亡率は減少し,がんや心臓疾患で亡くなる人が増える疾病構造となった。それに加えての特徴は,天寿をまっとうし老衰で亡くなる人が死亡原因の3位になっていることである。目を見張るのは,平均寿命(2020年は男性81.6歳,女性87.7歳)の延びとともに健康寿命の顕著な延びで,より健康な状態で長生きするようになっている。
 このような疾病構造の変化の中で,高齢者のリハビリテーションも変化し,以前は治す手立てがなく死亡することの多かったがんも医療の進歩により,予防するだけでなくその治療が格段に進歩している。そのためがんに罹患したとしても死に至る頻度が年々低くなり,がんを患いながら生活し,がんではなく老衰で亡くなる人が増えてきている。第9版ではこのことから生活習慣病やがんのリハビリテーションについても触れているが,その後の人生最後のリハビリテーションと考えている「終末期のリハビリテーション」を新たに執筆している。また,脳卒中リハビリテーションの最先端としての川平法についても詳細に解説している。
 本書の「老人」という言葉は,一般的に「老いる」ととらえがちであるが,江戸時代の「老中」という言葉に代表されるように「老」という崇高で気高い地位の人を示す言葉と考えている。人生を長く生きてきて多くの知識や経験をもつ立派な人として,尊敬の念をもって本書の中ではときに「老人」と表現していることを引き続きご理解していただきたい。
 第9版より,鹿児島大学大学院リハビリテーション医学の川平和美前教授の後継者で,川平法の第一人者である新進気鋭の下堂薗恵教授に加わっていただき,川平法などの新規記載とともに,バトンを次の世代に託し多くの部分を執筆いただいた。今後も,本書がリハビリテーションに関わる多くの医療者の学問と臨床に貢献する書物であり続けることを願うものである。

 2021年12月
 前田眞治

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I.加齢と疾患
  A.老化の特徴
  B.加齢に伴う変化
  C.高齢者の疾患の特徴
  D.高齢者に比較的特徴的な疾患
  E.高齢者の機能低下の特徴

II.老人の尊厳とその接し方
  A.老人の尊厳について
  B.接し方
  C.老人の訴えの特徴

III.終末期のリハビリテーション
  A.終末期のリハビリテーションとは
  B.終末期医療をめぐる問題
  C.インフォームドコンセントとアドバンス・ケア・プランニング
  D.右肩下がりの終末期のリハビリテーションを考える

IV.主な老人性疾患のリハビリテーション
 1 神経疾患とそのリハビリテーション
  A.脳血管障害のリハビリテーション
  B.血管内手術
  C.脳卒中発症直後の血圧管理とリハビリテーション
  D.脳卒中治療の未来と展望
  E.脳血管障害リハビリテーションの骨組み
  F.医学的リハビリテーションの実際
  G.脳卒中リハビリテーションの流れ
 2 脳血管障害の画像診断
  A.発症後早期の画像診断
  B.脳卒中の頭部CT所見
  C.脳卒中の頭部MRI画像
  D.脳画像各レベルの見かた
  E.脳回の同定法
 3 脳損傷と高次脳機能障害
  A.前頭葉
  B.頭頂葉
  C.後頭葉
  D.側頭葉
  E.島回
  F.辺縁系
  G.脳梁
  H.視床
 4 失語症,失認,失行と記憶・回復
  A.失語症
  B.失認,失行
  C.リハビリテーションで問題となる失認
  D.リハビリテーションで問題となる失行
  E.失認,失行のリハビリテーション
  F.記憶
  G.回復の機構
 5 パーキンソン病のリハビリテーション
  A.臨床症状
  B.診断,評価
  C.治療
  D.リハビリテーション
  E.食事動作に対する対応
  F.排泄に対する対応
 6 心臓疾患のリハビリテーション
  A.高齢者の心臓の生理,病理
  B.高齢者の心臓疾患
 7 呼吸器疾患のリハビリテーション
  A.高齢者に多い慢性呼吸器疾患
  B.高齢者の慢性呼吸器疾患の治療とリハビリテーション
  C.呼吸障害患者に対する訓練法
 8 腎臓・尿路疾患のリハビリテーション
  A.腎臓のリハビリテーション
  B.尿路疾患のリハビリテーション
 9 生活習慣病のリハビリテーション
  A.生活習慣病
  B.メタボリックシンドローム
  C.糖尿病のリハビリテーション
  D.高血圧患者のリハビリテーション
  E.脂質異常症のリハビリテーション
  F.肥満・肥満症の運動療法
  G.高尿酸血症・痛風の運動療法
 10 肝疾患のリハビリテーション
  A.非アルコール性脂肪性肝疾患,非アルコール性脂肪肝炎
  B.肝硬変のリハビリテーション
 11 認知症のリハビリテーション
  A.高齢者の心理的・精神的変化
  B.認知症
  C.主な認知症性疾患の病態と症状
  D.認知症高齢者のケア
  E.その他の精神障害とリハビリテーション
  F.認知症対策と生活管理
 12 運動器疾患のリハビリテーション
  A.高齢者の骨折
  B.高齢者の転倒予防
  C.骨粗鬆症
  D.腰痛のリハビリテーション
  E.変形性膝関節症
  F.肩甲関節周囲炎(四十肩,五十肩)
  G.ロコモティブシンドローム,サルコペニア,フレイルなど高齢による症候群
 13 脊髄損傷のリハビリテーション
  A.脊髄の解剖と脊髄損傷
  B.高齢者の脊髄損傷の特徴
  C.急性期の合併症と呼吸理学療法
  D.慢性期の呼吸理学療法
  E.麻痺の評価
  F.身体的リハビリテーション
  G.脊損高位と到達レベル
  H.理学療法
  I.作業療法
  J.自律神経機能障害
  K.排尿・排便管理
 14 切断者のリハビリテーション
  A.切断部位と義肢の名称
  B.下肢切断
  C.上肢切断
  D.切断を生じる主な末梢血管性疾患
  E.末梢血管性疾患の予後,治療,リハビリテーション
 15 関節リウマチのリハビリテーション
  A.年齢分布
  B.症状
  C.診断基準
  D.治療
  E.リハビリテーション
  F.生物学的製剤登場以降のリハビリテーション
 16 悪性腫瘍(がん)患者のリハビリテーション
  A.がん患者のリハビリテーション
  B.がん患者と廃用症候群
  C.緩和ケアにおけるリハビリテーション

V.知っておくべき多様な問題点
 1 障害者の心理
  A.障害者の人権
  B.ノーマライゼーション
  C.人間のもつ防衛機制
  D.リハビリテーションと心理
 2 廃用症候群,誤用症候群,過用症候群
  A.廃用症候群
  B.誤用症候群
  C.過用症候群
 3 嚥下障害
  A.嚥下障害とは
  B.病態生理
  C.嚥下障害の原因疾患
  D.嚥下障害の診断
  E.嚥下障害の検査
  F.嚥下訓練
  G.嚥下障害の治療法
  H.実際の嚥下障害食
  I.その他の嚥下訓練

文献
索引

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「老い」に寄り添い,人の生活を支えていることを自覚するために
書評者:村田 和香(群馬パース大教授・作業療法学)

 当たり前のことであるが,人は突然に老人としてこの世に現れるわけではない。生を受け,愛くるしい赤ちゃんが愛され育まれて子どもの時間を過ごし,成長し大人になる。同時に,行動範囲が広がり,活動や社会参加が増えていき,大人として社会生活の営みを持つ。成熟した時間を過ごし,「老い」とともに自分らしさや幸せ,生きる意味を追究していく。そんなある時,病気となり,障害を持ち,老いた対象者としてリハビリテーション・スタッフの前に現れる。

 私たちには,今,目の前にいる対象者の姿しかわからないが,人の生きてきた時間の長さや空間の広がりだけでなく,その時代の出来事をも受け止めていくことは,リハビリテーションにとって大切なことと感じている。本書第9版の序にあるように,新型コロナウイルス感染症の蔓延により,私たちの生活は変化した。高齢者や障害者も大きな影響を受け,決して以前と同じ生活には戻らないかもしれない。

 人生の節目は確かにあるが,一連の流れの中で人やその生活,「老い」をとらえなければ,支えることはできない。それでも,やはり老人のリハビリテーションの特殊性がある。それを学ぶ上で,本書には版を重ねてきた強さがある。

 「老い」を体験している人のリハビリテーションを,「老い」を具体的に生活の中で体験していない者が治療者となり考え,実践する。障害に老いと病気が加わる大変さ,壮絶さについて若い学生が学んでいくのは,考えてみるとかなり難しく,本質を理解するのは無理な話かもしれない。そんな時には,本書の「II 老人の尊厳とその接し方」が参考になる。この章では,人に対する姿勢が示されている。人間の尊厳は,全ての人に共通するものではあるが,老人であるがゆえの多様性をとらえる接し方が具体的に書かれている。

 人生をまとめる意味をまだ考えたことのない若いスタッフが,リハビリテーションを担当することだってある。けれど,それは決して悪い面だけではない。治療者側が自覚した上でのことではあるが,若さは十分武器になる。高齢になったからこそ果たすことのできる社会での役割もある。それには,若者と接する機会が,たとえ医療の場面であっても重要だと感じる。そのため,その役割がどんな意味を持つのか,治療に当たる若者は知っておかなければならない。高齢化が一層進む社会の中では,この両者の経験は一層大切ではないだろうか。

 今回の版で加わった「III 終末期のリハビリテーション」は,今後ますます発展していくであろう。特に「右肩下がりの終末期のリハビリテーションを考える」の項は,明るい前向きのリハビリテーションと少々違う意味付けが加わる。「老い」もそうであるが,死と向かい合うことの意味を,リハビリテーションの中にどうおくべきかが興味深い。また終末期の問題は,老人のみならず家族の問題でもあり,社会の問題でもある。リハビリテーションに携わる者として,ここに大きく貢献できると信じている。


高齢者のリハビリテーションへの知識と技術が得られる必読の書
書評者:川平 和美(鹿児島大名誉教授)

 日本は世界で一二を争う高齢化率の超高齢社会である。人口の高齢化の進行の中で医療と福祉の連携体制強化に努めてきたが,今回の新型コロナウイルス感染症の拡大ではその備えの弱点が明らかになっている。また新型コロナウイルスに感染したハイリスクの高齢者への医療で並存疾患の悪化への対応に苦労していることから,高齢者へのリハビリテーション医療の体制強化への関心が高まっている。

 本書は初版の発刊から50年近くの長い歴史を持つが,常に高齢者の疾病構造の変化とそれに伴う医療体制やリハビリテーション治療の変遷に対応して内容の拡充を継続しており,リハビリテーション医療に従事する者あるいはそれを志す者にとって,常に新しい知識と技術が得られる必読の書となっている。

 高齢者への医療では疾病の診断と治療,さらにリハビリテーション医療と,切れ目なく必要な医療を提供することへの重要性の認識が強まっている。特にリハビリテーション医療は,脳卒中や心不全など特定の疾患だけでなく,全ての診療科における基礎的な治療として不可欠な存在となっている。

 本書はリハビリテーション医療が置かれた環境への対応の必要性を敏感に反映して,高齢者を取り巻く社会環境の変化や加齢に伴う身体機能の変化の概略を説明した後,医療における高齢者の尊厳を守ることへの配慮,さらには終末期へのリハビリテーション医療への注意点を述べている。

 「IV.主な老人性疾患のリハビリテーション」の章では,高齢者に多い中枢神経系から内臓,運動器の疾患までの幅広い疾患を取り上げているが,いずれの疾患についても多くの図表を用いて障害の特徴や治療内容の理解を容易にしている。特に脳卒中については,急性期医療の説明に多くの写真や図を用いて,急性期の手術室から回復期,慢性期への医療の流れを読者に実感させて,その流れの中で行われるリハビリテーション治療を詳細に説明している。さらに,その画像診断は豊富なCTやMRIを用いて詳細に説明し,病巣部位の診断を容易にしている。高次脳機能障害についても,失語や失行失認,認知症の症状と病巣の関連を,豊富な画像と図表でわかりやすく説明している点は特筆すべきである。

 「V.知っておくべき多様な問題点」の章では,ノーマライゼーションの重要性,障害者心理への理解,廃用症候群,嚥下障害などリハビリテーション治療で配慮すべき事柄について,漏れなく取り上げている。

 本書が多くのリハビリテーション医療の関係者に愛読されて,高齢者のリハビリテーション治療に残る課題が少しでも解消され,多くの障害を持つ高齢者に恩恵があることを願っている。

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