医学界新聞

対談・座談会 神野正博,園田幸生,角田直枝,小松﨑香

2022.03.28 週刊医学界新聞(看護号):第3463号より

3463_topics.jpg

 2014年に創設された「特定行為に係る看護師の研修制度」(以下,特定行為研修)の認知度は徐々に高まり,修了者も4393人(2021年9月現在)に増えた()。一方で,特定行為研修修了者(以下,修了者)に対する組織内の理解や活用が課題となっている。修了者が活躍するためにはどのような方策が必要か。本座談会の司会を務める神野正博氏は,2010年5月から36回にわたり開催された厚労省「チーム医療推進のための看護業務検討ワーキンググループ」の構成員として,特定行為研修の具体的内容の策定にかかわってきた。修了者の育成と活用に関与する医師,看護管理者と共に,出席者各氏の施設()の現状と課題を踏まえながら,修了者が活躍できる組織マネジメントを議論する。

3463_0102.jpg
 特定行為研修修了者数の推移(厚労省資料より)
3463_0101.jpg
 4病院における概要(2022年3月1日現在)

神野 修了者の量的拡大とともに質の高い活躍を支えるには,組織マネジメントの在り方が鍵を握ります。初めに,皆さんの病院における修了者の現状を教えてください。

小松﨑 急性期病院である上尾中央総合病院は,特定行為の指定研修機関として2015年から研修を開始し,院内外の132人が修了しました。当院には現在,30人の修了者が在籍しています。

角田 同じく急性期病院の茨城県立中央病院には,近在の指定研修機関で研修を修了した23人が勤務しています。制度創設の2014年当時,2025年までに修了者を10万人とする厚労省が示した数値目標と全国の看護師数を基に,以来当院における育成人数の目標を36人として取り組んできました。現在は,常勤看護師約500人の5%近くまで増え,2023年には目標を達成する見込みです。

神野 厚労省が「10万人」とした根拠は,急性期病院の各病棟,各勤務帯に常時1人以上の配置を想定してのことです。率先してこの割合をめざし養成を図ってきたわけですね。

角田 はい。がん看護専門看護師で訪問看護ステーションの管理者経験がある私も,専門看護師として特定行為の理解を深める必要があると考え,2021年9月に修了しました。

神野 それは積極的な取り組みです。地域における特定行為の課題は後ほど伺います。続いて,医師の立場からご出席の園田先生より,済生会熊本病院の状況をお話しください。

園田 三次救急医療機関の当院は2020年度から指定研修機関となり,現在8人の修了者が活動しています。病院総合医の私は,包括診療部という病棟専属の多職種からなるチームにて,現場目線の組織マネジメントに関与しています。特定行為研修には準備段階からかかわり,指導者として研修や修了者のフォローアップに取り組んでいます。

神野 私からも自施設の状況を紹介します。石川県七尾市にある恵寿総合病院は2016年に特定行為研修の指定研修機関となり,当院から27人が修了しています。第1期生は認定看護師資格を持つ管理者に研修を受けてもらいました。目的は,次の修了者を教える「屋根瓦式」の教育体制を整えるためです。皆さんの病院では,修了者の養成はどうスタートしましたか。

角田 当院も同じく,認定看護師から特定行為研修を受けてもらいました。

小松﨑 私たちの病院も,スタッフの指導的立場にある認定看護師から受講しています。

神野 研修を終えた修了者は現在,どのように活動していますか。

角田 特定行為の実施以外に,臨床場面での相談対応や指導,院内研修における指導など病棟横断で活躍しています。1人目に受講を推奨した看護師は,救急看護認定看護師として救急外来に勤務する副師長でした。今は良きロールモデルとなり,特定行為研修を受講する希望者が広がっています。修了者は研修で学んだ臨床推論やフィジカルアセスメントに関する院内研修を数多く実施し,教育にも貢献しています。

園田 当院も主に認定看護師取得者から研修を受けました。特定行為の実施以外にスタッフの指導的立場に立つことも期待してのことです。配属から間もないため,特定行為が十分に実施できないとの悩みを吐露する修了者もいますが,特定行為ができる/できないよりも,学んだ臨床推論やフィジカルアセスメントを,若いスタッフに教えるのも大切な役目だと伝えています。

神野 250時間ある必須の共通科目では,臨床推論やフィジカルアセスメントなど,従来の看護教育の体系になかった内容を学ぶのが特徴です。特定行為を実施しながら,ジェネラリストとしての活躍も期待される存在として,研修を受けていない看護師にも良い刺激を与えているわけですね。

神野 特定行為を実施する利点は,患者さんの状態に応じてタイムリーかつ迅速に適切な医療を提供でき,自身の満足度も高められる点です。目下課題の量的拡大とともに,質も評価されるべき時期に差し掛かっています。修了者の配置をどう評価していますか。

小松﨑 まだ検証段階ですが,質の向上を実感する場面は着実に増えています。一例として,人工呼吸器離脱までの期間が修了者の介入した症例で通常よりも短くなっている例があります。修了者の介入が奏功していると考えられます。褥瘡の処置も,医師の判断のみでは処置や確認の期間が空きがちなところを,指示を受けた修了者の迅速な処置によって治癒率が上がっている感覚があります。

神野 医師の判断と指示を待たずとも処置ができ,結果的に患者さんのアウトカムに良い影響をもたらしていると。特定行為の依頼件数は今,どのくらいですか。

小松﨑 年々増え,現在は月平均160件前後で推移しています。

神野 それは相当な数です。茨城県立中央病院では,修了者の配置による変化はありますか。

角田 量・質共に良い傾向が見られます。量的な面では,末梢挿入式中心静脈カテーテル(PICC)を行える2人の修了者に依頼が多く集まっていると集計で明らかになっています。

 質的な面でも医師の助けとなっている手技がいくつかあります。その一つが,患者が入浴する際の気管カニューレ交換です。医師が忙しい時間帯に修了者が代わることで,医師の負担軽減になっています。また,タイムリーな処置で患者さんの状態が安定するとの事例も出ています。

 各科の医師が当番で担当する救急外来では,修了者と医師が連携した介入により,患者さんを緊急入院させ大事に至らなかった例も報告されました。

神野 医師と意思疎通を図り,患者さんのアウトカム改善に貢献するのは,チーム医療の在るべき姿でしょう。園田先生は医師の視点から,特定行為の意義はどこにあると見ていますか。

園田 単に医師の行為をタスクシフトするだけが目的ではなく,医療の質向上に貢献する大切な役割を果たす点です。患者の立場からすれば,看護師による処置が好意的に受け止められることも多いですね。医師と看護師が行う医行為が同じであっても,処置の考え方や患者さんへの接し方,言葉の掛け方の違いから,看護師のほうが安心感や満足度も高い面があるのではないでしょうか。指示を出す医師には,その特性を理解した判断が求められます。

神野 園田先生から今ご指摘のあった「指示」の在り方についてお聞きします。看護師による特定行為は医師の包括的指示,あるいは具体的指示によって行われます。包括的指示とは,手順書に基づいた一括した指示です。これに対し具体的指示は,看護師が裁量的に行わずに済むよう,カルテなどで詳細に行われる指示です。

 いずれも,看護師が指示を待つだけでは自分たちの力をタイムリーに発揮できるとは限りません。おそらく多くの修了者が,自分たちのできる領域を医師に積極的にアピールして指示を得ているのではないか。上尾中央総合病院の依頼件数の増加も,積極的なアプローチの成果と見て良いでしょうか。

小松﨑 そうですね。実施可能な特定行為区分について医師に提案し,包括的指示を得て特定行為を実施しています。認定看護師はもともと,自分たちの職域を切り開いてきた経験があり,医師への提案も上手です。中でも褥瘡管理科には,皮膚・排泄ケア認定看護師および特定行為研修を修了した専従のスタッフが5人活動しており,認定看護師としての実績を知る医師からも,「安心して任せられる」と信頼を得ています。

 さらに指示を得る工夫として,医師が出し方を迷わないよう,包括的指示のテンプレートを設けた電子カルテにしています。

神野 当院も電子カルテ上のワンクリックで包括的指示が出せる工夫を施しています。また,修了者の特定行為区分と勤務帯がポータルサイトで見られ,病棟からすぐ呼べる体制にしています。園田先生は指示を出す立場から,課題に感じる点はありますか。

園田 全ての医師が特定行為に理解を示して指示を出...

この記事はログインすると全文を読むことができます。
医学書院IDをお持ちでない方は医学書院IDを取得(無料)ください。

3463_0104.jpg

恵寿総合病院理事長 司会

1980年日医大卒後,金沢大第二外科に入局。同大助手を経て,92年に恵寿総合病院外科部長。93年同院長を経て,95年より現職。2011年より社会福祉法人徳充会理事長併任。厚労省「チーム医療推進のための看護業務検討ワーキンググループ」の構成員として特定行為研修制度の構築に尽力。全日本病院協会副会長,日本社会医療法人協議会副会長,日本専門医機構理事など役職多数。

3463_0105.jpg

済生会熊本病院 包括診療部部長

1995年大分医大(当時)医学部卒。2016年より現職。17年九大大学院医療経営・管理学専攻修了。修士(公衆衛生学),博士(医学)。日本外科学会指導医,日本消化器外科学会指導医,社会医学系専門医。病棟スタッフと共に多職種協働による患者中心の包括的な医療をめざす「病院総合医」として,マネジメントを担う。院内の特定行為研修管理委員会委員を務め研修指導や手順書策定に携わる。

3463_0106.JPG

茨城県立中央病院 看護局長

1987年筑波大医療技術短大看護学科(当時)卒後,筑波メディカルセンター病院に入職。97年東京医歯大大学院を修了。98年がん看護専門看護師資格取得と同時に,訪問看護ステーションを管理者として開設。2002年筑波メディカルセンター病院病棟師長・看護部副部長,05年日本訪問看護振興財団(現・日本訪問看護財団)事業部長を経て10年より現職。他施設への修了者の派遣や制度の発信を通じ,茨城県の医療の質向上をめざす。

3463_0103.jpg

上尾中央総合病院 看護部長

1991年埼玉県立衛生短大看護学科(当時)卒後,上都賀総合病院入職。96年上尾中央総合病院に入職後,集中治療看護科長,看護副部長を経て,2019年より現職。上尾中央総合病院は15年の特定行為研修制度開始から指定研修機関となり,管理者として研修の受講を推進。修了者の地域での活躍を見据えたマネジメントに取り組む。

開く

医学書院IDの登録設定により、
更新通知をメールで受け取れます。

医学界新聞公式SNS

  • Facebook