医学界新聞

書評

2022.03.07 週刊医学界新聞(通常号):第3460号より

《評者》 聖路加国際大看護学部長

 現在の医療においてガイドラインは必須であり,医療の質保証の根幹にある。ガイドラインの作成には,当該分野を主導する学術団体などが膨大なエビデンスの集積と精選を行い,臨床での位置付けを示していく。医学のさまざまな分野からガイドラインが出され,多職種連携による包括的な介入の重要性が示されているが,目前の患者に対して各専門職がどのように介入していくのかに悩む場面も見受けられる。

 この悩みを解決するためには,医療チームでの検討とともに,専門性や独自性にのっとった検討が重要となる。患者の個別の状況,施設の医療体制や人員配置などの影響のほか,同じ職種間においてもガイドラインの理解や介入方法に相違も見受けられる。エビデンスに基づく介入を臨床に落とし込むには,各専門職がどのような手法を用いるのか,どのような効果を得るのかを明確にしていくことが求められる。

 『理学療法ガイドライン 第2版』は,「理学療法」のエビデンスを体系的に一冊にまとめたものである。21領域にわたり理学療法の臨床分野が網羅されており,総勢1400人が参画して作成されている。最新の臨床上の疑問についてCQを用いて表現されており,理学療法の見地から臨床上の疑問や課題を設定し,その疑問に答えることにより推奨を回答していく形をとっている。また,網羅的な論文を対象としたシステマティックレビューによる推奨と,理学療法士が専門家としての意見をまとめたステートメントで構成されており,外部評価には医師などの他職種のほか,患者会や一般市民も参加して作成されている。

 現在の医療は多要素に行われていることから,理学療法としてのCQを示してその効果を評価していくことは,かなりの苦労があったのではないかと推察する。このCQの設定は,もちろん理学療法の観点で臨床上の疑問に沿ってまとめられているが,看護の疑問解決につながる内容が多く認められる。例えば,フレイル患者を対象とした運動療法は,看護師が普段接するフレイル患者の活動性をどのように考えていくかにつながっていく。このように,全般にわたり他職種の介入にも重要な示唆を得ることができる内容が示されている。

 本書は,5年以上の歳月を費やして出版されているが,医療の目覚ましい進歩により,まとめる経過途中では変化する医療へのさまざまな対応や審議があったのではないかと思う。理学療法に携わる医療者の熱意と統合していく力,結果を体系づけて示していく力に,心より敬意を表したい。診療報酬を獲得していくためにも,このエビデンスの集積は重要な課題である。多彩な専門領域をどのように集積してエビデンスを示して臨床につなげていくか,本書から学ぶことは大きい。理学療法士のみならず,さまざまな医療職が自身の臨床に生かしていくことができる良書であり,ぜひ手にとって活用していただきたいと思う。


  • ジェネラリストが知りたい膠原病のホントのところ

    ジェネラリストが知りたい膠原病のホントのところ

    • 竹之内 盛志,萩野 昇 著
    • A5・頁244 
      定価:3,960円(本体3,600円+税10%) MEDSi
      https://www.medsi.co.jp

《評者》 近畿中央呼吸器センター呼吸器内科

 「底なしの知識を持つ萩野昇先生を読者の皆さんに披露したい」という竹之内盛志医師のまえがきがあるが,萩野医師はまさに知の巨人である。スウィフトの“ガリバー”どころではない,進撃の巨人でいう“鎧の巨人”クラスである。実に,衝撃的な本だった。対談し続けていただければ,無限に医学書が作れるのではないか,そんな気すらする。

 対談内容を補足解説するために,全体的に小さい文字であるが余白を余すことなく使った,コスパの良い仕上がりにもなっている。どう考えても,お値段以上である。

 私は呼吸器内科医で,膠原病科医とのやりとりは基本的に「間質性肺疾患」という窓を通して行うが,小さな窓から膠原病の世界を見ても,せいぜい肺と関節が燃えていることくらいしかわからない。目の前の患者アウトカムを最良のものにするためには,双方密なコミュニケーションが必要になる。それぞれの臓器の専門科医は,膠原病に関して「こんなもんでいいだろう」と妥協すると,知の成長の骨端線は閉鎖される。それゆえ,「とりあえずプレドニゾロンや免疫抑制剤を投与してみるか」みたいな膠原病診療はいまだに多くの診療科で行われているのが現状である。「Time is lung.」などの内科的エマージェンシーの場合は迷わず投与してよいと思うが,漫然とこれらを継続されている慢性疾患患者はまだ国内にたくさんいるかもしれない。

 私が勤務する病院のように,膠原病科医がいない施設は多いだろう。そのため,軽く相談したいとき,外部の膠原病科医に電話で「これってどうでしょうか?」と聞くことが多いのだが,「なるほど聞いたことがあります,萩野先生の本にも書いてありました」と返すと,「何を隠そう,こちらこそ萩野先生の本の受け売りなんです」みたいなやりとりが発生する。「ウチの子どもと同じ学校なんですね」くらい親密度が増す。竹之内医師も言及していたが,わずか1000円で入手できる某社のポケット顕微鏡は,実は総合診療科医や膠原病を診る機会がある医師の間でじわじわと普及している。爪床毛細血管像(nail-fold capillary)の評価目的である。もしかして,これによって,本来の用途とは異なる売り上げが伸びているのではなかろうか。おそらく萩野医師が思っている以上に,蒲公英萩野ハギノタンポポの綿帽子は日本の診療に浸透しているかもしれない。

 私自身の蒲公英はどうなっているのかちょっとよくわからないが,毎日水やりを欠かさないようにしている。かくして,全国へ飛んで行った蒲公英の花は開き始めることになる。10年後,20年後の日本の膠原病診療が一体どうなっているのか,楽しみで仕方がない。


《評者》 阪大大学院教授・病理学

 闘病記というものは,どのような人がどのような気持ちで読むのだろう。自分が,あるいは親戚や友人が病気になったときに参考にする,あるいは共感を得たいがためにといったところだろうか。しかし,『ぼくとがんの7年』はよくある闘病記とは少し違う。より幅広い人たちにとって読む価値のある〈闘病記〉!に仕上がっている。

 数年前に上梓した『こわいもの知らずの病理学講義』(晶文社,2017)という本でいろいろと書いたためか,がんについての講演を依頼されることがよくある。その終わりには,本にも書いた次の二点を伝えることにしている。がんと診断されてから考えると,妙に悲観的に,あるいは楽観的になりすぎてしまう可能性があるから,そうなる前にきちんとした知識を頭に入れておいてほしい。その上で,いざとなったらどうするかを考え,周囲の人と相談して,ある程度の覚悟を持って決めておいてほしい。そして,必ずもう一つ付け加える。

 ただし,そうしていても,いざというときには考え方が変わるかもしれません。それはそれで構いませんから,と。だが,この本を読んで,どうやら思い違いをしていたことがわかった。考え方が「変わるかもしれません」ではなくて,「きっと変わるに違いありません」が正しそうだ。

 著者である松永正訓ただし先生は千葉市で小児科・小児外科のクリニックを開業しておられる小児外科出身の医師である。同時に,小学館ノンフィクション大賞を2013年に受賞した『運命の子 トリソミー――短命という定めの男の子を授かった家族の物語』(小学館,2013)をはじめ,これまでに10冊以上の本を出しておられる文筆家でもある。その何冊かを読ませてもらったが,どれもすごく面白い。

 医学生から大学院生時代を描いた『どんじり医』(CCCメディアハウス,2020)は,私の方が少し年長だが同世代としてすごく懐かしく,ある雑誌で簡単に紹介させてもらった。そんなこんなでFacebookでのつながりもある。お目にかかったことはないのだが,ラグビー部のご出身とかクリニックのHPでのお写真から,マッチョ系の印象を持っている。間違えていたら叱られそうだが,いまでも,基本的にはそのイメージは変わっていない。しかし,おそらく,この闘病記だけを読んでそう思われる人は少ないだろう。

 血尿を初期症状に膀胱がん(尿路上皮がん)と診断され,治療を受け続けられた7年間の記録である。経過は思い通りではなかったが,最悪でもなかった。その間,一喜一憂し,考えては悩んでを繰り返す。治療による体の苦痛だけでなく,再発時に襲ってきた死の恐怖や魂の痛みなど,患者にならなければわかり得なかったことがたくさんあった。

 もともと小児がんの専門家なのだから,がんについての知識は十分にある。それに,これまでの著書からうかがえるように患者さんやご家族の内面を深く理解してこられた先生だ。そんな先生ですら,がんになる前の経験と思索では不十分だった。考えてみれば,人間というのはその程度のものなのだろう。前もって頭だけで全てがわかれば苦労はしない。

 この本の何より素晴らしいのは,客観的だけでなく主観的にも,患者として経験したことが極めて詳細に,そして正確に記述されているところだ。もちろん医師としての知識と経験のなせる技ではあるが,それはあくまでも背景にすぎない。弱音や医療に対する不満もたっぷり書いてある。それに,家では看護師である妻に泣きを入れる夫であるけれど,病院では主治医に対して臆せずしっかり物申す患者でもある。感情と理性,両者の軌跡が人間的ですごくいい。〈これぞ正しい患者道〉とでも呼ぶべきものではないかという気すらした。

 闘病についてだけではなく,死の受容や医療における意志決定など,いろいろなことを考えさせられた。医師は言うに及ばず一般の方にとっても間違いなく有益な一冊,書店で闘病記の棚や医療のコーナーに押し込めておくにはもったいなさすぎる。


《評者》 新潟医療福祉大教授・理学療法学

 2022年1月下旬,データ処理に関する書籍を探しに大型書店へ。理学療法のコーナーに,表紙を向けて陳列されていた書籍が目に留まる。帯には「評価がないと始まらない」。「!!」。迷わず手が伸び,表紙をめくる。

 まずは編者を確認。略歴を含めて,安心感が大きい。発行日は2022年1月15日。つい最近出版されたばかりの書籍を手に取ることができたことに,一人高揚。執筆者に目を移す。さらに安心感を覚える。恩師の教えによれば「書籍の善しあしは目次でわかる」。間違いない。ページをめくる。イラストや写真が豊富。加えて,評価結果の解釈やピットフォールなどの説明も丁寧。所持しておくべき本であることを確信。

 以上が本書のファーストインプレッションです。「評価がないと始まらない」。これまで私に指導してくださった多くの方が,共通しておっしゃっていたことです。序文にもその重要性が述べられています。評価に関する書籍はこれまでにも多く出版されています。それらと異なる点として,イントロダクションにおいて評価の意義や方法などが丁寧に解説されていること,疾患によらず共通して行われる機会の多い項目が最初に整理されていることです。また本書の大きな特徴として,それぞれの評価項目について「キホン」「方法」「注意点」だけでなく,「どう活用するか」まで説明がなされていることが挙げられます。さらに掲載されている評価項目も,従来行われている評価はもちろん,各領域でホットな項目についても網羅されています。加えて,他の書籍では評価法の名称のみが挙げられることも少なくない中,実際に使用する評価スケールが豊富に掲載されており,まさに「知りたかったことに手が届く」内容です。ページ数は,編集をされた先生方の「臨床で本当に使える」ことへの熱意の表れと感じます。レイアウトについても,イラストや写真が多いだけでなく,適切な箇所に適切なサイズで配置されており,本文とのバランスも絶妙です。編集の先生方のわかりやすさへのこだわりと拝察します。

 これらを総合しますと,理学療法士の養成校で勉学に励む学生はもちろんのこと,臨床の場に出て間もない理学療法士や異なる領域に配属された理学療法士,ライフイベントなどでしばらく臨床から離れた後に復帰する理学療法士などにとっても,まず確認すべき書籍であるといえます。折しも,公益社団法人日本理学療法士協会が監修した『理学療法ガイドライン 第2版』(医学書院)が2021年10月に出版されました。エビデンスに基づく理学療法を実践するにも,評価がないと始まりません。ガイドラインを有効に活用するためにも,ガイドライン本の隣に本書を置くことをお薦めします。

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