誰も教えてくれなかったオーサーシップ
[第3回] 著者順よもやま話
連載 前田樹海
2022.01.24 週刊医学界新聞(看護号):第3454号より
考えてみよう
看護系大学の教員である私たち3人は,構想から計画まで十分に討議をした上で1つの共同研究を始めた。以前から多くの研究を共にしてきた仲間なので気兼ねなく自由にアイデアを出し合い,われながら素晴らしい研究計画を練ることができた。本研究は3つのパートからなり,各自がそれぞれの担当パートでデータ収集と分析を中心的に行ったところ,いずれも仮説を支持する結果が得られた。論文執筆は,ネットで同時編集できるファイルを共有して進めた。主として自分のパートに関する事項をそれぞれが担当し,緒言と総合考察に関しては全員で執筆した。最も苦労したのは論文が完成した後だ。3人はそれぞれ等しく研究に貢献していたので,著者順をつけることができなかったのである。結局,アルファベット順に並べた。
本連載ではこれまで,「自分の研究論文の著者欄に名前を載せるべき人は誰か」との疑問に対する検討方法を(明確な答えはないとはいえ)いくつか紹介してきました。しかしいざ共著の論文を作成した時,次に突き当たるのは「複数の著者をどのような順序で並べるのか」という問題です。そこで,今回はこの“著者順”について考えていきたいと思います。
医学・看護領域における“著者順”の実態
複数の研究者が協働して行う研究論文には,複数人のオーサーシップ保持者が存在します。これらの著者を列挙する時,どうしても順序ができてしまいます。オーサーシップは著者としての資格を満たすか否かの基準であって,並べる順序はまた別の話です。第1回(3430号)でも紹介した,医学領域においてオーサーシップの世界的な基準を作成しているICMJEですら,「著者欄に記載される著者の並び順を決定するために使用される基準はさまざまであり,編集者ではなく著者グループが一括して決定するものとする」という文言でもって著者に丸投げしており,何らかの基準を提示しているとは言いがたい状況です。
日本の看護系学術誌の投稿規定も一通り見てみましたが,複数著者の並べ方について記述されているものはなさそうでした。かろうじて「筆頭著者は本学会会員に限る」という文言は見つけられましたが,著者の中に会員が複数いる場合には筆頭著者はおろか他の著者の記載順を決めることもできませんね(笑)。そうなると,オーサーシップを持つ者の集まりである「著者グループ」がどう判断するかがとても重要になってくるわけです。
学術的な貢献度をどう順位付けする?
一方で他分野に視野を広げると,著者順を明確に規定しているケースも少なくありません。
例えば,冒頭のエピソードを読んで「著者名をアルファベット順に並べるなんて,そんなバカな」と思われた方もいるかもしれません。ところが数学の分野では「共著の論文ではアルファベット順に並べるのが普通」との声明もあります。これはいわば,オーサーシップを満たして著者欄に名前を連ねていることが大事なのであって,その順位付けに意味を持たせない考え方です。卑近な例として看護師国家試験のような資格試験をイメージするとわかりやすいでしょう。試験という特性上,取得したスコアで順位付けを行うことは可能です。しかしその順位に意味を持たせず「資格を満たすスコアをとること」を重要視することで,資格者を平等に取り扱うコンセプトは,学術論文の著者においてもあり得ない話ではないわけです。
また,僕が翻訳に携わっている米国心理学会(APA)の論文作成マニュアルの最新版(第7版)では,筆頭著者および著者の順序について,その決定権と責任は著者...
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