医学界新聞

書評

2021.11.08 週刊医学界新聞(レジデント号):第3444号より

《評者》 順大教授/同大練馬病院救急・集中治療科

 2021年8月。われわれ東京で働く救急医にとって,普段の救急医療に加えて新型コロナウイルス感染症の対応,東京2020オリンピック・パラリンピックの医療救護体制への参加が加わり,昨年から一貫してとても忙しい毎日である。医療従事者のワクチン接種がおおむね完了したが,いまだ自由に外出できる状況ではなく,日々ストレスを感じている。私は救急医であり,また感染対策室長も務めているため,毎日新たな感染症関連のエビデンスを収集し発信している。そんな中,坂本壮先生から,田中竜馬先生と編集にかかわったという本書を紹介され手に取った。

 『救急外来,ここだけの話』。その題名に釣られてエッセイを読むようにページをめくってみたら,なんと中身は超硬派であった。そうか「ここだけの話」とは,スキャンダルでもオモシロ経験談でもなく,専門医が持っている「得意分野のピカイチネタ」なのかと納得した。特筆すべきはその読みやすさで,エビデンスが確立していることだけでなくcontroversialな話題にも触れ「救急外来での最初の数時間をどう過ごすか」に焦点を当てている。忙しい,忙しいという毎日ではあるが,勤務時間には終わりが来る。飲みにも行けず家で過ごす間に読破できてしまった。面白かったし,パクって研修医に話してやろうってネタも増えた。

 考えてみると,救急外来での初療ってこれだけの知識を身につけなければならないってことなのだ。本書は成書にある病気の急性病態だけをまとめて,症候学とともにギューっと凝縮して,最新のトピックと専門家のテクニックを詰め込んであるのだ。救急外来で初療に当たるときには専門性より,いかに多くの疾患を思い浮かべることができるかの勝負になる。そういった意味では,本書のターゲットは経験の浅い医師だけじゃない。むしろ,それなりに経験を重ねて,いつのまにか指導する立場になった医師にこそ必要かもしれない。

 2004年に改定された新医師臨床研修制度では2年間のローテートが必修とされ,これ以降に研修を修了した医師は(坂本先生もしかり),専門科にかかわらず初療に強い医師が多いと感じる。この世代が医療の最前線を支えているのだなとつくづく実感する。若い世代が本書のような武器を持つとすればさらに心強い。

 ビデオ会議で偉そうに喋る私の背後に本書が映っていても突っ込まないでほしい。われわれ世代もこの本で勉強させてもらおう。知識のアップデートにはこのような良書が必要だ。あらためて本書は初期研修医から指導医まであらゆる世代で必要な良書であると確信する。

《評者》 感染症コンサルタント

◆はじめに

 「時間がないので長文に...

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