医学界新聞

書評

2021.10.11 週刊医学界新聞(レジデント号):第3440号より

《評者》 福井大学医学部附属病院教授・救急科総合診療部

 「これはミニ・ハリソンか!」あの内科のバイブルであるハリソンも感染症に最もページ数を費やしており,たかがマニュアル(失礼!)といえど,感染症に一番紙面を費やしているところには著者たちのこだわりがうかがえる。

 マニュアルというと,研修医が日常診療の目先の問題を「とりあえずこなす」ためだけの詰め込みパックみたいなものになりがちだが,本書は,なかなかどうして微に入り細に入り心構えも記載してあり,読み物としても成り立つ。ぜひ研修医や若先生たちは時間が空いたときでも,直接治療に関与しない部分も読んでほしい。チーム医療はいまや医療の根幹たる部分だが,そこがどうして大事なのか,他の人の時間を大事に扱うこと,タイムマネジメントなど,これから長い医師人生を清く明るく楽しく生きていくためには知っておく必要がある。ACPやEBMなんてそれだけで一冊の本になりそうなものまで,ぎゅうぎゅうに詰め込んであって,簡単な理解のためには時短になる。

 臨床の酸いも甘いもわかりかけてきた若先生たちにこそ,「〇〇の原則」の章は全て読んでおいていただきたい。一般外来,救急外来,集中治療などその道のプロからしたら,「こんな短い分量で,俺たちの専門の原則を語れるわけがないじゃないか」と文句が出そうだが,確かに「原則」を絞りに絞って記載してあり,プロでもうなずく凝縮のされかたに納得した。ロングコーヒーでその豊潤さを語られるところを,ギュッと濃縮した最上のエスプレッソで抽出した感じ……ってわかるかなぁ。

 さらに在宅診療やソーシャルワーク,高齢者医療,女性・男性の健康,ヘルスメンテナンスとくれば,家庭医療の真髄ではないか。ここまでくると内科だけではない,全ての「人」を診る診療科の医師には知ってもらいたい内容だ。困ったときにソーシャルワーカーに丸投げで終わる医師になるか,きちんと仕事内容を理解してチームとして戦える医師になるか,そこは良医になる分岐点かも?「少ない労力,最大効果」を狙う今どきの忙しい医師には,マニュアルという短い体裁が,もってこいだ。なによりわかった気になれる!(あ,わかった気だけじゃダメなので,さらに成書を読みましょうね笑)。さすが亀田執筆陣の層の厚さがうかがえる。スペインが世界に誇るBrugada3兄弟(Pedro BrugadaはBrugada症候群を発表した医師)に勝るとも劣らぬ,亀田4兄弟の作った病院だけある。

 一般内科診療も内容がアップデートされ,ほとんどの項目で参考文献にPMIDがつけられ,後で出典論文を確認できるのがいい。これ一冊で研修医や若先生は現場ではあまり困らないだろう(古狸先生は老眼だから諦めましょう)。白衣のポケットには楽勝で入るし,診療中必要に迫られてアンチョコ的に開いてもいい,ちょっとした隙間時間にカフェで開いてもいい,つらいときトイレに入って泣いた後の清涼剤として読むのもいい,寝る前に睡眠導入剤として眺めるのもいい。とにかく総合内科の全体像をつかむため,ボロボロになるまで読み倒してみてはいかがだろう?


《評者》 札幌東徳洲会病院救急センター部長

◆Controversyは159個

 救急外来はギモンでごった返している。
・「敗血症性AKIを併発している患者への造影CTは?」
・「ビタミンB1はどの程度投与すればいいのか?」
・「急性虫垂炎と診断したら,抗菌薬投与で一晩経過をみてもよいか?」

 これは本書のギモンのごく一部。答えがないため「Controversy(議論の及ぶところ)」と表現されるやつだ。書籍ではこうしたERのギモン,Controversyを159個ピックアップ。ここまで多いと潜在意識のギモンまで言語化していることになる。

◆参考文献数はなんと1100本

 この書では159個全てのギモンに対し文献考察をしている。その徹底ぶりには驚かされた。Controversyとお茶を濁さず実直にギモンへ向き合っているのだ。その姿勢は参考文献数1100本という数字が証明している。分担執筆とはいえ,よくもまあ調べてある。

 この文献数は日本語の救急医学の書籍としては最高峰だ。もし若手医師が勉強会で文献を調べるときに最初にひもとく本としてはベストチョイス。あるいは上級医が文献をひけらかす虎の巻にもなるだろう。本書からの引用だとバレなければ,読者は文献マエストロと思われるに違いない。

 そして情報量がこれほど多いのに定価5,720円(本体5,200円)という値段。最高にコスパの良い医学書だ。情報量が多いのでB5サイズ480ページ,1035 gとボリューム満点でさすがに白衣に入らない。そこで救急外来に1冊,自分の机に1冊,カンファレンスルームに1冊ずつ買っておくのがオススメだ。あるいは電子書籍版を医書jpで契約・携帯するのもスマートだろう。

◆∞(無限)の中から答えを見出す

 文献のじゅうたん爆撃でもわからないことはある。それでもベッドサイドで方針は決めないといけない。その点は各スペシャリストが「(不明点はあるが)わたしはこうしている」と真摯しんしに述べている。徹底的に文献考察しているので,たとえ経験論でもコメントに含蓄がある。この本書のギモン解決法を読者はきっと実践したくなるだろう。あるいは解決法が自分と同じ方法なら,「このままでいいんだよ」とやさしく背中を押してくれるだろう。

 Controversyなギモンに対する答えは医療施設ごと,患者ごとに違う。本来その数は∞(無限)で,答えに詰まることもあるだろう。しかし膨大な文献考察と一流医師の英知が詰まった本書であれば全てのギモンに答えを見いだすことも可能だ。『救急外来,ここだけの話』は近い将来に全国の救急外来に広がり,ここだけで終わらない話になるだろう。


《評者》 奈良医大教授・疫学・予防医学

 本書は主に,保健活動に従事するコメディカルスタッフや学生を含む初学者が,日本語での学会・論文発表をめざす際の指南書として書かれたもので,疫学書では最も人気がある中村好一氏による『基礎から学ぶ 楽しい疫学』の姉妹書である。

 これから研究を始める人が,最初に読む本としてお薦めしたい。「なぜ研究を行うか」「研究指導者をどのように求めるか」から始まって,研究の実施,分析,学会発表,論文執筆,投稿,査読の過程に区分され,それぞれのステップをどのように考え,どのように進めていくかが,ありありと目に浮かぶように書かれている。読者は,各ステップを思い浮かべて読み進めていくうちに,研究プロセスを俯瞰することができ,高く感じていたハードルが,いつの間にか取り組むべき具体的な課題に変わっていることに気付くのではないだろうか。

 論文に書かれるべき内容については,観察研究のSTROBE,無作為化比較試験のCONSORTといった国際ガイドラインに示されている。本書はこのような一般原則を,単に説明するのではなく,著者が経験した具体的事例を紹介しながら,どのように考えるかが述べられている。このシリーズの最も印象的な特徴は,脚注が多い点である。1ページに5~6つの脚注がみられる場合もめずらしくない。しかし脚注といっても引用文献の記載ではなく,ほとんどの場合が著者による本文の解説なのである。この独特のスタイルは意外にも読みやすく,同シリーズの人気の秘訣ではないかと思われる。また「べからず集」として,良くない例を挙げながら,視点を変えて解説するなどの工夫が凝らされている。

 本書は初学者に向けて書かれているが,科学研究の本質にかかわる議論を避けていない。論点は研究の倫理面の配慮,研究者間のコミュニケーションの在り方や科学の進歩などに及ぶ。医学研究者が,個人の意見や考え方を発信する場が少ない現在において,経験豊かな疫学者の考えに触れることは,多くの医学研究者にとっても有用だろう。

 分野の専門家による分担執筆書と違って,本書では最初から最後まで,著者の考えが貫かれている。「研究は,研究者のみがやればよいものではない。保健・医療の最前線で活躍する実務者が,現場の経験や課題を学会や論文発表によって共有し,その分野の進歩につなげてほしい」という著者の願いが詰まった一冊だと感じた。

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