MEDICAL LIBRARY 書評・新刊案内
書評
2021.09.13 週刊医学界新聞(レジデント号):第3436号より
《評者》 三澤 健之 日本ヘルニア学会理事/帝京大教授・外科学
外科全般の基礎を学ぶことのできる貴重な指南書
本書は『正しい膜構造の理解からとらえなおすヘルニア手術のエッセンス』(医学書院,2014)に続く,著者のヘルニアに関するテキストブックの第二弾である。といっても,本書は著者自身が述べているように,前著で得たヘルニアに関する知識を基に,明日,明後日に予定された手術を成功させるための実践的解説書である(著者は「超実践的」と表現している)。
男性鼠径ヘルニア16章,女性鼠径ヘルニア3章,計19章からなる本書には,手洗い,術野の消毒,ドレーピング,術者の立ち位置,皮膚切開の考え方,手術器具の持ち方・使い方,手術糸の選択などの基本的事項から,ヘルニア手術のための膜構造や実際の手術手技まで豊富な内容が含まれている。また,著者からのコメント(著者の似顔絵に吹き出しで記載されている)として,一般的な教科書には書かれていない,ちょっとした工夫や注意点がふんだんに盛り込まれている。外科専攻医を対象とした本書ではあるが,われわれ指導医にとっても,たくさんの「気付き」や「その通り!」があり,読み進みながら,ついつい大きくうなずいたり,相づちを打ったりしてしまった。前著同様,簡潔明瞭,ふんだんに盛り込まれたシェーマは大変わかりやすい。これだけ盛りだくさんでありながら,全172ページとコンパクトにまとめられているため,あっという間に,そして何より楽しく読み終えることができた。余談だが,第1章の「術野をつくる」では,剪刀(鋏)やメスの持ち方が丁寧に解説されている。その昔,私が研修医のころ,バイト先の病院に外科医仲間から鋏使いの名手とうたわれる大先輩がいた。技を盗むべく,いつも筋鈎を引きながら目を丸くして見入っていた私は,ある日,ふとその先生のCooper剪刀の持ち方の特徴に気付いた。本書にも記載されている通り,通常,剪刀の指環には第1指と第4指を通すが,先輩外科医は第4指の代わりに第3指を使っていたのだ。つまり一般人が家庭用ハサミを使うのと同じ。これこそ名人の秘訣に違いない,と思って,恐る恐る尋ねてみると,師曰く「え,そうなの? 知らなかったよ」の一言。そんな出来事を思い出した。
ところで,本書ではLichtenstein法を前提とした解説が記されている。2018年に発表された国際ガイドラインでは,前方アプローチによるメッシュ法として,唯一Lichtenstein法を推奨している。このことを考えても,本書はより実用的かつスタンダードな解説書であるといえよう。
また,最後に女性の鼠径ヘルニアに関しての解説が付記されている。精索がない分,手術手技が容易であると誤解され,結果的にその外科解剖に対する理解が遅れてしまった感がある。本書を精読することにより,あらためて女性のヘルニアに関しては解決すべき問題が多いことを認識した。
ヘルニア手術には他のさまざまな手術のエッセンスが凝縮されており,一般外科手術の基本であることに言をまたない。したがって,ヘルニアに特化した解説書である本書は,実は外科全般の基礎を学ぶことのできる貴重な指南書でもある。ぜひ,この良書を多くの若手外科医に薦めたい。また,教鞭をとる身として,著者にお許しをいただき,医学生の外科総論の講義で教材として紹介し,一人でも多くの学生に外科学の魅力を伝えたいと考えている。
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総合内科マニュアル 第2版
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八重樫 牧人,佐藤 暁幸 監修
亀田総合病院 編 -
三五変型・頁520
定価:3,080円(本体2,800円+税10%) 医学書院
ISBN978-4-260-03658-0
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八重樫 牧人,佐藤 暁幸 監修
《評者》 森川 暢 市立奈良病院総合診療科
亀マニュは総合内科を志す若い医師の最強の相棒である
ついに『総合内科マニュアル』(亀マニュ)が改訂された。実は,私は亀マニュのファンだ。医師3年目の時に総合診療の後期研修を始めたが,本当に右も左もわからなかった。多少は内科の知識を持っている自信があったが,それは粉々に打ち砕かれた。かといって,同期や先輩のようにUpToDate®をひもとき知識を増やすような甲斐性もなく,仕事にひたすら追われていた。
当時,私は常に2つのマニュアルをポケットに入れていた。1つは『診察エッセンシャルズ』(日経メディカル開発)という診断学に特化したマニュアルであった。しかし,内科マネジメントについても同様にマニュアルが必要であった。結果的に,私が選んだ相棒は亀マニュだった。ベッドサイドで診療し,亀マニュを見るという日々をひたすら繰り返した。いつしか,亀マニュは自分の血肉となり携帯はしなくなった。ただ,その後の自分の内科マネジメントの原則や原理は亀マニュが基本となっていることに変わりはない。そして,今回の改訂である。
初版の亀マニュは,章によりエビデンスに基づいた記載にバラツキがあることが難点だった。しかし,今回の改訂では徹頭徹尾エビデンスに基づいた記載となっている。八重樫牧人先生の徹底的なチェックのたまものだろう。また亀マニュで大切にしていた内科マネジメントの原則は今回も踏襲されつつ,推奨グレードシステムによるエビデンスの質も記載されており,よりパワーアップしている。一般的な内科マニュアルと違い,老年医学,ソーシャルワークやヘルスメンテナンス,
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