医学界新聞

寄稿 野々木 宏

2021.09.06 週刊医学界新聞(通常号):第3435号より

 現在の心肺蘇生(CPR)は,1960年に米国で人工呼吸法,循環確保法(胸骨圧迫心臓マッサージ法),電気的除細動の3つがそろって統合されてから2020年で60周年を迎えた。わが国のCPRの普及や方法の統一は,当初大きく出遅れていたが,2000年の国際蘇生連絡委員会(ILCOR)による国際ガイドラインの発表を契機に,国際標準のCPR導入と国内における方法の統一化,エビデンス発信などが緒に就いた。

 国際化をめざして2002年に日本蘇生協議会(JRC)が発足し,米国から国際標準のCPRトレーニングが導入された。その後,救急救命士の包括的指示による電気ショック,市民によるAED使用が解禁された。2005年には総務省消防庁による全国規模での院外心停止全例登録も開始された。同年にJRCを中心にアジア蘇生協議会(RCA)が設立され,2006年に念願のILCOR加盟が実現した。5年ごとのILCORの「心肺蘇生に関わる科学的根拠と治療勧告コンセンサス(CoSTR)」作成に参加することにより,待望のJRC蘇生ガイドラインが2010年に誕生した。ILCORは2015年に国際標準のガイドライン作成方法であるGRADEシステムを導入し,「JRC蘇生ガイドライン2015」から採用した。

 この度改訂された「JRC蘇生ガイドライン2020」は当初,2020年10月にパブリックコメント用のドラフト版をWebサイトで公開する予定であった。しかしCOVID-19の蔓延のため,多くの作業部員が重症例対応の第一線に立たざるを得なくなり,半年間の延期となった。2021年3月にドラフト版が公開され,パブリックコメントを受けた修正の上,6月に完成版の発刊となった。この診療ガイドラインは,CoSTRに基づいた世界共通の内容となっている。

 「JRC蘇生ガイドライン2020」作成編集委員会は,救急関連の23学会・団体から推薦された総勢176人で構成され,総力を挙げてガイドラインを作成した。

◆改訂のポイント

 ILCORにおけるCo STRのトピックに加え,わが国の救急医療で重要な脳神経蘇生,妊産婦蘇生,急性冠症候群を取り上げた。ガイドラインの10の領域から,一次救命処置(BLS)と二次救命処置(ALS)の具体的なポイントをに挙げる。

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 「JRC蘇生ガイドライン2020」におけるBLSとALSのポイント

 BLSでは,「心停止傷病者の救命には市民救助者の行動が不可欠」であり,「強く,速く,絶え間ない胸骨圧迫が最重要」という基本的コンセプトに変更はなく,改訂点を少なくした。救助者が判断に迷うことも想定し,救命処置に遅れが出ないようなわかりやすい手順に改めた。

 ALSでは,病院内での心停止の救命率向上をめざして,医療従事者による医療用BLSアルゴリズムの改訂をのように行った。日頃からのトレーニングの必要性を強調する内容となっている。

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 医療用BLSアルゴリズム〔日本蘇生協議会監修『JRC蘇生ガイドライン2020』(医学書院)p.51より転載〕
市民用BLSアルゴリズムと手順は共通しており,心停止者を発見した医療従事者が判断に迷ったとしても遅延なくCPRが開始できる工夫をした。また心停止の判断に頸動脈触知と呼吸確認を必要とした。人工呼吸にはバッグ・バルブ・マスクを使用することが多く,習熟のために日頃からのトレーニングの必要性を強調した。

 ILCORはより迅速な対応をするために,2017年から1年ごとにCoSTR集を発表し,推奨と提案を行っている。すでに新たなCoSTRも公開され始めており,5年後のガイドライン改訂に向けて,編集作業を開始する必要がある。そのためJRC会員学会や団体から広く作業部員,特にガイドライン作成経験やシステマティックレビュー(SysRev)の経験のある方,さらにはILCORでのSysRev活動やタスクフォース参加による国際経験を希望する若手医療従事者の参画を求めたい。そしてわが国やアジアでの救急医療の質の向上をめざしてもらいたいと思う。

 また,今後さらにGRADEシステムを活用した診療ガイドライン作成が広がることが望まれる。JRCのメンバーはその造詣が深く,各領域のリーダーとしての活躍が期待される。そしてGRADE Tokyo Centerとして日本におけるGRADEの普及をめざす日本医療機能評価機構Mindsの支援もお願いしたい。

 これまでわが国の院外心停止全例登録データベース解析を通じて数多くの重要なエビデンスの国際発信があり,CoSTRや各国の蘇生ガイドラインに影響を与えてきた。一方,未知あるいは調整できない重症度の違いなどの交絡因子による観察研究の限界も指摘され,その解決のためにRCTが各国で実施され始めた。わが国でも救急医療の現場で実施可能なクラスターRCTを含めた質の高い臨床研究が必要と考えられる。

 このような経緯で改訂された「JRC蘇生ガイドライン2020」を,現場で広くご活用いただきたい。


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日本蘇生協議会代表理事/大阪青山大学健康科学部特任教授

1976年京大医学部卒。博士(医学)。スイス・チューリヒ大留学後,国立循環器病センター心臓血管内科主任部長,同センター心臓血管内科部門部門長,静岡県立総合病院院長代理などを経て,2021年より現職。15年より日本蘇生協議会代表理事。「JRC蘇生ガイドライン2020」では編集委員長を務めた。