MEDICAL LIBRARY 書評・新刊案内
書評
2021.06.21 週刊医学界新聞(通常号):第3425号より
《評者》 徳田 安春 群星沖縄臨床研修センターセンター長
紅くなった定番マニュアル
1988年。『呼吸器病レジデントマニュアル』初版が出た年はちょうど私が医学部を卒業した年だった。沖縄の研修病院で1年目の研修医として呼吸器内科をローテーションした私は,先輩研修医たちがこのマニュアルを持って診療に当たっているのを見て,私も早く知識をアップデートしたいと思い,医学書店に駆け込み購入した。迅速購入の理由はもう一つあった。その頃の私は,このマニュアルの初代編集者の宮城征四郎先生(現・群星沖縄臨床研修センター名誉センター長)の教育回診でのケースプレゼンテーションと質疑応答の用意をする必要性もあったからだ。このマニュアルを見ながら準備していたおかげで宮城先生の教育回診に何とか対応できた。
その後,呼吸器病を持つ患者さんのケアではこのマニュアルにとてもお世話になった。呼吸器内科病棟や集中治療室,救急,内科外来での診療ではもちろん,外科系診療科をローテートしている間でも,基礎疾患として呼吸器病を持つ患者さんは多かったからだ。尋ねるべき病歴,取るべき身体診察,見ておきたい検査項目,代表的な画像診断のポイント,代表的な処方の例など,このマニュアルを繰り返し参照することによって呼吸器病を持つ患者さんの標準的な診療の型が身についたのではないかと思う。
2021年。第6版が世に出た。レジデントマニュアルシリーズの先駆的存在だ。現監修者の藤田次郎先生は沖縄の歴史と文化に造詣が深く,鮮やかな琉球紅型を表紙に採用されている。今回は沖縄の伝統的なアートを生かし紅いマニュアルとなった。世代を超えた定番マニュアル。内容はアップデートされており,各項目の冒頭には,最重要ポイントとして数個のセンテンスが置かれ,学習者をやさしく招いてくれる。もちろん,これまでの版での良い特徴も引き継がれている。コンテンツは基本的に読みやすい箇条書きスタイル。疾患各論では,ガイドラインや疾患定義の最新バージョンを提供。現場で役に立つ処方例は,最新エビデンスに基づいており,日本人に合った投与量で,かつ保険適用も考慮されている。図表も多くてわかりやすく,全体として読みやすい。
新型コロナウイルスのパンデミックで呼吸器診療のニーズは高まった。また,マルチモビディティ時代の診療では,呼吸器病ケアは診療科を超えた基本的診療能力に組み込まれている。このマニュアルを,レジデントだけでなく,一般医家や全ての医療者にもお薦めしたい。
《評者》 濱岸 利夫 中部学院大准教授・理学療法学
養成校学生のみならず臨床現場の療法士必読のテキスト
「指定規則」という言葉から,臨床現場にいる理学療法士,作業療法士の方々は,何を想像するだろうか?
2018年当時,私は「指定規則」という言葉を聞いてもピンとこなかった。何かしら「養成校の規則を決めてあるのかもしれない」と想像することはできたが,養成校の教員を10年間勤めてきていたにもかかわらず,「理学療法士作業療法士学校養成施設指定規則」をほとんど知らなかった。
その後,2020年4月の入学生より,改正された「指定規則」が適用されることを念頭に置いて準備を進めるうちに,その内容を理解するようになっていった。
ただ,前回の改正は1999年であり,当時私は臨床現場で「障がいを持つ子どもたち」の理学療法に携わっていたこともあり,施行目前に迫っていた「介護保険制度」について学んでいた。そのような経緯もあって「指定規則」に興味を持たなかったのだろう。
このたび医学書院より,『《標準理学療法学・作業療法学・言語聴覚障害学 別巻》リハビリテーション管理学』と題するテキストが出版された。
装丁は地味な印象を持ったが,開いてみれば,カラー刷りであり,目に優しい作りになっている。また多くの図表を取り入れており,「管理学」を学ぶ学生にとって理解しやすいと思う。
さらに「定義」などのキーワードも丁寧,かつコンパクトに記載されており,臨床現場で多忙を極めている理学療法士,作業療法士,言語聴覚士にも参考になることは間違いない。
本書を開いて,具体的な内容を見れば,まず第1章に「社会保障制度」がある。「どうして,『管理学』のテキストであるにもかかわらず,『社会保障制度』……?」と疑問を持つかもしれない。
実際に私も店頭で本書を手にしたときにそう思った。しかし,本書の扉にある「序」を丁寧に読むと「社会保障制度」を最初に持ってきた理由がわかる。そこには「われわれ療法士は医療保険と介護保険に代表されるように国の社会保障制度のもとで従事している(中略)それらは複雑で多岐にわたり,しかも定期的に改定されていく」と述べられている。
私も臨床現場に勤務しながら介護保険制度を学んだ。私たち療法士は「社会保障制度」はもちろんのこと,新しい制度を熟知した上で,それぞれの現場でリハビリテーションに従事しなければならない。一人の国民としても,自分のライフサイクルと社会保障制度を理解する必要があるだろう。
学生は,ともすれば治療技術に目を奪われやすい。もちろん,そのこと自体を否定しないが,自分たちがめざす職種の基本となる事柄をしっかりと押さえておかなければならない。
また本書は,近年全ての職業において社会から強く求められている「職業倫理」や「業務管理」,そして医療・福祉・介護の現場で必然となっている「多職種連携と地域連携」にもページを割いている。
将来,制度などが改定される度に,いずれの内容もアップデートされていくことを期待する。さらにいえば,「感染対策管理」についての記載も加えてほしい。
今回,本書を編集した斉藤秀之氏や能登真一氏が,臨床現場において多職種のチームリーダーと連携・活躍し,多くのことを学び,そして重責を担ってきたからこそ,編さんすることができたと考える。
学生用のテキストとしてはもちろんのこと,全ての療法士にぜひともお薦めしたい。
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即戦力が身につく脳の画像診断
- 三木 幸雄,山田 惠 編
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B5・頁548
定価:8,580円(本体7,800円+税10%) MEDSi
https://www.medsi.co.jp
《評者》 青木 茂樹 順天堂大教授・放射線診断学
症例を疑似体験しながら学べる
三木幸雄先生,山田惠先生編集の『即戦力が身につく脳の画像診断』(Practical Case Review:Brain Imaging)は2021年の4月に横浜の現地(およびオンデマンド)で行われた第80回医学放射線学会の書店展示で初めて見て衝撃を受けた。私と同じ神経放射線分野の最も注目している円熟期の教授2名のユニークな,おそらく<1>
入門編レベル(症例),実力編レベル(症例),挑戦編レベル(症例)の計項目(一部で症例提示)がのクイズ形式で提示されている。年齢・性別,主訴など簡単な症状の後,まず画像が示され,症例を疑似体験することができる。その後に疾患のみならず,検査法,鑑別診断などについて,基本概念だけでなく知っておくべき豆知識(例えば髄膜炎のときの造影の有用性)が加えられており,楽しみながらその疾患のみならず関連疾患についてしっかりと学ぶことができる。
丁度ゴールデンウィークの前に書評をご依頼いただけたので,病名を見ずにチャレンジしてみた(表)。レベルは病歴で簡単に正解ばかりかと思っていたら,鑑別診断に入れなかったものがあった。増え続ける雑用をなんとかして,臨床に割く時間を増やさねばと反省した。レベルの設定も良いようで,レベルは病歴+画像で正解が%,レベルは%,レベルがちょうど割であった。久しぶりに本冊を(解説は斜め読みだが)制覇できた。これも問題形式で読み進められることが大きい。

本当に素晴らしい本で,コスパも良く,この分野で画像を扱う者は自分で買って問題集として使うとよい。
編者に強いてお願いをするとすれば,問題集としてさらに使いやすくできるはずの電子化や,疾患概念などの変化に伴って定期的に改訂あるいは続編を出してほしいことである。もう1つあえて言えば,日本人は身近な者の文献を引用しない傾向があるが,側脳室前角のsubependymomaは神経放射線科医の中では“下野結節”といわれており,その論文は引用してほしかったという,内容には関係ないところである。
とにかく買って,チャレンジしてみましょう。
《評者》 佐藤 洋一 岩手医大名誉教授・解剖学/医学教育学
学問を楽しむためのガイドブックと神講義
俊英の基礎医学者である三上貴浩先生が,これまでになく面白い本を上梓された。生命科学の基礎を「医学教育モデル・コア・カリキュラム」準拠で学問体系横断的にまとめており,しかも解説講義の動画付きなのである。もっとも,出版されている多くの細胞生物学の本やCBT対策本は科目横断的に書かれているし,動画を組み合せた出版物もかなりある。
では何がユニークなのだろうか。
何と言っても,小難しい事象を論理立てて,しかも多分野をリンクさせた本(と講義)なのである。本文は,余剰を切り取った簡潔な記述である。一方,これと対極にあるのが,語源や関連疾患などを述べている「独り言」というコラムである。博学な知識をひけらかすのではなく,
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