リハビリテーション管理学

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PT/OT養成施設の指定規則改正に伴い,各養成校に「理学療法管理学,作業療法管理学」の科目が新設されることとなった。本書は,それらの授業で使用されることを念頭に置いたテキストとなる。社会保障制度,職業倫理,業務管理,多職種・地域連携,医療の質とリスクマネジメント,養成教育と卒後教育という6つの大きな柱について,初学者でも十分理解できるよう平易に解説している。また、STに関連する内容も漏れなく収載。

シリーズ 標準理学療法学・作業療法学・言語聴覚障害学 別巻
編集 斉藤 秀之 / 能登 真一
発行 2020年12月判型:B5頁:240
ISBN 978-4-260-04312-0
定価 3,960円 (本体3,600円+税)

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発刊を記念して、本書の特長・活かし方をご紹介いただきました。また、教育機関・臨床現場の両面から、これからの教育についても踏み込んでいただきました。

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 2018年10月,理学療法士・作業療法士教育のミニマムな基準を定めた「理学療法士作業療法士学校養成施設指定規則」が約20年ぶりに改正され,2020年4月の入学生から適用された.今回の改正では,臨床実習にかかわる要件や専任教員の要件の見直しなどとともに,養成に必要な総単位数について93単位から101単位への大幅な引き上げが行われた.この単位数の引き上げのなかで新たに追加されたのは「理学療法管理学,作業療法管理学」であり,それぞれ2単位が必修とされた.本書はその改正を受けて新たに編集されたテキストで,各療法士を目指す学生諸君に必要となる最新の情報をわかりやすくコンパクトにまとめたものである.
 そもそもなぜこのタイミングで「理学療法管理学,作業療法管理学」が必修とされたのであろうか.言語聴覚士を含めたわれわれ療法士は医療保険と介護保険に代表されるように国の社会保障制度のもとで従事している.その制度は施設基準や報酬体系などを定めているが,それらは複雑で多岐にわたり,しかも定期的に改定されていく.また療法士は臨床現場ではほとんどの場合,独立して対象者と向き合うが,病院や施設においてはリハビリテーションチームあるいは多職種のチームの一員として職務を遂行している.さらにいえば,われわれの職業は人を対象としたサービス業であるから,さまざまな疾患や各療法についての学習だけではなく,強い職業倫理の涵養が求められている.
 この前提に立ったうえで,指定規則の改正に至った経緯を紐解いてみたい.前回の改正は1999年であるから,この約20年間で生じた変化に対応した改正であったととらえられる.その変化とは,人口構造の変化,つまり高齢化の進展であり,それに伴って変更を余儀なくされてきた医療保険制度と創設された介護保険制度であろう.そして療法士が活躍する現場も医療から介護や保健,教育などへと広がり,役割が増大してきている.しかも重要なことは,この高齢化は今後も確実に進み,それに合わせるための施策の変更も余儀なくされ続けるであろうということである.このような背景のもと,われわれ療法士に求められることは,日本の人口構造や制度の変化にすばやく適応するための対応力であり,自らが積極的に関与していくマネジメント力であると考えられる.
 さて,先般の指定規則改正のための検討会の資料には,「理学療法管理学,作業療法管理学」の新設について,「より質の高い理学療法(作業療法)を提供するため,保健,医療,福祉に関する制度(医療保険・介護保険制度を含む)の理解,組織運営に関するマネジメント能力を養うとともに,理学療法(作業療法)倫理,理学療法(作業療法)教育についての理解を深める必要があることから,教育内容に『理学療法(作業療法)管理学』を新設し,『職場管理(教育を含む)』『職業倫理』を必修化する」と記されている.つまり,働くうえで必要な制度をよく理解し,個々人がマネジメント能力を身につけること,そして教育と倫理について正しい知識を学習することが今般の改正で求められた内容であると読み取ることができる.
 本書の構成もこの改正の趣旨に沿った形となるように心がけた.まず第1章では,医療保険や介護保険をはじめとした社会保障制度について,概要だけではなく実際に現場で必要となる具体的な規定について数値などを挙げて解説した.第2章では職業倫理について身分法とともに整理した.第3章では業務管理について,療法士の業務内容から組織マネジメントに至るまでを網羅した.第4章では多職種連携を,第5章ではリスクマネジメントについて解説した.そして第6章では教育について,養成教育と卒後教育に分けて整理した.なお,本書は先の指定規則の改正を受けて編集されたことをすでに述べたが,言語聴覚士についても現場では理学療法士や作業療法士と一体となって職務を遂行しており,本書にまとめられた内容は言語聴覚士にも必要なものと考えられるため,第7章として言語聴覚士に関連した事項を整理した.
 日本のリハビリテーションが理学療法士と作業療法士の誕生によってはじまって50余年,言語聴覚士を含めた療法士の数は30万人を超えるまでになった.そこには時代や社会の強い要請があったわけであるが,養成された療法士の質の担保は十分であったかという反省もある.これからは,単に資格さえもっていればよいという表面的な担保だけではなく,各療法士がどれだけの質を保証できるかが問われるようになることに疑いの余地はない.この意味で,尊い職業意識をもって療法士を目指す学生諸君にとって,本書が社会への対応力や組織のなかでのマネジメント力を備えた,質を伴う療法士となるための一助となれば幸いである.

 2020年11月
 斉藤秀之,能登真一

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第1章 社会保障制度
 1 社会保障制度とは
  ① 社会保障制度のなりたち
  ② 社会保険制度
  ③ 社会保障の財政
 2 医療保険
  ① 医療保険のしくみ
  ② 医療提供体制
  ③ 診療報酬
  ④ 医療費の財政
 3 介護保険
  ① 介護保険制度
  ② 介護保険のしくみ
  ③ 介護保険給付サービスの種類
  ④ 介護報酬
 4 障害者・障害児サービスと就労支援
  ① 障害者手帳
  ② 障害者総合支援法
  ③ 各種サービスと療法士のかかわり
  ④ 就労支援に関する施設と内容
 5 予防・保健
  ① 行政におけるリハビリテーション
  ② 行政リハビリテーション専門職の役割
  ③ 介護予防,保健指導,地域ケア会議

第2章 職業倫理
 1 専門職に求められる職業倫理
  ① 職業倫理とは
  ② リスボン宣言
  ③ インフォームド・コンセント
  ④ 守秘義務
 2 身分法と倫理綱領
  ① 法律とは
  ② 医療に関する法律
  ③ 医療,医行為とは何か
  ④ 医療スタッフの法体系
  ⑤ 理学療法士及び作業療法士法(療法士法)
  ⑥ 倫理とはなにか
  ⑦ 各職能団体の倫理綱領

第3章 業務管理
 1 病院・施設の組織
  ① 組織体制
  ② リハビリテーション部門の役割
 2 療法士の業務
  ① 診療業務
  ② 診療記録
 3 コンプライアンス
  ① コンプライアンスとは
  ② 病院や施設に求められるコンプライアンス
 4 労務管理
  ① 勤務体制と労働時間管理
  ② 人権の保障とハラスメント
 5 組織マネジメント
  ① リーダーシップ
  ② 人材管理

第4章 多職種連携と地域連携
 1 多職種連携
  ① 療法士が連携すべき他職種の紹介
  ② 多職種連携のありかた
  ③ 多職種連携の実際
  ④ 医療現場における療法士の役割
 2 地域連携
  ① 地域包括ケアシステム
  ② 地域・介護現場における療法士の役割
  ③ 地域により異なる連携を行った事例

第5章 医療の質とリスクマネジメント
 1 医療の質的保証
  ① 医療の質と患者満足度
  ② 臨床指標(CI)と質的指標(QI)
  ③ リハビリテーションにおける質的保証
 2 リスクマネジメント
  ① 医療の安全性
  ② ヒューマンエラー
  ③ インシデントレポート

第6章 養成教育と卒後教育
 1 教育の役割
  ① 現代社会の構造と教育の役割
  ② 教育の本質
  ③ 教授方法と教育評価
 2 養成教育制度
  ① 指定規則
  ② カリキュラム
  ③ 臨床実習
 3 卒後教育
  ① 自己研鑽の必要性
  ② 職能団体とその役割
  ③ 専門・認定制度
  ④ 関連学会と学術活動

第7章 言語聴覚士のための管理学
 1 身分法と倫理綱領
  ① 言語聴覚士法
  ② 言語聴覚士協会の倫理綱領
 2 養成教育制度
  ① 指定規則(養成教育関連)
  ② 職能団体とその役割
  ③ 言語聴覚士協会における認定制度

Check sheet

索引

Advanced Study
 ・人口減少社会
 ・中央社会保険医療協議会(中医協)
 ・運動量増加機器(ロボット)リハビリテーション加算
 ・家族による虐待
 ・成年後見制度
 ・基本報酬(2018年4月~)
 ・法定雇用率
 ・一般介護予防事業
 ・地域ケア会議における助言者として留意すべきこと
 ・医事法を学ぶ
 ・医学用語と法律用語の違い
 ・組織形態
 ・組織行動論
 ・「連携」という言葉
 ・インフォームド・コンセントと説明責任の違い
 ・個人情報とプライバシーの違い
 ・診療の質指標(QI)
 ・監督もしくは管理の地位にある者とは
 ・女性労働者が保健指導や健康診査を受けるために事業主が講じるべき措置
 ・医師らの指導事項を守るために必要な具体的な措置
 ・ストレスチェックとは
 ・「業務上必要な言動」はハラスメントに該当しない
 ・不利益取扱いとは
 ・リーダーシップとマネジメント
 ・バイアス(偏り)
 ・特定行為
 ・連携の研究
 ・ソーシャルキャピタル
 ・リンゲルマン効果
 ・世界の主要な教育学者
 ・臨床実習指導者講習会

Topics
 ・公的保険と私的(民間)保険
 ・P4P とリハビリテーション
 ・介護が必要な期間
 ・法律の改正
 ・まず,行政職員としての能力を身につけよう!
 ・TQM活動
 ・労働施策総合推進法とは
 ・理想的なフォロワー
 ・組織に対する情緒的コミットメントを高める
 ・リハビリテーション栄養
 ・下肢装具連携
 ・歯科衛生士の介入
 ・日本版CCRC—移住による地域包括ケアの新しいかたち
 ・地域共生社会
 ・リハビリテーションロボットと機能的電気刺激治療

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養成校学生のみならず臨床現場の療法士必読のテキスト
書評者:濱岸 利夫(中部学院大准教授・理学療法学)

 「指定規則」という言葉から,臨床現場にいる理学療法士,作業療法士の方々は,何を想像するだろうか?

 2018年当時,私は「指定規則」という言葉を聞いてもピンとこなかった。何かしら「養成校の規則を決めてあるのかもしれない」と想像することはできたが,養成校の教員を10年間勤めてきていたにもかかわらず,「理学療法士作業療法士学校養成施設指定規則」をほとんど知らなかった。

 その後,2020年4月の入学生より,改正された「指定規則」が適用されることを念頭に置いて準備を進めるうちに,その内容を理解するようになっていった。

 ただ,前回の改正は1999年であり,当時私は臨床現場で「障がいを持つ子どもたち」の理学療法に携わっていたこともあり,施行目前に迫っていた「介護保険制度」について学んでいた。そのような経緯もあって「指定規則」に興味を持たなかったのだろう。

 このたび医学書院より,『《標準理学療法学・作業療法学・言語聴覚障害学 別巻》リハビリテーション管理学』と題するテキストが出版された。

 装丁は地味な印象を持ったが,開いてみれば,カラー刷りであり,目に優しい作りになっている。また多くの図表を取り入れており,「管理学」を学ぶ学生にとって理解しやすいと思う。

 さらに「定義」などのキーワードも丁寧,かつコンパクトに記載されており,臨床現場で多忙を極めている理学療法士,作業療法士,言語聴覚士にも参考になることは間違いない。

 本書を開いて,具体的な内容をみれば,まず第1章に「社会保障制度」がある。「どうして,『管理学』のテキストであるにもかかわらず,『社会保障制度』……?」と疑問を持つかもしれない。

 実際に私も店頭で本書を手にしたときにそう思った。しかし,本書の扉にある「序」を丁寧に読むと「社会保障制度」を最初に持ってきた理由がわかる。そこには「われわれ療法士は医療保険と介護保険に代表されるように国の社会保障制度のもとで従事している(中略)それらは複雑で多岐にわたり,しかも定期的に改定されていく」と述べられている。

 私も臨床現場に勤務しながら介護保険制度を学んだ。私たち療法士は「社会保障制度」はもちろんのこと,新しい制度を熟知した上で,それぞれの現場でリハビリテーションに従事しなければならない。一人の国民としても,自分のライフサイクルと社会保障制度を理解する必要があるだろう。

 学生は,ともすれば治療技術に目を奪われやすい。もちろん,そのこと自体を否定しないが,自分たちがめざす職種の基本となる事柄をしっかりと押さえておかなければならない。

 また本書は,近年全ての職業において社会から強く求められている「職業倫理」や「業務管理」,そして医療・福祉・介護の現場で必然となっている「多職種連携と地域連携」にもページを割いている。

 将来,制度などが改定される度に,いずれの内容もアップデートされていくことを期待する。さらにいえば,「感染対策管理」についての記載も加えてほしい。

 今回,本書を編集した斉藤秀之氏や能登真一氏が,臨床現場において多職種のチームリーダーと連携・活躍し,多くのことを学び,そして重責を担ってきたからこそ,編さんすることができたと考える。

 学生用のテキストとしてはもちろんのこと,全ての療法士にぜひともお薦めしたい。

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