FAQ
心不全診療における心エコー図検査の活用法
患者や医療者のFAQ(Frequently Asked Questions;頻繁に尋ねられる質問)に,その領域のエキスパートが答えます。
寄稿 泉 知里
2021.05.10 週刊医学界新聞(通常号):第3419号より
日本では,欧米に先んじて超高齢社会に突入しました。高齢化に伴い,心不全患者さんはどんどん増加しているため,心不全は非循環器専門医も診療しなければならない”Common Disease”になってきたと言えます。
心不全は1つの病名ではなく,心筋症や弁膜症,冠動脈疾患など全ての心臓病の最終像です。そのため,心不全患者さんの診療はもちろん,心不全の原因となる心臓病の早期診断も非常に重要となります。そこで本稿では,心臓病を早期診断するための非侵襲的な有力ツールである,心エコー図検査の活用法を取り上げたいと思います。
FAQ 1
心不全を疑う患者さんを診療することが増えています。クリニックではどの程度まで心エコー図検査で評価すればいいのでしょうか?
息切れなどを訴えて来院した患者さんを診療する際,心不全を念頭に置いて病歴や聴診所見を入念に確認することも重要ですが,それに加えて,ぜひ心エコー図検査を実施してください。①心不全かどうか? ②心不全の原因が何か? を併せて診断できるからです。また,心不全と診断した後は,治療の効果も心エコー図検査で判断できます。
①心不全かどうか?
主に心腔内圧や静脈圧が上昇している所見があるかどうかで判断していきます。ドプラ法を使用できれば左室流入血流速度と三尖弁逆流シグナルの最大流速は非常に有用な指標となりますが,ドプラ法が使用できなくとも,下大静脈が拡張しているか否かだけでも重要な指標となります(図)。

ドプラ法が使用できなくとも,下大静脈が拡張しているか否かだけでも重要な指標となる。
②心不全の原因が何か?
左室壁運動の評価が重要となります。心不全は左室駆出率により「駆出率の低下した心不全(HFrEF)」と「左室駆出率の保たれた心不全(HEpEF)」に大きく分けられ,治療法も異なります。すなわち,左室駆出率は心不全の病態を考える上で最も基本的な指標と言えます。シンプソン変法を用いて左室駆出率を定量化できればベストですが,正常なのか,ちょっと悪そうか,すごく悪いか,の3段階に分けて評価するだけでも,診察上,重要な情報となります。もう少し慣れてくれば,見た目の駆出率(Visual EF)を10%刻みで判断することも可能かもしれません。
壁厚や左室サイズも,原因心臓病を診断する上で重要な手掛かりとなります。それぞれの大まかな正常値(壁厚:7~10 mm,左室サイズ:左室拡張末期径・男性55 mm以下,女性50 mm以下)を知っておくと参考になるはずです。見るからに厚い/大きい,というような感覚も実臨床では必要となります。
最近,高齢の弁膜症患者が増加しています。見逃しを防ぐため,弁の異常(輝度や厚さの異常,弁の動きの異常)も観察すると良いでしょう。
ただし,上記で述べた以外にも,心エコー図から読み取るべき指標は数多くあります(表)。クリニック,特に非循環器専門医が全ての指標を評価することは不可能ですし,使用するエコー機器の種類によっても評価できる項目は限られます。自施設でどこまで評価するのかを決めておくことも重要です。

Answer
心不全の診断や原因疾患の探索において,心エコー図検査は中心的な役割を果たします。下大静脈の拡大,左室の駆出率・サイズ・壁の厚さについて,大まかにでも結構ですので評価してください。ドプラ法が可能な機器であれば,さらに多くの情報が得られます。
FAQ 2
検診で心雑音を指摘されて受診した患者さんに心エコー図検査を行うのですが,自信がありません。確認すべきポイントを教えてください。
高齢化に伴い,大動脈弁狭窄症や僧帽弁閉鎖不全症などの弁膜症が近年増加しています。これらは慢性的な経過をたどることがほとんどで,無症状で進行することが知られています。無症状の弁膜症の多くは,検...
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泉 知里(いずみ・ちさと)氏 国立循環器病研究センター 心臓血管内科 部長
1990年京大医学部卒。天理よろづ相談所病院にジュニアレジデントとして入職。2006年循環器内科副部長,08年より救急診療部部長を兼務。18年2月に国立循環器病研究センター心臓血管内科部長として赴任,現在に至る。著書に『国循・天理よろづ印 心エコー読影ドリル【Web動画付】』(医学書院)。
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