医学界新聞

看護師のギモンに応える! エビデンスの使い方・広め方

連載 友滝 愛

2021.04.26 週刊医学界新聞(看護号):第3418号より

 近年「エビデンスに基づく〇○」といった言葉が広く使われるようになりました。この考え方は,Gordon Guyattが1991年に提唱したEvidence-Based Medicine(EBM)にさかのぼります1)。EBMの“Medicine”は,医学的な治療だけではなく,看護やリハビリなども含まれ2),それらの実践を“Practice”としてとらえEBP3)と呼ばれることも増えました。

 EBPは「利用可能な最良のエビデンス・医療者の経験・患者の価値観を統合し,最善の医療を行う」という考え方です2)。自分の知識や経験の範囲ではわからない,もっと他に良い方法がないか,何を頼りにすればいいんだろう……と臨床で迷うとき,特に臨床研究の知見は実践のよりどころの一つとなります。

 本連載では,EBPの考え方や事例を紹介し,明日の実践につながるヒントをつづります。第1回は,臨床の悩みからエビデンスをたどり,実践に取り入れ患者アウトカムにつなげるまでを概観します。

 私たちは悩みや疑問に遭遇したとき,何を頼りに解決の糸口を得ているでしょうか? これまでの経験を手掛かりにしつつ,それでもわからなければ,誰かに尋ねる,手順書やチェックリストを確認する,WEBで情報を検索する,研修に参加する,臨床ガイドラインを読む,論文を探すなどの行動を起こして,実践の根拠(エビデンス)を探すと思います。

 さまざまなエビデンスが存在する中で,特に研究から得られるエビデンスは臨床でどう役立つのでしょうか? ここでは「せん妄の発症や期間を減らしたい」と悩む看護師Aさんの事例から考えてみます。

 せん妄患者さんのチューブの自己抜去が起こってしまった。看護計画に沿って取り組んでいるけれど,うまくいっているのかな……。主治医と薬の調整も相談したいし,他にも効果的な方法がないかな。日中に身体活動を促す? どれくらいの強度や頻度がいいんだろう。でも転倒が増えるのも不安だし,新しい取り組みだと業務が増えることに慎重になるスタッフもいるかも……。せん妄の発症機序も勉強し直さないと。

 「元気になって早く家に帰りたい」って言う患者さんの希望に,看護師として応えたい!

 Aさんの例では,例えば「効果的な方法がないかな」という疑問は,「せん妄患者に〇〇をすることは,今行っているケアや治療と比べて,せん妄の期間をより減らすのか?」という研究仮説に置き換えることができ,既に多数の先行研究があります。

 一方で,「効果的な方法」と言っても患者の背景はさまざまで個人差もあります。どのような人に効果が期待できるのか,そして,利益(メリット)ばかりでなく転倒など患者に起こり得る不利益(デメリット)がないかも考慮しなければなりません。「どのような背景を持つ患者さんに,どのような効果や有害事象が,どの程度起こり得るのか」といったエビデンスも研究から示されます。

 自分の知識や経験ではわからないことも,論文には新たな情報や選択肢が提示されており,どの方法がより良いかのヒントも隠されています。EBPでは医療の不確実性を念頭に置き,エビデンスがどの程度信頼できるかを吟味して取捨選択し,「患者さんが元気になって早く家に帰る」という目標により早く近づく方法はどれかを検討します。

 EBPに興味はあるけれど,「文献を探したり読んだりするのは自信がない」「他の人はEBPについてどう思うか」といった悩みもよく聞かれます。このような悩みは,効果や不利益に関するさまざまなエビデンスが研究から示される中,「適用すること(適用しないこと)が望ましいケアや治療が,実際の臨床で行われていない(行われ続けている)」というEvidence-Practice Gapにもつながります4)

 そこで本稿では,EBPで欠かせない①エビデンスへのアクセスと,②組織的な取り組みの2点について述べます。

 1つ目のエビデンスへのアクセスは,インターネットの普及と二次文献の増加により,信頼できる情報にアクセスしやすい環境へと近年急速に変化しています。二次文献の例には,臨床ガイドラインや系統的レビュ...

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国立看護大学校看護学部 助教

2002年広島県立保健福祉短大看護学科(当時)卒。東大医学部健康科学看護学科の学士編入と看護師の臨床経験を経て,研究を通じた臨床現場への貢献に関心を持つ。東大大学院修士課程で疫学・生物統計学を学んだ後,臨床医主導の研究支援やデータ利活用の事業に携わる。15年より現職。看護師のEBPをテーマにした研究に取り組み,20年千葉大大学院にて博士(看護学)取得。「連載を通じて,EBPのバトンをつないでいきます」。

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