医学界新聞

書評

2021.04.12 週刊医学界新聞(レジデント号):第3416号より

《評者》 兵庫医大教授・理学療法学

 理学療法教育における臨床実習は,臨床現場において臨床体験を通して学生が学びを深めていくために極めて重要なカリキュラムです。2020年4月に入学した学生から,改正された「理学療法士作業療法士学校養成施設指定規則」が適用となり,臨床実習の在り方が変わろうとしています。これからの臨床実習は,実習生が患者を担当する担当型臨床実習ではなく,診療が展開されている場面に実習生が参加するクリニカルクラークシップ(診療参加型臨床実習)が中心となってきます。

 このことを受け本書は,クリニカルクラークシップによる臨床実習を前提として書かれています。また,2020年度の新型コロナウイルス感染症拡大によって余儀なくされた,学内での代替え実習についても踏み込んだ記載があります。「学内実習で代替え可能なものは何か?」を考える参考になると同時に,臨床現場でなければ得られないものへの気付きも得られる内容となっています。

 臨床実習に関する書籍としては,臨床実習指導者が指導の手引きとして参考にするもの,逆に臨床実習生が臨床実習を乗り切るために,苦労する実習レポートの書き方などに焦点を当てたものを多く見かけます。しかし,本書を手に取って読んでみると,そのようなハウツー本ではなく,クリニカルクラークシップとは何か,その中でどのように学ぶ必要があるのかについて,実習生自身が臨床実習に臨むに際して理解しておくべきことが端的にまとめてあります。ぜひ,実習生の皆さんにも読んでいただきたい一冊です。

 本書の後半には「ケーススタディ」が掲載されています。初版から同様の構成をしていましたが,第3版となり趣が変わっています。クリニカルクラークシップでの臨床実習では,症例レポートを書くために対象者を担当するのではなく,臨床実習指導者と共に対象者とかかわり,診療活動に参加することがポイントとなります。

 では,実習生が診療に参加するために必要なことは何でしょうか? 基本的な知識や技術はもちろんですが,それ以上に大切なことは,目の前の対象者について臨床チームと情報を共有することです。ケーススタディのページのサイドには,実習で学ぶポイント,記録ポイント,情報源は何かが示されています。これらのポイントを手掛かりとし,臨床実習指導者に質問することで対象者に対する理解を深め,臨床実習をより有益なものにしていけることでしょう。また,臨床実習終了後の振り返りにおいて,このようなケーススタディが書けるように,かかわる一例一例の情報を整理しながら臨むことが,臨床実習をさらに価値あるものとするでしょう。

 本書は,臨床実習指導者にとっては臨床実習指導の指南書であり,実習生にとっては臨床実習で学びを得るための手引きです。多くの方が参考にされ,有益な臨床実習が展開されることを願ってやみません。

《評者》 桜十字福岡病院リハビリテーション部理学療法士

 私が就職した時代,動作解析装置などの客観的な評価ができる機器は高価で計測の手間もかかり,臨床現場で用いることはほとんどなかった。そのような機器は,臨床現場で使用するというより,研究者がデータを取るために用いるものというイメージが先行していた。そのため,臨床現場においては,動作分析などの多少の主観的な内容を含む評価のみとなり,その解釈に苦しむことが多々あった。...

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