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臨床にいかす表面筋電図 [Web動画付]
セラピストのための動作分析手法

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筋電図による計測/解析により、疾患の筋活動の特徴が明らかになり、治療や歩行補助具の違いによる筋活動の変化を示すことができる。しかし、セラピストの多くがその一歩を踏み出せないでいる。本書は信頼性の高い表面筋電図の計測と得られたデータの正確な評価がシンプルにわかりやすくまとめられている。臨床における実践的な筋力トレーニング、論文や学会発表にいかすプレゼンテーションのコツが手に取るように理解できる一冊。

編集 加藤 浩 / 山本 澄子
発行 2020年12月判型:B5頁:160
ISBN 978-4-260-04256-7
定価 4,950円 (本体4,500円+税)

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推薦の序(大畑光司)/(山本澄子)

推薦の序

 リハビリテーションにおける動作分析は観察的に行われることが多く,定量的な評価は難しいとされてきた.しかし,定量的な評価手法である三次元運動解析や動作筋電図などの測定装置は古くから存在しており,これまで手段がなかったわけではない.それにもかかわらず,現実的にそのような測定が一般化しなかったことは事実である.

 この原因のひとつは,測定の前処理や準備,測定時の拘束などの問題である.臨床場面では特に運動障害が生じている患者に対して,長時間の拘束や運動条件の設定がそもそも困難な場合が多い.わが国で多く導入されている光学式三次元運動解析は,効果的に関節角度などの定量的なデータを得ることが可能である.しかし,マーカーの貼付やカメラの設定などが煩雑であり,それらの設定によっては測定領域が制限され,マーカーが隠れてしまう可能性が常に生じる.筋電図においても,皮膚前処理の必要性やモーションアーチファクトの問題などのために,習熟した手続きが必要とされた.したがって,習熟した研究者だけが行える手法と考えられてきてしまったことが問題だったと考える.

 しかし,これらの問題は近年の測定機器の飛躍的な進歩によりほぼ解決されつつある.例えば,慣性センサーの精度が向上し,光学式三次元運動解析と同様のデータを簡便に測定できるようになってきた.筋電図についてもプレアンプやワイヤレスの発達により,かなりノイズフリーとなった.したがって,本書にあるような事前処理の一部は知識として理解しておくことは重要だが,実際的な測定場面では不必要な手続きとなってきたといえるかもしれない.

 しかし,それでも定量評価が行われていない背景には,得られるデータの臨床的有用性の認識の問題がある.臨床現場では,運動時の関節角度や筋活動の変化が何を意味しているかを判断することが求められる.確かに数値は変化しているように見えるが,どのようにその変化を解釈するかによって,その意味は大きく変わるからである.これを理解するためには,対象とする疾患において,測定する関節運動や筋活動にどのような意味があるかを知っておく必要がある.そのため,測定前に検討すべき「仮説」が重要であり,単に網羅的に計測したとしても有益な情報は得られないであろう.

 筋電図は運動解析と異なり,単に外的に生じている運動を見る手段ではない.どちらかというと本人の意図や文脈に依存する情報を与えてくれる.言い換えると単に「関節角度が何度変化した」という部分ではなく,「関節角度を変化させるために,どのように運動を変化させようとした」という部分に焦点があたる.その意味で,筋電図を生かすためには習熟した臨床的感覚が最も重要だといえる.

 私はこれまで表面筋電図を臨床で用いることの有用性について,多くの場で指摘してきたが,これは非日常的な条件で設定される「(いわゆる)研究」を推奨していたわけではない.本書の第6章にあるように日常的な臨床場面でどのように用いるかが重要だと考える.そのような感覚を磨くために,ぜひ日常的に形式ばることなく筋電図を用いてみていただきたい.

 2020年10月
 大畑光司
 (京都大学大学院リハビリテーション科学コース・理学療法学)




 筋活動は動きの源である.動きに問題がある症例に対して,多くのセラピストが外から見える動きだけでなく筋活動を知りたいと考えるのは当然であろう.研究者は各種疾患の筋活動の特徴を明らかにしたり,治療方法や歩行補助具などの違いによる筋活動の変化を示すことができれば,説得力のある研究結果を示すことができる.臨床家にとっては個々の症例の筋活動の問題点を明らかにし,さらに治療結果のフィードバックを行うことができればモチベーションの向上にとって非常に有益である.このように筋活動を知ることは重要であり,これを知ることができる筋電計測は多くの情報を与えてくれる.しかし,実際には多くのセラピストが,計測に対して一歩を踏み出せないことが多いのではないだろうか.その理由として,手元に計測器がないこと,あるいは計測器があっても正しく使えるかどうか不安がある場合が多いと考える.計測器については,最近,安価で性能のよい筋電計が各種売り出されているので,以前より計測する機会は増えている.そこで,正しく使うための方法について,研究と臨床に分けて考えてみる.

 研究者にとっては,目的に対してどの筋をどのように計測するか,特に信頼性の高いデータを得るための手順が重要である.また,表面筋電図で得られる情報で十分だろうか,という心配もあるであろう.信頼性の高い表面筋電図計測と処理方法については,本書の第2章,第3章,第5章で,計測時の留意点,電極設置位置,最大随意筋収縮計測,解析方法の手順が具体的に述べられている.特に動作中の筋電計測では,動作の局面と筋活動の関係が重要であるため,フットスイッチやビデオといった他の計測との併用が不可欠である.この点についても,本書では随所に具体的な方法が示されている.研究の場合,何が起こっているかさまざまな情報を知りたいということから,多くの筋を計測してそこから何かを見つけようという傾向があるが,これは適切な方法ではない.自身の興味や疑問を明らかにするためには,研究を始める前にどの筋を計測する必要があるかあらかじめ決めておく必要がある.

 臨床で筋電計測をする場合,さらに内容を絞った計測が必要となる.なぜなら,結果を解釈して対象者にわかりやすく説明できなければ,臨床現場でいかせる計測とはなりえないからである.臨床の場で使用する計測器は簡便なタイプが多いと考えられるが,簡便なタイプは被験筋の数に対応するチャンネル数が限られる場合が多い.筆者は,臨床現場で使用する筋電計は最大2チャンネルで十分と考えている.例えば,腓腹筋と前脛骨筋,大殿筋とハムストリングスなどの筋電図から得られた情報を使って,シンプルにわかりやすく説明できることが重要である.そのためには,本書第6章の「臨床における筋電計測の実際」が参考になるであろう.

 さらに,研究と臨床いずれにおいても重要なのは,通常の動きではどのタイミングでどの筋が働くかということを理解していることである.正常な動作の筋活動を知ることで,初めて異常がある場合の問題点を見つけ出すことができる.そのために,本書の第4章の内容は役立つが,実際には書籍や文献を読んだあとに自分自身で計測を実施して結果について納得することが必要であろう.

 以上のように筋活動を知るために表面筋電計測は非常に有益な手法であるが,原則的には表在筋の計測であることからいくつかの限界があることも事実である.本書では表面筋電図の欠点や限界についても,第1章を中心に具体的に述べられている.表面筋電計測の欠点と限界を知ったうえで,計測で得られた結果を活用して有意義な研究や臨床応用がなされることを期待している.

 2020年10月
 山本澄子

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第1章 表面筋電図に必要な基礎知識
  表面筋電図とは
  表面筋電図の仕組み
  表面筋電図でわかること―強みと弱点

第2章 筋電図を用いた計測
  表面筋電図の計測手順と注意点
  電極の設置方法
  SENIAMが推奨する各筋の電極設置位置

第3章 筋電図の見かた,最大随意筋収縮計測の方法
  筋電図の見かた
  最大随意筋収縮(MVC)計測の方法
  各筋における最大随意筋収縮(MVC)計測方法
  マッスルダイナモメータメソッド

第4章 筋電計を用いた動作計測
 関節モーメント
  筋活動と関節モーメントの関係
  筋活動によって関節モーメントを推定する際の限界
 歩行開始,立ち上がり,座り,昇降
  関節モーメントを意識した筋活動を用いた動作分析の実際
 歩行
  歩行周期の理解
  歩行の筋活動動作分析の実際
  一歩行周期における筋活動のタイミングとピーク点

第5章 筋電図データの解析方法
  表面筋電図の波形処理
  表面筋電図の解析要素
  筋活動の正規化(標準化)
  表面筋電図の解析の流れ

第6章 臨床における筋電計測の実際―脳卒中片麻痺患者を中心として―
  セラピストにとって筋電図計測を活用することの意義
  脳卒中片麻痺者の歩行再建のための理学療法の基本的な考え方
  筋電図を用いた評価事例
  患者を評価する際に押さえておくべきこと
  患者の評価のまとめ

付録
 1 筋電に関する研究発表の際に必要な知識
 2 上市されている筋電計について

Column
 1 運動単位
 2 筋の長さと張力の関係
 3 筋の収縮様式
 4 筋の収縮速度と張力の関係
 5 フィルタの用語を正しく理解しよう

参考図書・HP
索引

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リハビリテーションの見える化の大きな一歩となり得る書
書評者:遠藤 正英(桜十字福岡病院リハビリテーション部理学療法士)

 私が就職した時代,動作解析装置などの客観的な評価ができる機器は高価で計測の手間もかかり,臨床現場で用いることはほとんどなかった。そのような機器は,臨床現場で使用するというより,研究者がデータを取るために用いるものというイメージが先行していた。そのため,臨床現場においては,動作分析などの多少の主観的な内容を含む評価のみとなり,その解釈に苦しむことが多々あった。しかし近年,安価で容易に計測可能な評価機器が多く開発され,臨床現場においても使用される機会が増えつつあり,使用している施設では科学的根拠に基づいたリハビリテーションを実施する上で,必要不可欠なものとなった。

 その一つに表面筋電図が挙げられる。表面筋電図は安価に容易に計測できるようになり,かつては動作分析を行い筋活動を推測するという主観的な方法に頼っていた動作時の筋活動が,どのような動作を行ったときに,どこの筋が活動しているかという客観的評価が容易にわかるようになった。客観的評価が可能になったことで,問題点の具体化,それを基にしてアプローチ方法の見直しなどを行うことが可能になり,より効果のあるリハビリテーションを実践するには必要不可欠なものとなった。しかし,表面筋電図を臨床現場で使用するに当たり,使用方法や解析方法など,使用したことのない人にとってはある種のアレルギーのように感じてしまい,その入り口が狭くなっているのも事実である。

 本書を読めば,多くの人がリハビリテーション専門職が抱えている一種のアレルギーを克服し,臨床現場で表面筋電図を当たり前に計測することができ,リハビリテーションがさらに一歩前進するという期待を抱いた。内容としては基礎的な知識,計測方法から解析方法まで細かに説明されている。今まで表面筋電図を使用していなかった人にとっては,表面筋電図を使用するためのバイブルのようになると思う。そして表面筋電図を今まで使用していた人にとっても,計測方法や解析方法を具体的に例も交えて説明してあるため,計測をより良いものにすることができると思う。また随所に動画が使用されているため,文字ではわかりにくい部分も目で見ることにより,より実践的に理解することができる内容になっている。

 われわれリハビリテーション専門職にとって主観的な評価では足らない部分,そして主観的な評価では勘違いしている部分を客観的に理解することは,患者にとって有益なリハビリテーションを提供する第一歩である。本書がこれからのリハビリテーションの見える化の大きな一歩となり得ると感じる次第だった。


初めて学ぶ人はもちろん,筋電計を使うとは思えない人にも読んでほしい
書評者:對馬 栄輝(弘前大教授・理学療法学)

 1990年代の理学療法に関連する研究では,表面筋電計がよく用いられていた。私も例外ではなく,理学療法士になった初年から研究テーマであった姿勢・動作解析のために,下肢筋の活動を表面筋電計で測定していた。当時は,まだペンレコーダ式の記録方式であり,筋活動を記録したロール状の記録紙を持ち歩き,対象者ごとに筋活動の様相を観察するという地道な作業に随分時間を費やした苦労は今でも鮮明に覚えている。

 それほど待つ間もなく,パソコン接続用のアナログデジタル(AD)コンバータが普及し,筋電図をパソコンに取り込んで再現できる時代がやってきた。モニター上に筋電波形が再現され,ロール状の記録紙は,いつしかフロッピィーディスクに変わった。いまやUSBメモリの時代だが。

 パソコン上で解析できるとなると,見ることがなかった波形処理のメニューがたくさん登場してくる。波形を観察すればよいだけだった次元から,聞いたこともない用語に惑わされて,今度は波形処理の方法に悩まされることになる。当時は書籍も少なく,ましてや表面筋電計を扱ったものがほとんど見当たらず,養成校の先生にしつこく伺いながら,手さぐりで少しずつ問題をクリアしていくほかなかった。

 もしそんなときに,この本があったら……と思わせられた良書が見つかった。しかも理学療法の視点から書かれている,表面筋電図と動作分析手法の書籍である。この本があったら,面倒な理論に悩まされることなく,もっと早く研究が進んだに違いない。また,理解が深まって研究成果を臨床での理学療法に応用できたに違いないと思わせられるほどだ。

 本書は,表面筋電図に必要な基礎知識,筋電図を用いた計測,筋電図の見かた・最大随意筋収縮計測の方法,動作計測,データの解析方法,臨床における計測の実際まで,幅広く,しかもカラーで平易に,しかし手抜きすることなく説明が盛り込まれている。しかも,付録にはWeb動画までついている。せんえつながら,この手の原稿では悪いことは書けない。しかし,悪いことが見つからなかった……。

 筋電計は筋肉の活動を記録し,視覚的に確認できる唯一の測定法である。今では3次元動作解析機器も普及しているが,それとは違って姿勢保持・動作中の筋の活動を観察できる。動作と同時に筋電図を見ると,実に巧妙な筋同士の活動様式が観察できる。理学療法士であれば,これが非常に興味深い。まだ見たこともない人は,ぜひ臨床での測定に活用してほしい。今では,数万円で購入できる筋電計もあり,臨床現場でも難なく購入できて普及する日が来ると思う。その時になってから「もっと先に勉強しておけばよかった」と思っても遅い。初めて学ぶ人はもちろん,今「筋電計なんて使うとは,とうてい思えない」という人ほど,ぜひ一読してもらいたい。臨床での疑問の解決策がそこに隠されているかもしれないからだ。


表面筋電図を臨床に生かすスタートに
書評者:上條 史子(昭和大講師・理学療法学)

 表面筋電図の計測や解析を最初に実施した記憶があるのは,誰しも学生時代と思われる。その当時は,教員の言葉や指導書の記載事項通りに計測を行い,何とかレポートを作成した方がほとんどだと思う。

 いざ,患者さんに向き合い始めると,なぜ先輩はうまくいくのか,治療方法が合っているのかなどのさまざまな疑問が湧き,その疑問を解決しようと考える。手法としては,文献や書籍を読むことや,実際に生じた疑問を解決してくれる客観的な機器や器具を使うことが選択される。ここで出てくるのが,表面筋電図や三次元動作解析装置などの客観的な評価手法である。いざこのような装置を使用するとなると,まず原理や使用方法がわからない,職場にも聞ける人が少ない,そもそもそんな高額な機器がない……だから諦める,と負のループに陥り疑問を解決しなくなってはいないだろうか。前述した三次元動作解析装置はまだまだ高価で,計測するまでの準備と計測後の処理にも時間がかかる。一方,表面筋電図は安価なものが出てきており,準備や計測後の処理も簡易なものになってきているため,利用しやすくなってきている現状がある。

 本書は,表面筋電図を使用するにあたり必要な基礎知識から,電極貼付の仕方を含めた計測方法,解析方法,臨床での応用の実際まで網羅されている。執筆されている先生方は,バイオメカニクスのみならず,筋の特性やその機能について研究されており,治療対象者への応用も実践されている。そのような執筆陣だからこそ,難しい言葉の羅列ではなく,わかりやすい言葉を用いながら,必要な情報が入っている一冊となっている。さらに図やイラストも豊富に使用されており,原理や方法がわからない,職場に聞ける人がいないという最初の負のループを必ず,うち砕いてくれる書籍である。また,表面筋電図のみならず,正常動作での関節モーメントの説明と筋電図波形が並列して記載されており,両者を関連付けて考えやすい構成になっている。表面筋電図が苦手であるという方にも手に取りやすい一冊と考える。

 私たちセラピストが改善させるのは,動作である。この動作を行っているのは,もちろんヒトであり,筋が適切に働くことで成り立っている。そのため,動作における筋活動を把握することは非常に重要で,表面筋電図から得られる情報は評価や治療の効果判定に用いることができる。もちろん,治療対象者に筋活動をその場で実際に見てもらいながら,セラピストの考えを示すことや治療前後の活動の違いを説明するツールにもなり得る。セラピストの主観,治療対象者の主観だけで治療を終わらせず,両者にとって治療へのモチベーション向上の効果が期待できるであろう。そういった面でも表面筋電図は,もう少し臨床場面で使用されるべきものであると思われる。ぜひ,この一冊から表面筋電図に興味を持っていただき,臨床場面に生かすスタートとしてもらいたい。

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