臨床感染症2000~2021
変わったこと・変わらないこと
『medicina』誌58巻5号より
対談・座談会 青木 眞,上原 由紀,岡本 耕
2021.03.29 週刊医学界新聞(通常号):第3414号より

感染症診療のバイブルともいえる『レジデントのための感染症診療マニュアル』(医学書院)の初版発行から20年ほどが経過し,感染症診療を取り巻く環境は大きく変化した。日本の感染症診療の発展を支えてきた医師たちはこの変化をどのように感じているのか。『medicina』誌では,同書著者の青木氏をはじめ3人の医師が感染症教育の変化と今後見込まれる改善・成長の余地について語り合う座談会を企画。本紙では,その内容をダイジェストでお伝えする(座談会全文は『medicina』誌58巻5号に掲載)。
総合診療マインドの重要性
青木 感染症診療は,総合診療の中に取り込まれると健康な姿を見せます。最近,ある番組で「これからいろいろなパンデミックが来るはずだけれども,それに対する備えとして,日本に一番必要なのは何だと思いますか」と聞かれて,僕はそれは「総合診療マインドである」と答えたのです。
コロナも,血液凝固の問題から若者の脳血管障害で表現されたり,急性腎障害が出てきたり,糖尿病になったり,子どもだったら川崎病みたいになったりします。今後,どんな微生物によるどんな臨床像を呈するパンデミックが起こるかわかりませんが,普段からある程度全身のunknownを扱い慣れている総合診療とか,プライマリ・ケアの人たちの層を厚くすることが,とても重要だと思っています。
そういう意味でも感染症診療が,感染症診療だけを発達させるのではなくて,日本に一番必要とされる総合診療マインドを持ったホスピタリストとか,プライマリ・ケア,在宅の先生たちを増やすドライバーになってくれたらいいですね。その意味では,総合診療マインドを広げる,1つのいいきっかけとして感染症科が役立つといいなと思います。
上原 未知のものを扱うというのはとても大変なことですよね。10年ほど総合診療科に在籍していましたが,ちゃんとトレーニングもしないままに持てる知恵をすべて振り絞って外来をしていたので大変でした。でも振り返ってみると,on the job trainingで幅広い診かたを身につけることができました。
感染症科の外来をしていても,感染症ではない方が感染症科に紹介されて,診る機会があります。感染症である確率は5割程で,それ以外は試行錯誤しながら道筋をつけることも多かったりして,やっぱり感染症診療と総合診療は親和性が高いと思いますし,感染症のことだけやっているのは,危ういことかもしれません。
岡本 感染症診療では病因で捉えて臓器横断的に診るのが本質ですし,複数の臓器で問題が起きたときに,総合診療的マインドがあるといろいろな角度からアプローチしやすいですね。それに,上原先生が言われたように,感染症じゃないことがしばしばあるけれども,いろいろな科で「うちじゃありません」と言われて,気づいたら私だけがフォローしているようなこともあって(笑)。
上原 「うちじゃない科」ですね。
岡本 そうなんです。そういったときに,自分なりに頭をひねって,何だろうと考える。実際,感染症科だったり,感染症医が,感染症だけじゃなくて総合診療的なマインドを伝える役割を担っているというのは重要な部分じゃないかと思います。
青木 感染症マインドが総合診療マインドのドライバーになる,総合診療の追い風になる面があると同時に,逆のベクトルもあると思うんです。総合診療マインドというのは,その人の家族がどうな...
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