医学界新聞

書評

2021.03.22 週刊医学界新聞(看護号):第3413号より

《評者》 京都大学大学院医学研究科人間健康科学系専攻 緩和ケア・老年看護学分野教授

 アドバンス・ケア・プランニング(以下,ACP)とは,「もしものとき」にあなたの望む生活や医療・ケアを受けるために信頼する人たちと話し合うことであり,超高齢社会の中で重要な役割を果たすものである。日常臨床においてACPという言葉は広まっているが,「死」に関することは縁起でもない話と敬遠され,なかなか切り出しにくいのが実情である。また,疾患により病の軌跡が異なるため,何を,どう進めればよいのだろうかと困難を感じている医療者も少なくない。「言うは易く行うは難し」ともいえる行為であろう。こうした状況を打破する一歩として,ACPについての大まかな経過やエビデンスの流れを理解しておくことは重要であるとの視点から執筆されたのが本書である。過去30年間に蓄積されたACPの知見が概観できるようにエビデンスを中心に解説されており,ACPの大きな流れを正しく理解することができる。本書は緩和ケア医として,研究者として日本の緩和医療をリードされている森雅紀医師と森田達也医師のM&Mコンビによる初の共著であり,おのずと期待は高まるばかりである。

 本書は5つのパートから構成されている。Part Iでは「ACPを語る上での基礎知識」として,SUPPORT研究をはじめとしたACPの概念研究を紹介している。続くPart IIでは,ACP介入研究を概観する。読み込むことで知識がぐっと深まり,整理されること間違いなしである。Part IIIでは,「ACPに関するリアルワールドの研究」として,米国で行われた大規模な観察研究を取り上げ,日本におけるACP研究と日本文化に沿った研究の必要性と課題が述べられている。さらにPart IVでは,ACP研究を発展させていくための新たな研究方法論が,予後予測と行動経済学の2つのキーワードに基づいて紹介されている。普段聞きなれない用語もあるが,じっくり繰り返して読めば「なるほど!」と納得されるはずである。最後のPart V「ACPに関する日本の議論を整理するための雑談」はお二人の人柄が伝わってくる論議で,わくわく感を感じつつ読み進めることができる。私が面白いなと思ったのは「ナウ・ケアプランニング問題」である。「ナウ・ケアプランニング」とは,今(ナウ)意思表示ができる状態で現在や今後の健康状態などを話し合うことを指し,従来のACPよりも範囲が広い。確かに,日常臨床では,こうした取り組みやケアもA...

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