医学界新聞


医行為の法的位置付けで,主体的な臨床修練の推進を

インタビュー 齋藤 宣彦

2021.03.08 週刊医学界新聞(レジデント号):第3411号より

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 医学生が臨床実習前に到達しておくべき知識・技能・態度は,医療系大学間共用試験実施評価機構が行うCBT(Computer Based Testing)とOSCE(Objective Structured Clinical Examination)によって評価されてきた。その共用試験が公的化されることが2020年5月,厚労省医道審議会医師分科会の報告書に明記された1)。2025年の運用をめざし,公的化を盛り込んだ法案が今通常国会に提出されている。卒前・卒後の一貫性ある医師養成がめざされる中,公的化によって2つの試験の位置付けはどう変化するのか。試験の公平性確保に向けた課題と取り組みを,共用試験の準備や解析に携わる齋藤宣彦氏に聞いた。

――CBTとOSCEの2つの試験が公的化されることになりました。臨床実習前の共用試験は,公的化によってどのような位置付けになるのでしょうか。

齋藤 2つの試験は法律に基づき認められることになります。法整備上どのような呼称になるか未定ですが,国が行う「準国家試験」,あるいは「一次国家試験」のイメージです。公的化によって臨床実習を行う医学生の水準が一定程度担保されることから,臨床実習で医行為を行うStudent Doctorが法的に位置付けられます()。

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 CBTとOSCEの公的化で,診療参加型臨床実習での医行為の実施促進が期待される

――共用試験の公的化が求められた背景は何ですか。

齋藤 診療参加型臨床実習が進まなかったことです。臨床実習で医行為を行う医学生には,これまで法令上の位置付けがなされていませんでした。医師法では「医師でなければ,医業をなしてはならない」と規定されているのは周知の通り。すると,医学生は医師の資格を持っていないため,医行為をしては医師法違反になってしまうわけです。

 そこで,1991年のいわゆる「前川レポート」(臨床実習検討委員会最終報告),そして2018年に再度整理された「門田レポート」(医学部の臨床実習において実施可能な医行為の研究報告書)によって,臨床実習における医行為の範囲が示され,かつ実習開始前には医学生の能力を厳しく評価し,合格することが求められてきたわけです。

――医行為の違法性は阻却されるとの解釈が示されたにもかかわらず,なぜ臨床実習における医学生の医行為の実施が進まなかったのですか。

齋藤 医学生に医行為をさせる教員や指導する医師が,躊躇した面もあるでしょう。患者さんから個別同意を取得する時間や労力も大きい。大学側の,「医師を育てるために協力してほしい」との姿勢が弱かったのも医行為が実施されなかった一因です。患者の権利意識も高まり,医学生が医行為を実施する機運を減じてしまった。その結果,医行為を伴う診療参加型臨床実習が十分に進んでいない現状があるのです。

 先の門田レポートでは,「医学生が行うことができる医行為のより一層の明確化と現場への周知を図るために,一定の法令上の対応を行うことが必要である」と結論付けられ,議論が待たれていました。

――厚労省医道審議会医師分科会におけるどのような議論で,共用試験の公的化が決まったのでしょう。

齋藤 共用試験はオーソライズされた試験である必要性から,当機構が15年にわたり実施してきた試験を公的化する運びとなりました。共用試験はもともと,全国の医学部・医科大学学生を同じ評価基準で測ることを目的に,2005年より正式実施されました。出身大学によって卒業生の到達度に差があってはいけない。そこで,学修到達目標のコアの部分を一定にする「医学教育モデル・コア・カリキュラム」が2001年に作成され,その目標到達度を同じモノサシで測るために全国82の医学部・医科大学が参加して共用試験が組まれたわけです。

 医学生に求められる知識・技能・態度のうち,主に知識はCBTで,技能・態度はOSCEによって共通の評価基準で到達状況を測定する。そこで用いられるCBTは各大学が作成して機構が精選したプール問題を用い,OSCEは各大学から派遣された委員が整備した課題を用います。

――法的に位置付けられることで,医学教育にどのような変化...

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医療系大学間共用試験実施評価機構副理事長

1967年慈恵医大卒。聖マリアンナ医大主任教授(第三内科),同大医学情報センター長,同大東横病院長,日本歯大客員教授などを歴任し,2014年より現職。聖マリアンナ医大名誉教授。日本医学教育学会理事長,全国医学部長病院長会議医学教育カリキュラム調査専門委員長,日本糖尿病療養指導士認定機構理事長などを務めた。

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