医学界新聞

対談・座談会 藤本 修平,竹林 崇,尾川 達也

2021.02.01 週刊医学界新聞(通常号):第3406号より

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 「療法士の中で適切に情報を取捨選択できていると自信を持って言い切れる方はどれほどいるでしょうか」。座談会の冒頭でこう問い掛けたのは,ヘルスコミュニケーションの研究者であり,同テーマで多数の講演会を行う理学療法士の藤本氏。不確実性の高い医療の中で,療法士に求められるスキルとは一体何か。本座談会では藤本氏のほか,『PT/OT/STのための臨床に活かすエビデンスと意思決定の考えかた』(医学書院)を共に編集し大学で教育にも携わる作業療法士の竹林氏,臨床現場で理学療法士として勤務する尾川氏を迎えて議論を交わした。

藤本 最近「療法士の専門性とは何だろう」と思いを巡らすことがあります。「理学療法士及び作業療法士法」では,理学療法は基本的動作能力の回復をめざした技術を提供することと述べられているものの,近年著しく発展するAI技術やロボット技術を用いたほうが高いパフォーマンスを発揮したとの発表を耳にすることが増えてきたからです。

竹林 同感です。そもそもわれわれ療法士がこれまで提供してきた「技術」とは一体何なのでしょうか。

藤本 理学療法・作業療法・言語聴覚療法と,それらに必要な評価のことを指して用いられるケースが多いと思われます。近年ではようやくその中にコミュニケーション技術が含まれるようになってきました。

 ただし,ここで用いるコミュニケーション技術とは,単にクレームを受けないために接遇をよくするといったスキルにとどまらず,治療方針等について患者さんと意思決定を共有し,協働していくための高い次元での対話をも包含したスキルのことを指します。こうした高いレベルのコミュニケーション技術を身につけるためには,土台としての「情報」を適切に取捨選択する能力が必要だと私は考えています。

 そこで今回の座談会では,その理由の紹介とともに,「情報」というキーワードを軸にして,これからの療法士が身につけておきたいスキルを考えたいと思います。

藤本 「情報」という言葉にはさまざまな定義がなされています。医療の文脈における定義としては,世界的に著名な科学者であるクロード・シャノン氏の言葉を借りれば,「不確実性を減じるもの」と表現するのが適切でしょうか。昨今はインターネットが日常に浸透したことで,玉石混交の情報が溢れています。

竹林 2015~17年頃にかけて,医療系メディアによるフェイク記事が批判に晒されたことは記憶に新しいですよね。批判の対象となった記事の中には誰しもがうそと見抜ける情報から,一見真実と錯覚してしまう情報まで含まれていました。

藤本 そうでしたね。もちろん,記事内容を正確に把握していなかったメディアの責任は大きいと言えます。しかし,そもそも不確実性の高い医療の中で,ある程度の根拠を持った情報を用意できる方はどれだけいるのでしょうか。恐らくそう多くはありません。つまり,こと医療に関しては,情報を取捨選択する義務が情報の受け手側にも生じ得るのです。

 われわれ療法士に限定してこの問題を考えてみます。療法士の中で適切に情報を取捨選択できていると自信を持って言い切れる方はどれほどいるでしょうか。恐らくこちらも該当者は少ないでしょう。なぜなら,卒前卒後教育ではそうした能力について教授されることはほとんどなく,いわゆる治療・評価の技術に関する教育に終始してしまうためです。

 お二人は卒前卒後教育の現状をよくご存じだと思います。まずは竹林先生から卒前教育の状況を共有していただけますか。

竹林 情報の吟味をしなければならない,データを鵜呑みにしてはならないといった話は,主に公衆衛生学の講義で行われます。しかし,同講義は養成校によっては選択必修の科目であり,単位を取得しなくとも卒業できてしまいます。加えて,講義の内容に関しては教員の意識および認識に依存しているのが現状です。

 また実習においても同様であり,担当となるスーパーバイザーのモチベーションによって,情報をどこまで吟味して臨床に活かすか,という指導のレベルにはバラつきがあります。属人的な部分が大きい点は課題ですね。

藤本 なるほど。では実際,そうした教育体制を経て療法士となった場合,どのような思考に至るのでしょうか。現在,臨床現場で活躍する入職12年目の尾川先生の経験から,卒後教育の現状を伺えますか。

尾川 大学院へ進学し研究手法等を学んできた今でこそ,情報を吟味する重要性を理解し始めたつもりですが,入職してすぐの頃は情報の取捨選択を意識したことはなく,ただ純粋に先輩の意見が全て正しいと思って勤務していました。右も左もわからない入職初期の段階であれば,誰しもがこのような状況だと思います。

藤本 療法士においては臨床能力の向上を目的とした新人教育プログラムはあるものの,医師や看護師のように系統立てられた研修制度がないために,卒後は各施設の環境に任されてしまっていますよね。そんな状況の中で,なぜ情報の取捨選択が必要だと気付けたのですか。

尾川 入職1年目の秋に学会発表用のスライドを作成していた際,違和感を覚えたことがきっかけです。「間違った内容を発表したら批判されるかもしれない」との不安から,発表内容に関連する学術論文を渉猟していました。すると,間違ってはいないけれども情報が不足していたり,過大な表現になっていたりなど,参考書の内容と学術論文の内容に一部乖離があることに気付いたのです。自分に見えている世界が全てではないことにハッとしました。

藤本 入職1年目で情報を俯瞰的にとらえる感覚を得られたのは貴重な経験でしたね。ただ,尾川先生のように早い段階で多角的に分析できるようになる方はまれだと思います。特に療法士の中には主体的体験の価値が高く,その経験に依存しやすい方が多い印象です。情報を客観視できないと臨床現場ではどのような問題が生まれるリスクがあるのでしょうか。

尾川 療法士の興味関心で医療が提供される可能性です。例えば,ある研究会で「すぐに導入できそう!」と直感的に思った新しい手法があったとします。感動そのままに患者さんに情報を伝えたところ,ぜひ導入してほしいとの返事がありました。一見,患者,療法士ともにWin-Winの構図に見えますが,次の3つの問題点を孕む可能性があると私は考えます。

①研究会ではポジティブな側面しか伝えられておらず,ネガティブな側面やリミテーションが存在している可能性
②新手法に対する過度な期待を与えてしまい,患者さんの意思決定に影響を与えた可能性
③臨床で導入する際,新手法を実践したいがためにバイアスのかかった評価を療法士が行ってしまう可能性

 これらのリスクを回避できるかどうかは,療法士の情報の取捨選択能力に大きく依拠し,ともすれば療法士の関心に基づく意思決定になりやすいと言えます。無意識のうちに選択のバイアスがかかってしまうことに注意を払わなければならないのです。

藤本 私が理学療法士として臨床に携わっていた頃の反省としていまだに覚えているのは,脊髄に障害を持ったある患者さんを担当した時のことです。比較的若い方でしたが,自立して歩くのは難しそうだと予後予測から判断し,多職種チームで相談の上,より活動範囲の広がる車いすを提案しました。最終的には患者さんとの意思決定の共有により,車いすはできる限り使用しないという運びになりましたが,現在,その患者さんは一人でスタスタ歩いて社会生活を送っているのです。この光景を目の当たりにした時には衝撃を受けました。

竹林 なぜそれほどまでに予後予測が外れてしまったのでしょう。

藤本 論文をもとに予後予測を立てたものの,そもそも自立して歩けないだろうとの思い込みと基礎疾患などの背景から転倒によるケガを恐れたこと,また論文数本から結論付けただけで,その他の文献検索をほとんど行っていなかったのです。論文に目を通すことで情報を客観視したつもりになっていただけでした。

竹林 必ずしも「情報を客観視する=論文を読む」というわけではないのですね。

藤本 ええ。本ケースで言えば,「情報を客観視する=論文を多角的に分析し,取捨選択する」と言い換えたほうがいいでしょう。もちろん論文に目を通すことは大事ですが,ただ読むだけではなくその中身を判断する力が必要です。私は常日頃から講演会などで「ランダム化比較試験(RCT)の約60%は結果が覆る可能性がある」1,2)と参加者に伝えています。不確実性の高い医療の中では,信頼していた情報が突然ひっくり返ってしまう可能性を念頭に置きたいものです。

尾川 裏を返せば,医療者が情報の取捨選択能力をしっかりと身につけていれば,患者さんに対して行う治療の期待値を示せるはずです。もちろんそれは過度な期待を抱かせるものではなく,医療の不確実性というリミテーションも含めた適切な情報です。そうした情報を患者さんと共有することで,患者さんの自主性が高まり,より一層治療に対して協力的に参加していただけるようになるのではないでしょうか。

藤本 その通りです。ただし,療法士が情報を噛み砕いて患者さんに伝えていることが大前提になります。治療方針を伝える療法士自身の理解が曖昧なままの場合,当然ながら患者さんがその治療の意義を完全に理解することは不可能です。その上,療法士の偏った知識の下で意思決定を行わなければならなくなるために,さらなるバイアスがかかってしまう可能性すらあります。適切な情報のもとに患者さんと意思決定を共有し,答えを見つけていくShared Decision Making(SDM)が求められているのです。

藤本 最後に議論したいのは,冒頭で触れた療法士の専門性についてです。リハビリテーション医療の一翼を担う存在として療法士が今後も技術を提供していくためには,どのような心掛けやスキルが必要になると考えますか。

竹林 2つあると考えます。1つは,地道に事例をまとめて発表していくことです。目の前の現象を言語化し開示していくことで,周りからフィードバックをもらうのです。もちろん意見の中には批判もあるはずですが,そうした声をもとにもう一度自身のロジックを組み立て直すことに意味があると考えます。

尾川 一般的な研究のプロセスと同様ですね。

竹林 はい。ですが,研究活動よりももっと身近なこととしてとらえて大丈夫です。身の回りの業務や患者さんとのかかわりの中で,自分自身の行いを振り返ったり,他者と意見を交わしたりする作業の繰り返しが重要になります。

藤本 つまり他者との交流によってブラッシュアップしていくことが求められると。

竹林 その通りです。もう1つは,患者さんにとっての先端技術の通訳者となることです。私自身,ロボットを用いた研究に取り組んでいると,今まで療法士が行ってきた「技術」が代替できるのではと感じることが増えています。場合によってはロボットのほうが精度も高く実現できそうなレベルです。

 しかし全ての行程をロボットやAIに任せきり,患者さんに任せきりでは高い治療効果は得られません。すなわち,先端技術と患者の両者を結び付ける役割を担う人材が必要なのです。この点が今後の療法士としての新たな存在意義になっていくのではないでしょうか。

藤本 そのためには少なくとも先端技術がどのようなメカニズムで患者さんに介入しているのか,という理論的な背景やエビデンスは押さえておかなければなりませんよね。受動的に最新技術を取り入れるだけでは無責任と言わざるを得ず,場合によっては患者さんに悪影響をもたらすケースも生まれるはずです。

竹林 ええ。中には時が経てば深く理解せずとも先端技術を扱えるようになると考える療法士もいるかもしれません。けれども時代の流れの早さを踏まえると,そう悠長には構えていられないのです。ロボットやAI技術に限らず,最新の情報を常にキャッチアップし,その上で療法士としての立ち位置を見つけていく必要があります。この部分の力を強化していかない限り,療法士の業界は淘汰されかねないとの危機意識を最近は抱いています。

藤本 尾川先生が考える今後の療法士に求められるスキルとは何でしょう。

尾川 患者さんの自己表現を支援するかかわり方です。患者さんが表現する事柄の中には,どうしても抽象的な話題や,さまざまな文脈を踏まえて総合的に判断しなければならない話題などが含まれます。患者さんの希望を上手に引き出しながら個別性を持って柔軟に対応する能力が求められるはずです。この部分はまだまだAI技術には難しい分野と言えますね。

藤本 同感です。もちろん,そうした対話を行う中で「あなたがこう言ったから,私はこうやったのだ」という患者さんとのすれ違いのリスクが生まれてしまう可能性も出てくるかと思います。このリスクを少しでも防ぐためにも,適切な情報の取捨選択の下,互いの納得を前提としたコミュニケーションを成立させることが理想と考えます。患者さんの主体性がアウトカムに多大な影響を及ぼすリハビリテーションの分野では,提示された医療に納得できていない場合,期待する効果を最大限発揮させることは難しいと言えます。「患者さんのなりたい姿を実現する」という大きな目標を実現するために,療法士には「情報を取捨選択すること」の重要性にぜひ目を向けてもらいたいですね。今後ますますの療法士の躍進を期待したいと思います。

(了)


1)Br J Psychiatry. 2015[PMID:26159600]
2)JAMA. 2005[PMID:16014596]

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株式会社まぁてぃヘルスケア代表取締役

2009年弘前大医学部保健学科理学療法学専攻卒。理学療法士として約7年間の病院勤務後,株式会社メドレーなどのヘルスケア企業,総合商社グループで新規事業のマネージャー職を歴任。19年京大大学院でPh. D(Public Health)を取得。20年より現職。編著に『PT/OT/STのための臨床に活かすエビデンスと意思決定の考えかた』(医学書院)。

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大阪府立大学地域保健学域総合リハビリテーション学類作業療法学専攻 教授

2003年川崎医療福祉大医療技術学部卒。同年より兵庫医大病院リハビリテーション部に勤務。18年兵庫医大大学院修了。博士(医学)。吉備国際大准教授,大阪府立大准教授を経て,20年より現職。編著に『行動変容を導く! 上肢機能回復アプローチ』『PT/OT/STのための臨床に活かすエビデンスと意思決定の考えかた』(いずれも医学書院)など。

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西大和リハビリテーション病院リハビリテーション部 主任

2009年畿央大健康科学部理学療法学科卒業後,西大和リハビリテーション病院へ入職。15年畿央大大学院修士課程修了。現在も同大大学院博士課程に在籍しながら臨床現場で勤務に励む。リハビリテーション医療における目標設定やShared Decision Makingに関する研究論文を執筆。