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PT/OT/STのための
臨床に活かすエビデンスと意思決定の考えかた

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臨床に携わる療法士にとって、「臨床」と「研究(エビデンス)」は欠くことのできない要素といえる。本書ではその両者を融合することの必要性を説くとともに、患者の価値観という大切な要素もそこに組み合わせる。エビデンスの活用だけで適切な意思決定ができない場合に、自身の経験、また患者の価値観をどのように反映させていくか、治療に必要な知識を情報へ転換し、活用するスキルを身に付けるための具体的な指針を提示する。
編集 藤本 修平 / 竹林 崇
発行 2020年10月判型:B5頁:320
ISBN 978-4-260-04271-0
定価 4,180円 (本体3,800円+税)

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 臨床現場において,療法士は,目の前の患者に対する医療者としての意思決定とともに,患者の意思決定を支援する役割をもつ.適切な意思決定には,情報が必要である.これまでわれわれが学習してきた知識は,情報の一つであるが,知識をもち合わせているだけでは,情報にはなり得ない.
 “情報”にはさまざまな定義がある.医療において,最も近い定義の一つが,「不確実性を減じるもの」であろう.その情報をもとにしたコミュニケーションは,意思決定を円滑に進める手段の一つととらえることができる.
 情報に対するアプローチは多様である.質の高さを考慮した研究論文から得られるエビデンス,診療ガイドライン(エビデンス総体),経験的な知見,インターネット情報,これらのいずれもが“情報”である.しかしながら,意思決定を円滑に進めるコミュニケーションを前提にしたとき,どのような情報でもよいかというと,そうはならないことは想像に難くない.前述のとおり,不確実性を減じる情報を活用するスキルが求められる.
 では,われわれ療法士は,情報をとらえ,活用するスキルを磨くための教育を受けてきているだろうか.おそらく,知識教育がほとんどであり,知識を情報のレベルで思考する“吟味”といったことに焦点を当てた教育は非常に少ないのが現状であろう.特に,療法士の養成校では,まずは国家試験に合格するための1対1対応の知識つめ込み型になっている場合もあり,それがニーズとして存在するのも事実である.
 この状況で,害を受ける可能性があるのは誰だろうか.もちろん,患者をはじめとしたクライアントである.ただの知識を患者に適用する,または流布することを,医療を提供する者は立ち止まって考え直さなければならない.
 そのような背景に鑑み,本書では,情報の活用から意思決定までに関わる要素を切り分け,内包することを意識した.具体的には3つの点から構成されている.1つ目に,エビデンスやインターネット情報,診療ガイドラインなどの作成・活用の裏側を含む情報の中身の項目である.2つ目に,情報の中身を吟味・活用するために必要な意思決定に関わる項目である.最後に,情報の活用について思考過程を見える化した事例項目である.事例項目では,すべての疾患は網羅していないものの,リハビリテーション医療において出合う頻度の高い疾患を選択した.
 昨今の疾患“知識”をもつことに価値を置いた思考から,一歩深く掘り下げて,知識を情報へ転換し,活用するスキルを望む皆様に,そのエッセンスを感じてもらえれば幸甚である.

 2020年9月 編者を代表して
 藤本修平

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序章 玉石混交の情報から治療法を決めるスキルが求められている

第1章 エビデンスと世の中の情報を取捨選択するための基礎知識
 1 エビデンスとは何か?
  1 エビデンスとは
  2 Evidence‒based medicineとは
  3 エビデンスレベルとは
 2 Evidence‒based practice
  1 Evidence‒based medicineの歴史
  2 EBMおよびEBPとは
  3 EBPの手続き
  4 まとめ
  COLUMN 専門家の経験と対象者の個別性
 3 論文情報を判断するための研究デザイン
  1 症例報告
  2 観察研究
  3 ランダム化比較試験
  4 システマティックレビューとメタアナリシス
  5 質的研究
  COLUMN 統計解析の不思議な点
  COLUMN P値に囚われる有意症という病気
  COLUMN 論文情報は信用してよいの?
 4 インターネット情報を判断するための基礎知識
  1 SEOと健康情報
  2 医療広告ガイドライン
  3 理学療法士及び作業療法士法に違反する表現の例
  COLUMN Yahoo! ニュースで医療情報を書くときに気をつけていること
  COLUMN m3ライターとして執筆で気をつけていること
  COLUMN 医療AIの利点と懸念点
 5 診療ガイドラインを読むうえで必要な基礎知識
  1 診療ガイドラインとは
  2 診療ガイドライン作成方法の概略

第2章 患者の価値観・希望
 1 患者の価値観・希望とは
  1 患者の価値観・希望の重要性
  2 患者の価値観・希望とは
  COLUMN 脳卒中患者の価値観や疑問を調査しました
 2 患者の価値観を医療に反映するための資料
  1 診療ガイドライン
  2 患者向け診療ガイドライン
  3 論文情報

第3章 治療法を決定するための目標設定とコミュニケーション
 1 人は合理的に意思決定ができるのか?
  1 囚人のジレンマから考える意思決定
  2 感情が意思決定や行動に関わる実例
  3 合理的な意思決定の困難さゆえ,医療者―患者コミュニケーションが必要
 2 目標設定と意思決定
  1 目標設定の重要性
  2 リハビリテーションの目標とは
  COLUMN 患者から示された目標は本当にその人が思っている目標なのか?
 3 限定合理性とさまざまなバイアス
  1 限定合理性とは
  2 意思決定に関わる理論とバイアスの基礎
 4 医療における意思決定モデル
  1 パターナリズムからインフォームドコンセントへ
  2 shared decision making

第4章 臨床における意思決定過程
 1 脳卒中―歩行障害
 2 脳卒中―上肢機能障害
 3 脳卒中―失語症
 4 大腿骨頚部骨折
 5 心不全
 6 慢性腰痛
 7 COPD
 8 パーキンソン病
 9 ALS
 10 脊髄小脳変性症
 11 変形性膝関節症
 12 変形性股関節症
 13 肩関節周囲炎
 14 脊髄損傷
 15 スポーツ障害
 16 ウィメンズヘルス
 17 めまい
 18 肩の慢性疼痛

索引

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情報の取捨選択能力の育成に不可欠な書
書評者:森岡 周(畿央大教授・理学療法学)

 情報入手から情報共有時代へ。これは科学のパラダイム転換でもある。それは情報を惜しげもなく公開し,多角的知識を総動員し,情報改訂することが人類の発展につながると判断したからである。しかし,それは共有する者同士の情報取捨選択能力とモラルに依存するため危険性と共存している。それらを持ち得ない場合,誤情報が共有され社会混乱を招いてしまう。

 情報入手能力と取捨選択能力は異なる。後者はクリティカルな視点が必要である。つまり研究能力そのものであり,発信内容に批判的吟味を加える認知能力が求められる。生命や健康に携わる職種においては,その能力は極めて重要である。PT/OT/ST(専門職)の養成課程においては,実践を中心にカリキュラム構成されている。上記視点の重要さを説く科目が欠落している学校も少なくない。情報氾濫社会において,医療教育の一丁目一番地は情報取捨選択能力の育成であると思う。

 本書は4章(第1章 エビデンス,第2章 患者の価値観,第3章 目標設定とコミュニケーション,第4章 ケース)で構成されている。第1,2章を冒頭に配置したところに意味がある。両者は一見矛盾するが,最適な医療実践には疫学によって得られた一般論(エビデンス),患者の価値観・希望,患者の個別性・多様性,環境を包含し,それらに個人の経験による技能・直感的判断力を合わせる過程が求められる。これがEBMであり,エビデンスのみから判断しない。多くの専門職は誤解し,誤解により結局は旧体系の個人の経験・技能による判断に退行している傾向がある。本書は読めばその誤解がとけるであろう。一方,百花繚乱のように介入法が開発され,その支持情報ばかりを集め,反証内容を無視するバイアス情報が講習会で提示されていることがある。3た論法(使った,治った,効いた)が医療においてつきまとい,(偽)相関であるにもかかわらず,ただちに因果とみなすミスリーディングが生まれる。中間・交絡・修飾因子の理解なくして手段を思慮深く決定できない。本書はその意味を理解させてくれる。

 本書はWeb情報の信憑を考える上でSEOまで踏み込み記述している。現代では,“ググる”という造語があるように検察エンジンで調べることが反射化されている。本書は専門書ではあるもののそのことに踏み込んだことは,平均年齢が低い専門職に対する警告と捉えることができる。さらに意思決定の合理性について記述しているところに意味がある。行動経済学では当たり前となった感情が意思決定に入り込むことを専門職に向けて平易に解説している点は価値がある。

 最終章はケース供覧となっており,どのような手続きによって意思決定するか身近に捉えることができる。この章については今後改訂されることで,それまでの総論との整合性を意識されたいと願っている。

 いずれにしても,Society5.0において,医療者はAIと共存し意思決定することが求められる。まずは本書を読み,すぐそこの未来に備えていただきたい。


リハビリテーションにおけるEBPの完成形
書評者: 友利 幸之介 (東京工科大准教授・作業療法学)

 本書は,現在のPT,OT業界をリードする藤本修平氏,竹林崇氏の編集である。お二人は,療法士の枠を超えた独自の視点で,われわれにいつも新しい可能性を示してくれるが,本書もまた,リハビリテーション医療のニューノーマルを期待させる一冊となっている。

 本書のメインテーマは「Evidence-Based Practice(EBP)」。

 EBP……もう聞き飽きたワードかもしれない。しかしこれまでのEBPは,正直「絵に書いた餅」であった。EBPを巡り,炎上する場面を何度も目にしてきたが,実践を伴わないEBPについて議論がかみ合わないのは当然のことであろう。本書はこのような現状に終止符を打つべく,EBPを臨床で実装していくための若手~中堅の著者らによる“仕掛け”といえる。

 本書はこれまでのEBP本と何が違うのか? 2点に絞って述べてみたい。

 第一に「具体性」である。本書の総まとめである第4章には,18事例それぞれにおいて,EBPと意思決定の手順が詳細に解説されている。事例の提示があり,目標設定,PICO,文献の検索,エビデンスの選択,shared decision-making(SDM)の9ステップと,全事例で統一されて書かれている点も非常に読みやすい。これらはEBP初学者のみならず,「EBPは一通り学んだけど,実際に対象者にどう適用すればいいのかわからない……」という中堅層にも多くの示唆を与えてくれるだろう。

 第二に,対象者の価値観や希望,目標設定に着目している点である(第2,3章)。本来のリハビリテーションは,対象者の生活や人生を支援するものである。従来のEBP本は,対象者の価値観や希望をどのように尊重し,EBPに組み込んでいくのかといった説明が少なく,療法士として若干の違和感を覚えることも多かったのではないだろうか。また,これこそがEBPの誤解を生む原因であったともいえる。その点本書では,対象者中心の意思決定や目標設定に多くのページが割かれており,よりリハビリテーションの理念にフィットしたEBPを学ぶことができる。

 私もEBPに関する書籍や解説は比較的目を通してきたが,リハビリテーションに関していうならば,本書がひとまずの完成形ではないかと感じている。本書を精読すれば,EBPの基礎知識と実践方法まで一通り理解できるだろう。ただし読んで終わりでは,「頭でっかちなEBPマニア」止まりで,これまでと何も変わらない。本書でEBP思考を身につけ,実際の臨床をEBPサイクルで回していき,実践の土俵でEBPについて議論する。これこそが本書の「正しい」活用法といえるだろう。

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