MEDICAL LIBRARY 書評・新刊案内
書評
2021.01.25 週刊医学界新聞(看護号):第3405号より
《評者》 小出 智一 東京ベイ・浦安市川医療センター看護部・救急部/地域医療振興協会医療人材部シミュレーションセンター
看護師のように考えたことを伝えていくための一冊
看護師は自分の臨床判断を言語化して,同僚や後輩にシェアできているだろうか? 本書は,臨床現場や実習の場で教育的介入をしていく上で,教育の羅針盤の役割を果たすだろう。私たちは患者の多様性や個別性が大事と教育される。その一方で,看護師が看護師を教育するときにその多様性や個別性を考えることが少ない。さらに就職すると,基礎教育と臨床教育の間にある溝に新人側,教育側双方が悩んでいる。そして身についた暗黙知を言語化して伝えていく手法を知らないまま,教える側に回ってしまう事態が起きる。この本はその問題点をクリアするための助けとなるだろう。
著者は,聖路加国際大で看護教育者を育成するFuture Nurse Faculty育成プログラムに携わってきた三浦友理子氏と奥裕美氏である。看護師としてだけではなく,看護教育学と看護管理学を専門とする著者らが丹念に,そしてわかりやすくつづった一冊となっている。書籍の随所に,自身の教育的かかわりで起きた経験をあらわにして例として提示してくれることで身近に感じる。
学生の時には知識を詰め込むことが多く,現場に出ると覚えたことを引き出せないということは珍しくない。そして看護実践も指導も,熟練していても教科書通りにはならないのが難しいところである。そこで知識や経験,思考を整理し,どう言語化するのかという理論が紹介されている。この学びや経験を臨床判断として生かす手法がまさにタイトルにもなっている,臨床判断ティーチングメソッドだ。
「臨床で流動的に変化する状況で,考えや気付きを学びに変えるにはどうしたらいいだろう」と迷うことがあった方には,ぜひ読んでほしい。また教育者だけではなく,学習者も本書を読むことで,臨床で学びを加速するにはどう思考し,言語化するとよいかに気付けるはずだ。
この本は,どこから読んでもよい。まず第1部から入って基礎教育や看護教育の現況を把握してもよい。臨床判断能力を育てるための方法論を知りたいなら第2部から読み始めてもよい。大人の学びを支援する方法論や理論を知りたいなら第3部から読むのもよいだろう。
特に2021年4月以降の教育は混迷を極めると予想される。前例になく,実習が十分に行われず就職する新入職者は不安があるだろう。施設側も,研修や教育に人員や時間を割けず,オンラインにするなどして,従来にはなかった慣れない対応を続けることになるだろう。本書がそれぞれのギャップを埋め,より安全な医療を提供する組織を作る布石となることを願ってやまない。
さらに,本書をテーマとした読書会・勉強会などを行うことで,それぞれの読解を深め,より実践に役立てられるだろう。困難な状況であるが教育を抜きに未来の看護は語れない。多くの看護師が未来のエキスパートになれるように,その臨床判断能力を養う支援をしていこう。
《評者》 小松 浩子 日赤九州国際看護大学長
基本からチームによる実践までが理解できる
科学,医療技術の革新的な発展により,診断・治療,療養の場や状況などの選択肢は格段に広がる一方で,患者は,複雑で不確かな選択の連続に置かれる。慢性腎臓病患者の多くは,血液透析,腹膜透析,腎移植の治療選択に伴って,それらのリスクや不利益を秤にかけて検討するだけでなく,自身の生活,生き方,価値観や意向をすり合わせながら自分にとって最善の状況をめざして選択を続ける。このような難しい選択の特徴として,不確かさ,複雑性,パターナリズム,スティグマ,外圧が存在する。その中で,選択を迫られている患者は孤立し,苦悩しがちである。他方,医療者にとっては,患者の言葉にできない潜在するニーズや,真に望むところは何かについて諮ることは容易ではない。患者だけが孤軍奮闘して選択するのではなく,また,医療者が手をこまねいて患者が真に望むことや潜在するニーズを見逃すことなく,対話を通して共同意思決定のプロセスをたどることが求められている。これまでに,共同意思決定の重要性や理論については紹介されてきたが,専門分野で活用するために具体的な実践方法にまで展開されたテキストはなかった。
本書は,患者参加型医療と共同意思決定の考え方,それに基づく,慢性腎臓病患者に対する実践方法と具体的な進め方やツールが満載されたテキストブックである。
私たち医療者は,自分では気付かないが「患者のために」という名のもとに,知らず知らずのうちに,医療者サイドの考えや価値を患者に強いていることがある。時に,患者の理解を超えた医療情報を伝え,患者が混乱や消耗をしてしまい,「おまかせします」という受け身的な姿勢を導いていることもある。したがって,共同意思決定が実践に根付くには,単に共同意思決定のknow-howを学ぶだけではなく,前述したような関係性に医療者と患者が陥らないよう,日常の医療の中で,価値の転換を図るためのパラダイムシフトを起こしていかなければならない。
本書の第1,2章は,パラダイムシフトの核となる「患者中心性」「患者参加型医療」の理念や考え方がまとめられている。新しい概念や考え方などは面倒だと思わずに,本書の肝と位置付けて読み進めていただきたい。3章は共同意思決定のエッセンス,4章は意思決定支援ツール,など実践の基本的方法が身につく内容が記されている。方法をより身近に理解するために,コラムとして事例の解説,ツールの具体的サイトがリストアップされており,興味が湧く。5,6章は共同意思決定の実践手法の解説,状況に合わせた実践編シリーズが展開されている。具体例や会話例が示されているので疑似体験したかのように読み進めることができる。関心のある状況をまず読み,具体例を理解してから,1章に戻って読み進めていくこともお勧めできる。7章は精神,認知障害のある場合にどのように共同意思決定のプロセスを考慮して進めるべきか,障害の特徴を踏まえてわかりやすく解説されている。8,9章は共同意思決定をどのように多職種連携で行うのか,またそのための研修法について具体例が挙げられ,理解を深めることができる。10,11章は共同意思決定の評価と課題が示されている。
以上のように,本書は一冊読むことで,共同意思決定の基本的知識からチームにおける実践,評価まで,実践を踏まえた
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