医学界新聞

寄稿 中西 信人

2020.11.16



【視点】

筋萎縮ゼロプロジェクトで重症患者の社会復帰を支援

中西 信人(徳島大学病院救急集中治療部 助教)


 医療の本当の目的とは何でしょうか。命が助かり,病気が治れば良いのでしょうか。それだけではないはずです。病に倒れた患者さんがもう一度職場や学校に復帰して生活できる――,つまり社会への復帰こそが医療が果たすべき本当の役割だと考えます。

 医学の進歩に伴い,重症患者の死亡率はおよそ20年間で約35%低下したといわれています1)。しかし,その35%の方全員が社会に復帰できているわけではありません。最近の調査では重症患者の多くが,退院から5年経っても元通りの身体機能を取り戻せず,約半数の方は仕事に復帰できていない現状が明らかになっています2)。ICU退室後の長期にわたる身体機能障害や精神・認知機能障害である集中治療後症候群(Post Intensive Care Syndrome:PICS)への対応が喫緊の課題となっているのです。

 社会復帰には病気の治療と並行して,栄養の十分な摂取やリハビリの充実が不可欠です。手術翌日もベッドの上にいるだけでは筋肉が萎縮してしまうからです。ICUに入室する重症患者は四肢の筋肉が1週間で約15~20%萎縮することが私たちの研究でわかっています3)。横隔膜や肋間筋など呼吸を司る筋肉も萎縮してしまいます。

 そこで当院の集中治療医は,重症患者のICU入室時から社会復帰を見据え,看護師をはじめ理学療法士,作業療法士,管理栄養士など多職種と連携して治療に当たっています。

 一人でも多くの患者さんが早期に社会復帰を果たすために,筋萎縮予防につながる効果的な取り組みはあるのでしょうか。私たちは2020年から当院で,筋萎縮...

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