回復期リハビリテーション病棟のこれまでとこれから
対談・座談会 角田 亘,三橋 尚志,原島 宏明
2020.11.16
【座談会】
回復期リハビリテーション病棟のこれまでとこれから
角田 亘氏(国際医療福祉大学医学部リハビリテーション医学教室 主任教授)=司会
三橋 尚志氏(京都大原記念病院 副院長/回復期リハビリテーション病棟協会 会長)
原島 宏明氏(総合東京病院リハビリテーション科 科長)
従来の訓練室中心のリハビリテーションではなく,病棟を中心に据えた多職種でのリハビリテーションに取り組む目的で制度化された回復期リハビリテーション病棟(Convalescent Rehabilitation Ward:CRW)。近年,病床機能の分化や再編,高齢化の影響等を受けてケアの在り方が多様化する中,まさにチーム医療を体現するCRWの存在にますます注目が集まる。
2000年の制度化から20年が経過した今,CRWがさらなる発展を遂げるためには何が必要か。『回復期リハビリテーション病棟マニュアル』(医学書院)を編集した角田氏を司会に,CRWの現状と今後の展望が語られた。
角田 2000年4月の診療報酬改定で「回復期リハビリテーション病棟入院料」が導入されてから,今年で20年を迎えました。この間さまざまな変化が起こり,CRWが担う役割も大きく変貌しています。
本座談会では,回復期リハビリテーション病棟協会会長の三橋先生,セラピストの立場から首都圏3か所の医療機関のリハビリテーション部門を統括する理学療法士の原島先生にご参加いただき,CRWが今後さらなる発展をするためのポイントを共有したいと思います。
確立しつつあるCRWにおける医療の質と量
角田 CRWの特徴である,数か月間にわたる毎日最大3時間(9単位)の1対1リハビリテーション訓練を提供する医療体制は,世界に誇るべき日本独自のシステムだと考えています。まずは,このような素晴らしい体制が生まれた「これまで」を振り返るため,三橋先生からCRWの概略をお話しいただけますか。
三橋 CRWの原形となる医療システムを初めて目にしたのは1998年頃です。医師やセラピストを病棟に専従配置しつつ多職種でのカンファレンスが日々実践されていた高知県の近森病院を見学し,当時は「このようなシステムが日本で実現できるのか」と驚愕したことを覚えています。そうした先進的な医療体制が2000年に創設され,従来の訓練室中心のリハビリテーションではなく,病棟を中核に据えた集中的なリハビリテーションが行われるようになりました。看護・介護とともにチームで医療を提供する体制に加え,病棟ADL加算(2002~08年)が認められたことで,ADLを重視する医療が実現したことも画期的であったと感じています。
角田 診療報酬改定によって2008年からは質の評価,16年からは入院期間の適正化を意識したアウトカム評価も求められるようになりました。
三橋 ええ。現場にとっては大変厳しい条件でしたが,いたずらに時間を掛けてリハビリテーションを提供するのではなく,可能な限り早く自宅へ戻そうという,CRWに対する意識改革のために断行されたものだと私は理解しています。実際,回復期リハビリテーション病棟協会が毎年公表する「回復期リハビリテーション病棟の現状と課題に関する調査報告書」1)に掲載された平均在棟日数の推移を見ても,徐々に減少していることがわかります(図1)。CRWの今後の在り方を左右する上で不可欠な変革だったでしょう。
図1 CRWにおける平均在棟日数の推移(文献1より)(クリックで拡大) |
CRWに入棟する患者の内訳は,脳血管系が約45%,整形外科系が約46%,残りを廃用症候群が占める。対象疾患の全てにおいて,制度化当時からの在棟日数の減少が認められる。 |
角田 ありがとうございます。同報告書では,ADLが自力でどの程度可能かを評価するFIM(Functional Independence Measure)値の入退棟時の変化も検討されています。図2によれば,入棟時のFIM値は徐々に低下。つまり,重症度の高い患者が増加していることが読み取れます。にもかかわらず,退棟時の状態は高値を維持したままです。この現状は,CRWで提供される医療の「質」が高まりを見せていると理解してよいのでしょうか。
図2 入退棟時におけるFIM値の推移(文献1より)(クリックで拡大) |
入棟時のFIM値は低下傾向であり重症度の高い患者が増加する一方,退棟時のFIM値は高値を維持。退棟時のFIM値について三橋氏は,「よほどドラスティックなリハビリテーションの手法が開発されない限り,現状の体制においては最善の医療が提供されている証」と評価する。 |
三橋 その通りです。各施設の努力,工夫が反映された結果と言えますね。
加えてCRWに起きた大きな変化としては,2010年に休日リハビリテーション提供体制加算が認められたことです。施設が休みとなる2日間で状態が後退してしまう方も少なくなかったために,この加算は非常にプラスに働きました。
角田 CRWの「量」についてはいかがでしょう。2019年現在,CRWは全国で1473病院が存在し,病床数は8万6000床を超え,人口10万人当たり60床以上の病床が確保されています。
三橋 CRWの主な対象疾患である脳血管障害,運動器疾患,廃用症候群の患者数を考慮すると,十分な病床数だととらえています。一方,依然として地域差が存在することから,少ない地域においては相応の数を増やさなければとも考えます。
角田 確かに地域差の問題は今後改善しなければならない課題ですね。
ではセラピストの立場から,原島先生は現在までのCRWの変遷をどう分析していますか。
原島 制度化当時は養成校の卒業生が少なく,セラピストの確保に大変苦労しました。1999年に養成課程の規制緩和がなされたことで不足状況は徐々に改善しています。近年は理学療法士が約1万人,作業療法士が約5000人,言語聴覚士が約2000人毎年誕生しており,CRWを希望するセラピストも増えつつあります。マンパワーの面では十分でしょう。ただし,「質」の部分ではさらなる向上の余地がありそうです。
角田 対策はすでになされているのでしょうか。
原島 2020年度より理学療法士,作業療法士についてはカリキュラムが見直され,臨床実習時間が増加しています。また臨床実習に当たる指導者や専任教員は,厚労省が指定した臨床実習指導者講習会等を修了した者と規定されるなど教育体制の見直しが進んでおり,質の強化に向けた対策が講じられ始めています。
CRWはチーム医療の最たる形
三橋 従来,医師,セラピスト,看護師,介護士が中心となって行われてきたCRWにおける医療の中に,医療ソーシャルワーカーや管理栄養士,薬剤師が参画し始めたこともCRWに起きた変化の一つでしょう。それぞれの職種がその職種でしか成し得ない役割を担っていることは注目すべきポイントです。
角田 スペシャリストたちが連携することで,一人の患者に対して多面的かつ包括的な医療が提供できています。CRWはチーム医療の最たる形と言えますよね。
チーム医療を推進するため,スタッフに対し,意識して取り組んでいることはありますか。
三橋 職種ごとの専門性のスキルアップを促しつつ,得た知識・スキルを他職種に向けて積極的に共有してもらうよう声掛けをしていることです。「一人の患者さんに対してチーム一丸でかかわ...
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