医学界新聞

臨床研究の実践知

連載 前田 一石

2020.08.03



臨床研究の実践知

臨床現場で得た洞察や直感をどう検証すればよいか。臨床研究の実践知を,生物統計家と共に実例ベースで紹介します。JORTCの活動概要や臨床研究検討会議の開催予定などは,JORTCのウェブサイトFacebookを参照してください。

[第17回(最終回)]臨床研究に必要なお金

前田 一石(JORTC外来研究員/千里中央病院 緩和ケア科)


前回よりつづく

 臨床研究を実施する場合,臨床研究法等の規制要件を遵守しなければなりません。単施設の臨床研究の場合には,工夫次第で自施設の自己資金のみで実施することも可能ですが,特定臨床研究として多施設共同の臨床試験を実施する場合などには,研究者の「手弁当」では難しいのが現状です。

 特定臨床研究として多施設共同の臨床試験を実施するには,計画段階から研究支援組織を利用するのがよいのですが,それにはお金が必要となります。お金がなければ研究を開始することができないので,研究計画の立案と並行して研究費の獲得準備も進めなければなりません。どのくらいの資金が必要でどのような提供主体があるかについて,紹介したいと思います。

「手弁当」でできない臨床研究,何にお金が必要か

 特定臨床研究として多施設共同の臨床試験を実施する場合を例に,必要なお金の話を説明していきます。

 特定臨床研究を実施するにはまず,認定臨床研究審査委員会(以下,CRB)の承認を得なければなりません。CRBにはさまざまな審査手数料が設定されています。表1のように,新規の審査時(初回)だけでなく毎年の継続/定期報告の審査や,実施計画等の変更時の審査に費用がかかる場合があります。特定臨床研究かそれ以外か,あるいは施設数がどのくらいかによって審査料が異なる場合があります。申請者の所属が内部の場合,外部よりも審査手数料が低く設定されていることもあります。2019年3月時点の手数料が厚労省ウェブサイト1)にまとめられていますので,自施設にCRBがない場合の参考にしてください。

表1 特定臨床研究に関するCRB審査手数料の例(単位:円)(各項目の金額がわかる施設を文献1より抜粋)(クリックで拡大)

提供主体の特性を踏まえ資金の獲得準備を進めたい

 次に,CRBの審査手数料以外に必要なお金を見ていきましょう。

 臨床研究の実施者は原則として,臨床研究保険への加入が必要となります。試験のリスクや予定登録数などに応じて数十万円から数百万円の保険料を支払わなければなりません。また,統計解析やデータマネジメント,モニタリング,監査等の委託費用や試験で用いる薬剤等にかかわる費用,試験規模や試験期間等に応じて数百万円から数千万円必要となります。

 CRB審査手数料を含め,これらの資金を自己資金のみで賄うことは難しい場合がほとんどですので,研究計画の立案と並行して研究費の獲得準備も進めなければなりません。

 研究費の提供主体は表2の通り,1)公的資金,2)公的資金以外の公募,3)企業との契約,4)寄附の4つがあります。それぞれの特徴を見ていきます。

表2 研究費の提供主体ごとにみる長所と短所(クリックで拡大)

 1)はもっとも広く利用されており,研究費獲得の候補として最初に考えられる研究資金ではないでしょうか。研究の規模に応じてさまざまなカテゴリーが用意されていることもメリットの一つと言えそうです。最近では応募の段階でプロトコールの添付を求められることが増えていますが,プロトコールを作成する段階から研究費の支援を受けられるケースもあります。JORTC-RHB02試験(研究代表者=市立芦屋病院・西山菜々子氏)では,AMEDよりプロトコール作成段階から支援を受け,その後続けて試験実施の研究費の支援を受けています。また,例外的なケースですが,国際共同試験で,オーストラリアの研究代表者と連携して同国の公的資金を獲得して実施するJORTC-PAL16/DEPARTURE試験(研究代表者=近畿大・松岡弘道氏)の事例もあります。

 2)は学会や財団がそれぞれの関心領域特有の課題に対して独自の研究費の支援を行っており,公募情報を随時確認している方も多いと思います。2)の例として,JORTC-PAL01(研究代表者=JCHO東京新宿メディカルセンター・金石圭祐氏)は,緩和医療において通常診療で投与されている薬剤の有効性を検証する比較試験を日本緩和医療学会より助成を受け実施しました。

 3)の企業との契約は,1)や2)と異なり,通常は公募の形ではなく企業との個別の交渉によって決定されます。具体例については守秘義務があるため本稿で踏み込んだ内容の開示ができませんが,産学連携の形としてさまざまなケースがあります。資金提供を行う企業と研究者の目的(出口戦略)は必ずしも一致しない場合があるため,資金提供を受ける前に,企業と締結する契約書を慎重に検討し,企業と研究者双方の認識にずれがないようにすることが重要です。

 最後に4)の寄附です。研究への賛同者による,法人等の活動に対する直接の寄附や,最近では寄附型のクラウドファンディングを通じて研究資金を集める方法も増えています。

 4)に関連して,臨床試験の例ではありませんが,寄附型のクラウドファンディングを通じて資金を集めた例として,「日本の緩和ケア医療を発展させるため市民公開セミナーを開催!」(JORTC)や「コロナ禍で家族と会えない終末期医療の現場にテレビ電話面会を」(永寿総合病院・廣橋猛氏)といった実施例があります。前者は約50万円,後者は約1600万円の寄附を集めました。

 なお,競争的資金の公募に関する情報をまとめた書籍『2020 研究者のための助成金応募ガイド』(助成財団センター)や民間企業が公開しているウェブサイト「e-GRANT」があります。これらを参考に,臨床研究を始める第一歩を踏み出してみてはいかがでしょうか。

今回のポイント

・研究の計画段階で,どのくらいの資金が必要かを想定して,研究費の獲得計画も同時に考える必要がある。
・研究費の獲得先はさまざまあるが,それぞれの長所や短所を考慮して決定する。

 約1年半にわたる本連載も今回が最終回です。私たちの臨床研究の実践知が皆さんの参考になれば幸いです。

(了)

参考文献・URL
1)厚労省.認定臨床研究審査委員会手数料一覧.2019.

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