医学界新聞

事例で学ぶくすりの落とし穴

連載 柳田 俊彦

2020.07.27



事例で学ぶ
くすりの落とし穴

与薬の実践者である看護師は「患者さんを守る最後の砦」です。臨床現場で安全かつ有効な薬物治療を行うために必要な与薬の知識を,一緒に考えていきましょう。

[第1回]看護師に求められる与薬の知識とは

今回の執筆者
柳田 俊彦(宮崎大学医学部看護学科臨床薬理学 教授)

監修 柳田 俊彦


 「看護師に求められる与薬の知識」とは一体どういうものなのでしょう。何をどこまで知っておくべきか,明確な答えを出すことは難しいと思います。では,「患者さんのための与薬の知識」としてテーマを変えてみるといかがでしょう。少しイメージできませんか? これから全10回の連載を通して,患者さんにとって安全かつ有効な薬物治療を行うために必要な与薬の知識について一緒に考えてみましょう。

看護師は患者さんを守る最後の砦

 看護において臨床薬理学教育が重視されているのはなぜでしょうか? 理由は明快です。看護師は,与薬の実践者として患者さんに直接薬を与え,その効果や副作用を最も間近で観察する立場にあるからです。また近年,医師,薬剤師と共に「患者さんを守る最後の砦」として,薬物治療に関して高度で幅広い知識が求められるようになってきているからでもあります。ここであらためて意識しておきたいのは「与薬は患者さんへの介入を伴う行為」であることです。患者さんへの介入を伴う以上,その安全性を担保するためには十分な教育が必要となります。

 より正確な現状をお伝えするために,一つ重要な調査結果をお示しします。それは全国紙5紙とインターネットで報道された,看護師が関与した医療事故件数に関する日看協による調査結果です。本調査結果をもとに集計し直すと,2007~12年の間に報道された305件中76件(24.9%),また死亡例112人中22人(19.6%)が注射・点滴と内服・外用を含めた与薬が原因でした1)。看護師が関与した数ある医療事故の原因の中で,共に第1位の原因です。この集計データはマスメディアで取り上げられた医療事故のため,看護業務上の全ての医療事故を反映させたものではありませんが,少なくとも法的責任を問われるような重大な医療事故は反映されていると思われます。与薬の重要性を再認識してもらえたでしょうか。

看護師が薬に強くなるメリットとは

薬にまつわる医療事故が減る
 薬物有害事象(Adverse Drug Event:ADE)が発端となった医療事故を発生段階別に明らかにした研究では2, 3),医師のオーダー時,看護業務時共にADE発生率は約4割を占める一方,医師のオーダー時におけるADEは,約50%が未然に防がれていることがわかります()。しかし,看護業務時の未然発見率に注目するとわずか2%にすぎません。つまり,看護師によるADEの大多数は未然に防がれることなく,そのまま患者さんに直結してしまうのです。そのため与薬に携わる看護師の薬物治療に関する知識が増えれば,医師のオーダー時や調剤時のADEだけでなく,看護業務時のADEもより多く未然に防げると考えられます。

 発生段階別のADE発生率と未然発見率(文献2より)(クリックで拡大)

患者さんがハッピーになる
 薬物―食品相互作用で有名なグレープフルーツジュースを例にとって考えてみましょう。薬を中心に与薬という行為をとらえると,グレープフルーツジュースは薬物代謝酵素CYP3A4を阻害するため,CYP3A4で代謝される薬物を投与する場合には,「グレープフルーツジュ...

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