臨床研究の実践知
[第15回] 臨床研究法の適用範囲と特定臨床研究の流れ
連載 有吉 恵介
2020.06.01
臨床研究の実践知
臨床現場で得た洞察や直感をどう検証すればよいか。臨床研究の実践知を,生物統計家と共に実例ベースで紹介します。JORTCの活動概要や臨床研究検討会議の開催予定などは,JORTCのウェブサイト,Facebookを参照してください。
[第15回]臨床研究法の適用範囲と特定臨床研究の流れ
有吉 恵介(JORTCデータセンターデータマネジメント部門 部門長)
(前回よりつづく)
研究者が臨床研究を実施しようとする場合,臨床研究に適用される法律や指針等の規制要件を遵守する必要があります。第11回(3357号)で重篤な有害事象(臨床研究法上の「疾病等」)が発生した場合の臨床研究法に基づく緊急報告等の対応について説明しました。今回は臨床研究法の適用範囲と,特定臨床研究を多施設共同で実施する際の流れについて説明します。
臨床研究法に該当する研究とは
臨床研究の実施に当たり,まず臨床研究法の適用範囲を確認する必要があります。特に当該研究が,法の規定する「特定臨床研究」に該当するか否かの判断が研究の計画や実施に際し重要となります(図1)。
図1 臨床研究法の該当性フローチャート(厚労省「特定臨床研究の該当性に関するチェックリスト」より作成) |
特定臨床研究とは,「医薬品等を人に対して用いることにより,当該医薬品等の有効性又は安全性を明らかにする研究」であり,「医薬品等製造販業者又はその特殊関係者から研究資金等の提供を受けて実施する臨床研究」または「未承認又は適応外の医薬品等を用いて実施する臨床研究」のいずれかに該当する研究とされます。
「医薬品,医療機器等の品質,有効性及び安全性の確保等に関する法律(医薬品医療機器等法)」に基づく研究以外の臨床研究は,医学研究に関する各種倫理指針(人を対象とする医学系研究に関する倫理指針等)に基づいて実施することになります。
また,いわゆる観察研究は,「研究の目的で検査,投薬その他の診断又は治療のための医療行為の有無及び程度を制御することなく,患者のために最も適切な医療を提供した結果としての診療情報又は試料を利用する研究」(臨床研究法施行規則第2条第1号)であり,治療方法等の割り付けや研究目的での検査の追加等がない研究です。最近では,新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に対する治療薬候補の投与にかかわる臨床研究が観察研究として開始されたとの報道が話題になりました。
なお,臨床研究法への該当性は,一義的には研究者が判断することとなりますが,必要に応じて,所属する機関の倫理審査委員会や申請予定の認定臨床研究審査委員会(以下,CRB),厚労省等への照会を検討します。
添付文書に記載された用法用量と少しでも異なる投与方法となる場合,たとえ保険診療として認められる投与方法であっても,臨床研究法上では適応外の医薬品等の使用として特定臨床研究に該当します〔令和元年11月13日「臨床研究法の施行等に関するQ&A(統合版)」〔以下,Q&A(統合版)〕。緩和ケア領域では,症状緩和を目的としてさまざまな薬剤が適応外使用されています。そのような薬剤の有効性や安全性を評価する臨床試験を実施する場合には,たとえ古くから使用されているものであっても,特定臨床研究としての実施を想定する必要があります。
また,臨床研究法の対象外とされる内容も,場合によっては臨床研究法の対象となる場合があります。例えば,健康食品です。疾病の治療等を目的として使用される場合には医薬品に該当することになり,安全性や有効性を評価する目的で臨床研究を実施する場合には,未承認の医薬品を用いる特定臨床研究に該当する可能性があります〔Q&A(統合版),問1-15,1-16〕。
特定臨床研究の実施プロセスと課題
特定臨床研究に該当する臨床研究を多施設共同で実施するにはどのようなプロセスを経ればよいでしょう。
図2の通り,研究代表医師はまず,CRBに必要書類を提出して審査を受けます。必要書類は,研究計画書(プロトコール)や説明文書・同意書,医薬品等の概要を記載した書類(承認された医薬品等の場合は添付文書),モニタリングや監査の手順書等の他に,臨床研究法で定められたフォーマットの実施計画(省令様式第1)や利益相反管理基準・利益相反管理計画,研究分担医師リスト(統一書式1)等が含まれます。
図2 特定臨床研究実施のプロセス〔厚労省「臨床研究法の概要」(令和2年3月5日)より改変〕(クリックで拡大) |
CRB承認後,各研究責任医師が実施医療機関の管理者(病院長)の実施許可を得てから,jRCT(Japan Registry of Clinical Trials)の登録を完了し,厚生労働大臣への実施計画の提出手続きを行います。jRCTで研究情報が公表されると研究を開始できます。
実施中は臨床研究実施基準を遵守し,疾病等発生時の対応(第11回参照)や実施状況の定期報告,実施計画の変更に関する手続き等を行います。また,モニタリングや監査(実施する場合)により,研究の品質マネジメントを行います。
研究の終了時には,「主要評価項目報告書」(主たる評価項目に係るデータ収集終了から原則1年以内),「総括報告書」(全ての評価項目に係るデータ収集終了から原則1年以内)およびその概要を作成します。総括報告書の概要をjRCTで公表した日が研究終了日となります。
各種書類や手続きの内容の説明は紙面の関係で省略しますが,利益相反管理基準・利益相反管理計画の準備に当たっては,研究責任医師や研究分担医師,統計解析責任者等が研究者利益相反自己申告書を作成し,所属機関の確認を受けた上で,研究責任医師から各施設の利益相反管理計画の提出を受けなければならないため,研究代表医師は,CRBの審査の前に時間的な猶予を想定する必要があります。
JCOG(日本臨床腫瘍研究グループ),JCCG(日本小児がん研究グループ),JALSG(成人白血病治療共同研究機構)等において特定臨床研究を実施する研究代表者もしくは研究事務局を対象として実施されたアンケートの結果1)によると,CRB申請やjRCT登録などの事務手続きについて,負担であった(87%),事務方や秘書の協力があってもかなり困難か不可能(65%),臨床業務に影響した(73%)といった回答がありました。事務的な業務量の多さや煩雑さについてあらかじめ考慮しておく(覚悟しておく)必要があるかもしれません。特に,各施設の研究支援センターや各研究グループの支援組織によるサポートがなかった研究者で,事務手続きが臨床業務に影響しなかったとの回答はゼロだったことから,特定臨床研究の実施にはこれらのサポートを積極的に利用することが重要と言えます。
今回のポイント
・臨床研究の実施には,臨床研究法が適用される研究かどうか,適用対象となる場合は特定臨床研究に該当するかどうか,を判断する必要がある。 ・特定臨床研究の実施には,研究支援センターや研究グループの支援組織等のサポートを積極的に利用することが重要である。 |
(つづく)
参考文献
1)國頭英夫,他.臨床研究法に関する研究者の実態調査.薬理と治療.2019;47(suppl. 1):s59-66.
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