医学界新聞

助産ガイドラインに新たに加わったCQで

インタビュー 堀内 成子

2020.05.25



【interview】

助産ガイドラインに新たに加わったCQで
周産期喪失への良質なケアを

堀内 成子氏(聖路加国際大学教授・学長)に聞く


 今,妊娠した女性の7人に1人が流産を経験し,年間2万人を超える女性が死産を経験している。しかし,それらは時に「公認されない死」と呼ばれ,当事者の心身の痛みは周囲から理解されにくい現状がある。流産・死産・新生児死亡という周産期喪失(ペリネイタルロス)に携わる看護職には,当事者の悲嘆に寄り添い,支える役割が期待される。

 2020年1月,日本助産学会は『エビデンスに基づく助産ガイドラインー妊娠期・分娩期・産褥期 2020』(以下,ガイドライン)1)を発表し,前版からペリネイタルロスについてのクリニカル・クエスチョン(CQ)を新たに追加した。同学会ガイドライン委員会委員長として作成に携わり,2004年に「天使の保護者ルカの会(以下,ルカの会)」を立ち上げペリネイタルロスのケアに取り組んできた堀内成子氏に,ペリネイタルロスへの良質なケアについて聞いた。


――流産・死産・新生児死亡というペリネイタルロスを経験した当事者には,どのような反応が起こるのか教えてください。

堀内 ペリネイタルロスを含む喪失の後には,自然な反応として悲嘆が起こります。このうち,ペリネイタルロスの悲嘆症状には,眠れない,食欲低下,気分の落ち込み,不信感,罪悪感,悲しみや怒りという気分の波,赤ちゃんとの思い出を探す,孤立などが挙げられます(表1)。また,これらの症状は個人差が大きく,1日の中での揺らぎが大きいという特徴を持っています。

表1 悲嘆の症状(文献2をもとに堀内氏作成)

 加えて,人々が喪失にうまく対応できない場合に起こる複雑悲嘆が,ペリネイタルロスでは他の喪失より多く生じると言われています。出生前診断の後に人工死産を経験する当事者も増え,ケアのニーズは高まっています。

――ペリネイタルロスと他の近親者の死別とはどう違うのでしょうか。

堀内 大きく2つの違いがあります。まず,赤ちゃんの死はあまりに突然で,全く予期せずに起こること。もう1つは,亡くなった赤ちゃんの存在が死後に周囲から忘れられやすい死別であることです。

手元に残る思い出をつくる大切さ

――今回のガイドラインの改訂で,全54項目のCQのうちペリネイタルロスに関連するCQが3項目追加されました(表2)。このCQはどのように選定したのでしょうか。

堀内 現場の看護職が取り組みやすく,アウトカムの改善が期待できるものを選びました。このうち,特にCQ303の「母親と父親の気持ちに配慮した思い出づくりの提案と話し合い」を取り入れてほしいと伝えています。

表2 ペリネイタルロスに関連する3つの新しいCQ(文献1をもとに作成)(クリックで拡大)

――思い出づくりにはどのような目的があるのでしょうか。

堀内 当事者が赤ちゃんとの思い出を共有できるようにすることです。これは正常な悲嘆プロセスをたどる上で有益です。しかし,意識して残そうとしなければ,思い出の品が何も残らないことがあります。両親の多くは,自分たちが赤ちゃんを大切にしてきたことを覚えていて,赤ちゃんと結び付いていた体験に心地よさを感じるのです。また,短い時間であったけれど,赤ちゃんが現実に存在していたと記憶することができます。

――思い出づくりの例として,CQに対する推奨文では面会・抱っこ・写真撮影・記念品づくりが示されています。初めて思い出づくりに取り組む際,参照できる取り組みはありますか。

堀内 「天使キット」(写真)がそのきっかけになればと考えています。院内でこうしたキットを用いて当事者と一緒に赤ちゃんの足型を取ったり,家族写真を撮って収納したりすることで退院後に赤ちゃ...

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