「リアリティ・ショック」再び
2年目看護師が陥る状況から人材育成を考える
対談・座談会 尾形 真実哉,ウイリアムソン 彰子,鈴木 洋子
2020.03.23
【座談会】
「リアリティ・ショック」再び
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2010年,新人看護職員研修の努力義務化により,多くの病院で新人看護師に対する手厚いフォローがなされるようになった。一方で,2年目になった途端,その支援の輪から外れ業務を一手に任されることで,自身の能力,業務内容,所属施設への期待といったさまざまな物事に対し,離職に直結するような新たな形式のリアリティ・ショックが生じやすくなると考えられている。
本紙では今回,組織行動論を専門としホワイトカラーと看護師の働き方の違いを研究してきた尾形氏,大学病院で教育担当を務めるウイリアムソン氏,2年目看護師のリアリティ・ショックに焦点を当てた研究を進める鈴木氏による座談会を行った。一般に「避けるべき」とされるリアリティ・ショックとの正しい「付き合い方」を多方向から議論する。
尾形 私の専門は組織の中の人間行動を分析する組織行動論です。現在は,さまざまな企業の入社1~3年目の若手ホワイトカラーに協力いただき,新たな環境になじむためのプロセスを考察する組織社会化理論を中心に,研究を進めています。その研究の一環としてウイリアムソンさんにもご参画いただき,ホワイトカラーと異なる学生生活を送ってきた看護師を比較対象に,1~3年目のリアリティ・ショックの研究1)を行いました。
ウイリアムソン 尾形先生は本研究で初めて,看護師のリアリティ・ショックに接点を持たれたと思います。若手看護師のデータを解析し始めた2003年当時,ホワイトカラーと比較する中でまず気になった点は何でしたか。
尾形 リアリティ・ショックが起こる原因です。学生時代,入社先に直結する教育を受けていないホワイトカラーの場合,入社前に抱いていた理想と入社後の現実との間にギャップが生じやすいため,モチベーション低下や組織への不適応につながり,早期離職に至ると言われています。これが,一般的なリアリティ・ショックの構造です。
ですが看護師の場合,専門職訓練校として現場を想定した実習や緻密な教育を受けているにもかかわらずリアリティ・ショックが生じているとの話を伺い,驚きを隠せませんでした。
ウイリアムソン 鈴木さんもこれまでリアリティ・ショックを専門に研究されてきたとお聞きしています。特に2年目看護師に対象を絞って調査をされていると伺いました。なぜ2年目に焦点を当てたのでしょう。
鈴木 私が臨床現場で後輩の教育に携わっていた2010年頃,1年目看護師は明るい表情で毎日出勤してくるのに,2年目になると表情がどんどん暗くなっていくのに気付いたことがきっかけです。その状況を見て,1年目と2年目の間に何か問題が起きているのではないかと考え,大学院へ進学し,2年目看護師に関する研究報告2)をしてきました。
今日は尾形先生,ウイリアムソンさんと研究成果を共有し,議論を深めたいと思います。
辞めさせないことばかりに注力していませんか?
ウイリアムソン まずは尾形先生が考えるリアリティ・ショックの構造をご説明いただけますか。
尾形 私は次の3種類が存在すると考えます3~5)。
学生時代に入職先に直結するような教育を受けておらず,入職後の現実にギャップを生じた場合
②肩透かし型
厳しい現実を期待していたものの,意外と期待外れだった場合
③専門職型
専門的な教育を受け,厳しい現実が待っていると覚悟していたにもかかわらず,予想以上の厳しい現実に出合った場合
看護師の場合,専門職型が多いと考えますが,新人看護師にインタビューする機会の多い鈴木さんは,現状をどう分析されていますか。
鈴木 尾形先生のおっしゃるように専門職型が多いのは事実であるものの,意外と既存型,肩透かし型もいる印象です。ただし,インタビューによる自己申告の結果ですので,管理者側から見て客観的にどう評価されているかが考慮されていない点には注意が必要です。一方で,リアリティ・ショックを全く感じていない人にもまれに出会います。
尾形 私はそのようなタイプを「素通り」と呼んでいます。中には入職前に予想していた通りの職場ととらえる人材もいるでしょうが,周りの求めるレベルとの差に気付かず,現状に満足してしまっている人もこの分類に当てはまります。
ウイリアムソン 後者の場合,自己評価と他者評価がずれることがあり,「他者評価が間違っている。評価が厳しすぎる」ととらえる方が多いですね。そして評価する側も,「何度も指導し,伝えているのですが……」と,適切なフィードバックができないまま放置していることがあります。
尾形 なぜそのような状況に気付いたのでしょう。
ウイリアムソン 私が神戸大病院に赴任した当時,指導者が集まる委員会で,「2年目が育っていなくて困っている」との話題が上がったことが発端です。1年目看護師の離職率の報告義務があるために,「辞めさせないことに必死になり過ぎて,育てることが二の次になっていたのでは?」との疑問を以前より抱いていましたので,すぐに1年目看護師の3月時点での看護技術習得状況を調べました。すると,習得目標に到達していない人が散見されました。その状態で2年目に突入するため,できないのは当然です。そこで新人看護師全員が目標に到達するまで追跡したところ,20か月で目標に到達することがわかりました。
鈴木 習熟にかかる時間は人それぞれですよね。
ウイリアムソン その通りです。加えて本追跡で特筆すべきは,1年目での目標未到達者に特別な介入はしていないことです。つまり,指導者の手から離れたことで2年目の成長を促したとも言えます。ですので現在は,「新人を離職させないことを意識し過ぎず,基礎技術はしっかり習得させ現場で自律して動ける人材育成をしてほしい」と,指導者に伝えています。
2年目看護師に起こる特有のリアリティ・ショックとは
尾形 ウイリアムソンさんから1年目看護師へのかかわり方についてお話がありましたので,続いては2年目看護師に関連する諸課題に注目したいと思います。2年目看護師を専門に研究を進める鈴木さんは,彼らをどのような立場に置かれた人材だと認識していますか。
鈴木 2年目は,日々の業務を通じて看護実...
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