医学界新聞

フランス医療制度のいま

連載 奥田 七峰子

2020.03.16



フランス医療制度のいま

[第2回]公的緊急医療サービス:SAMU

奥田 七峰子(日本医師会総合政策研究機構フランス駐在研究員/医療通訳)


前回よりつづく

救急車はさながらミニICU

 仏国の公的緊急医療サービスであるSAMU(Services d’Aide Médicale Urgente)は,各県に1か所以上,全国105か所設置されている。全国共通のダイヤル15に電話するとSAMUにつながる。SAMUが送り出す救急車(SMUR)の中はミニICUのようになっており,患者に必要なクリティカルケア(例:トロポニン測定→ヘパリン,人工心肺,蘇生,外科処置等)を車内で施しつつ病院に搬送できる(写真)。

写真 (上)SAMUのコールセンター内。(下)SAMUの救急車(SMUR)内。さながらミニICUのようになっており,搭載されたECMOやエコー撮影機器などを用いて搬送中から車内で処置が施される。

 搬送先の病院では担当医とスタッフがオペ室や病室を既に確保してスタンバイしており,ERを通らずにそのまま即治療に入る。搬送前に行う専門医とのベッドを確保するレギュレーションも,現場に駆けつけて初めの診断・処置を行うのも必ず医師で,パラメディックではない。搬送先は現場からの距離よりも機能重視で選ばれるため,転送はゼロ。

 ECMO(体外式膜型人工肺)は,通常手術室や集中治療室で使用される人工心肺だが,75歳未満で一定の条件を満たす患者に対してはSMUR内でも積極的に導入するようになった。これまで4%だった救命率が導入後改善した。さらに30%が後遺症なく治癒するようになった。このような高次の救命救急がSAMUの最大の存在意義で,もちろんそれを最優先にすべく効率的なシステムになっているのだ。

医師のトリアージュで転送ゼロを実現

 SAMUの特徴は,高機能のドクターズカーもさることながら,トリアージュと呼ばれるSAMUコールセンターでの患者優先度選別のシステムが筆頭に挙げられる()。患者からの電話を最初に受ける電話オペレーター(基本的な医療教育を受けており,元臨床看護師などパラメディックがリクルートされることが多い)が,現在いる場所・電話番号・保険情報と主訴を最初に尋ねる。この後,全ての電話を必ず医師に渡し,医師が症状を詳しく聞き出す。

 仏国の公的緊急医療サービスSAMUのコールセンターにおけるトリアージュ(クリックで拡大)
日本の「119番」に相当するのが,仏国では「15番」。15番をコールするとSAMUにつながり,原則全例医師によるトリアージュが行われ,緊急性が判断される。(A)特に救命の必要があると考えられるケース(いわば三次救急相当)はSAMUから救急車(SMUR)が出動する。SMUR内で一通りの救命処置・外科処置が行われながら,SAMUが電話で調整した搬送先の医療機関へ向かう。(B)緊急性はあるが重症度は高くない二次救急レベルのものは消防救急車が出動する。(C)緊急性がないと判断された場合は民間対応となり,民間医療搬送タクシーや,医師の有料往診サービス等に誘導する。(D)医療ニーズよりも社会福祉的ニーズが強い場合は福祉的救急システムであるSAMU Socialと連携しつつ,SMAUの医師も対応する。

 救急医同乗で救急車を現場に向かわせる必要があると医師に判断された場合(≒日本での三次救急),現場に赴いた医療職が,患者から電話で収集した情報を実際に確認して臨床情報をSAMUへコールバックし,現場に出向く医師・コールセンターでトリアージュする...

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