節薬バッグから薬剤師職能を「見せる化」する
寄稿 島添 隆雄
2020.03.02
【寄稿】
節薬バッグから薬剤師職能を「見せる化」する
島添 隆雄(九州大学大学院薬学研究院臨床育薬学分野准教授)
わが国における医療費は2018年度には42兆円を超過し,増加の一途をたどっている。この増加抑止の手段の一つとして,厚労省は2012年度調剤報酬改定において薬剤師による残薬調整を明文化した。しかしながら,患者には残薬を減らすという意識が薄い状況はなお継続していた。そこで福岡市薬剤師会では,患者への残薬調整の啓発ツールとしてエコバッグを作製し,患者に残薬を入れて持参してもらうことにした。そして,このバッグを「節薬バッグ」と名付け,「節薬バッグ運動」を開始した。
「節薬バッグ運動」を市民に広く知ってもらうために,フリーペーパーや新聞に記事の掲載を依頼し,またチラシやポスターを作成して薬局でも配布や掲示を行った。「節薬バッグ」という名称に対して当時は賛否両論あった。しかし福岡県内のほぼすべての放送局でも報道され,また2016年度の診療報酬改定で残薬調整について新たな加算が追加された際,その例示として「節薬バッグ運動」が取り上げられたことなどもあって,「節薬バッグ運動」という名称は全国に広く認知されるに至った。「節薬バッグ」として市販品がすでに存在するほどである。
福岡市薬剤師会と本学薬学研究院臨床育薬学分野は,「節薬バッグ運動」を共同研究にすることを決定し,この事業の準備段階からワーキンググループを立ち上げた。話は少しそれるが,このワーキンググループには学部学生も参加している。実務実習以外に臨床現場で働く薬剤師と触れ合う機会の少ない学生にとって,ワーキンググループの会議で薬剤師会の役員レベルのメンバーと接することは,大きな意味があると考える。
さて,共同研究として私たちアカデミアの人間がかかわることにより,データの公正性が認められ,また臨床研究にとって最も大切な論文化が迅速に進むなど,お互いにとってメリットになったことは言うまでもない。本稿では,医療費削減にとどまらず,「節薬バッグ運動」で見えてきたさまざまな効果について触れてみたい。
どんな薬が残薬になりやすい?
ワーキンググループは,まず福岡市医師会の了承を得たのちにトライアルを実施した。福岡市薬剤師会役員が管理または勤務する31薬局において,3か月間でどれくらいの金額の残薬を調整できるかを調査した。その結果,約70万円が削減できることが明らかになった。この金額は全国レベルに換算すると年間約3300億円に相当する。
これまで,残薬調整についての調査に関して,この規模で行われたものはなかった。この結果を2013年に『薬学雑誌』に発表1)したところ,大きな反響を得た。マスコミからも多くの取材があり,全国レベルの新聞掲載やテレビ報道が相次いだ。2014年には,医薬品の適正使用に貢献する薬剤師の取り組みを表彰するBIファーマシストアワードで優秀賞も獲得した。これらの活動が厚労省の目にも留まり,2016年度の診療報酬改定につながったのだろう。
トライアルの結果をもとに,2013年に「節薬バッグ運動」を福岡市薬剤師会会員全薬局に広げ,期間も1年間に延長した。また,トライアルでは残薬のみを調査したため,処方全体に対する残薬の状況が不明であった。そこで今回の調査では処方箋すべての情報を得ることにした。その結果,処方箋1枚当たり約2割の薬剤金額を削減できることが明らかになった2)。
その後,節薬......
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