医学界新聞

インタビュー 柳橋 礼子,鈴木 千晴

2020.02.24



【インタビュー】

マグネット®ホスピタル認証を取得した
聖路加国際病院の挑戦

柳橋 礼子氏(常磐大学看護学部准教授/前 聖路加国際病院副院長・看護部長)
鈴木 千晴氏(聖路加国際病院副院長・看護部長)


 2019年11月,聖路加国際病院が日本初のマグネット®ホスピタル認証(以下,マグネット認証)を取得した。マグネット認証とは,米国看護師認証センター(ANCC)が看護の卓越性および質の高い患者ケアを提供する医療機関を認証するもので,「看護のノーベル賞」とも呼ばれ,国際的に高く評価されている。

 日本初の快挙を達成した裏側にはどのような取り組みがあったのか。マグネット認証に向け尽力してきた前看護部長の柳橋氏と,現看護部長の鈴木氏に,聖路加国際病院が歩んできた道のり()に沿って話を聞いた。

 聖路加国際病院のマグネット認証取得に向けた取り組み


――2019年11月にマグネット認証を取得しました。「マグネット®ホスピタル」とは,そもそもどのような認定制度なのでしょう。

柳橋 「看護の卓越性および質の高い患者ケアを提供する医療機関」のことを指し,ANCCが認定するものです。認証のためのプロセスは大きく4つの段階に分かれていて,①申請用書類の提出,②審査用書類の提出,③実地審査,④ANCCの委員会での決議を経て,認証となります。米国の病院であっても,準備から認定までに最低3年を要すると言われており,2020年1月現在,米国で497病院,米国以外ではオーストラリア,レバノン,サウジアラビア,ベルギー,中国などの12病院が本認証を取得しています。

――米国以外で取得する施設は,世界的に見てもまれなのですね。マグネット®ホスピタルの考え方が米国で生まれたのはなぜでしょう。

柳橋 1970年代後半,米国では多くの病院が深刻な看護師不足に悩まされていました。しかし,その中でも「看護師を磁石のように引き付け,高い定着率を維持する魅力的な病院」が存在していたことに注目が集まりました。そうした好事例となる病院を対象に,大規模な看護業務調査と具体的な看護プログラムの探求を行うことで「磁石」となる共通点を見いだし,1983年に認定を開始したのが始まりです。

 現在はマグネット®ホスピタルを構成するコアな特徴として,図1のモデルが示されています。

図1 マグネットモデル(ANCC:Magnet® Application ManualをCNSと管理の研究会が日本語訳)

――マグネット認証では,どのような取り組みが求められているのでしょう。

柳橋 看護実践や看護ケアの質向上に関する自発的な知識の獲得や活動はもちろんのこと,看護提供体制や職務環境などの改善に,看護師全員が主体的にかかわる自律性です。その上で,看護の質の高さを裏付けるため,改善活動を数値化し,客観的に示すことが要求されます。

シェアドガバナンスとナースの代表者会議

――柳橋さんは,2013年から2018年10月の「審査用書類提出」の段階まで,看護部長としてマグネット認証に携わってきました。聖路加国際病院がマグネット認証に取り組もうと考えた背景をお聞かせください。

柳橋 当院には米国に留学していた医師や看護師が多く,日本のリーディングホスピタルとして先駆的な取り組みを発信しようとの風土がありました。看護部がさらに一枚岩の組織となるために,大きな目標としてマグネット認証に挑戦したのが経緯です。

――その足掛かりとして,マグネット®ホスピタルがどのような施設かを知るため,2013年に米国の2施設を視察しています。現場で働く看護師にどのような印象を持ちましたか。

柳橋 看護師が自分たちの実践を生き生きと話していたことがとても印象的でした。当院のスタッフにも同じように生き生きと,自信をもって看護実践を行ってもらいたいと思いましたね。

――マグネット認証をめざす上で,明確なビジョンを描けたことは大きな収穫だったのではないでしょうか。

柳橋 ええ。その他にも“Senate”と呼ばれる会議に同席させてもらえたことも,マグネット認証をめざす上で大きな影響を与えてくれました。

――Senateとは何でしょう。

柳橋 月に一度開かれる看護部の会議のことです。各部署スタッフから2人の代表者が選出され,任期は2年間。現場の業務改善に関する情報共有や,病院上層部からの依頼を協議することが主な活動です。代表者は会議での決定事項を各部署のスタッフに共有し,意見を吸い上げる役割を担います。驚いたのは,Senateがトップダウンの決定をも覆す力を持つことです。

――現場の意見が病院の決定にも影響を及ぼすということですね。

柳橋 その通りです。これは,シェアドガバナンスと言って,マグネット認証が求めるマネジメントスタイルである「全ての看護師の意思が取り入れられ尊重される」という点に合致しており,同様の体制を当院にも導入しようと考えました。

――どのような形で取り入れたのでしょう。

柳橋 当院では「ナースの代表者会議」(以下,代表者会議)と名前を変えて導入しました(図2)。任期は1年間(再選可)で,年度初めに各部署から代表者を2人公募します。代表者の選出方法は立候補や推薦など,部署によってさまざまですが,代表者は所属部署のスタッフ全員の承認を必須としました。

図2 聖路加国際病院看護部における会議体の位置付け

 代表者は月に1度集まり,各部署の課題や職場環境の調整など,日頃の気付きや疑問に焦点を当て,解決策を練ったり,運用を見直したりします。特に,新しい機器の導入や看護業務の変更など,現場に大きな負担がかかるときには,必ず代表者会議に諮ってから,ナースマネジャー会議で決定するプロセスを取ります。

――聖路加国際病院でも,トップダウンの決定を覆すほどの権限を持った組織なのでしょうか。

柳橋 現場の事情にそぐわない取り組みが始まる場合は,代表者会議経由で「NO」を突き付けられます。私が看護部長を務めていた時は,変更の理由を説明しに代表者会議へ出席したり,状況確認のため現場を見に行ったりしたこともありました。もちろん,それは現場との風通しを良くするためでもあり,「不満があればいつでも呼んでほしい」と伝えていたからです。

――意思疎通を容易に行える体制はスタッフも働きやすいはずです。

柳橋 そ...

この記事はログインすると全文を読むことができます。
医学書院IDをお持ちでない方は医学書院IDを取得(無料)ください。

開く

医学書院IDの登録設定により、
更新通知をメールで受け取れます。

医学界新聞公式SNS

  • Facebook