流行期のインフルエンザ診断
[第4回] 事後確率データを生かして一歩進んだ診療へ
連載 名郷 直樹
2020.02.10
流行期のインフルエンザ診断
インフルエンザの季節です。今シーズンもまた,インフルエンザの迅速検査が大量に行われるのでしょう。いくら何でもやり過ぎですが,患者は希望するし,保育園や学校・職場からも依頼されるし,医療機関はもうかるし,という中でそれ以外の要因は無視されがちです。本来は,臨床疫学的なアプローチで判断することが,検査を利用する医師の大きな役割です。その役割を十分果たせるように,インフルエンザの迅速検査の使い方について解説します(全4回連載)。[第4回(最終回)]事後確率データを生かして一歩進んだ診療へ
名郷 直樹(武蔵国分寺公園クリニック院長)
(前回よりつづく)
インフルエンザ流行時に重要なことは,確率が低いながらも無視できない「インフルエンザ以外の重要な疾患」の可能性を常に考えておくことです。流行期の風邪との鑑別においてメリットが少ないインフルエンザの迅速診断検査も,この部分では大きな威力を発揮します。結果が陰性なら,その他の重要な疾患でないかどうか確かめるための検査をすべきという判断ができるからです。
それでは,具体例をみながら,迅速診断検査の使い方をさらに深めていきたいと思います。
インフルエンザ以外に鑑別すべき疾患,溶連菌を鑑別する
ここでもまた,前回(第3354号)同様,18歳の健康な男性を例に考えてみましょう。発熱と咳以外に咽頭痛がある患者です。
咳があるとはいえ,咽頭痛と発熱ですから,溶連菌感染は考慮してもいいでしょう。溶連菌を疑うとなると,インフルエンザ陰性の場合には溶連菌の迅速診断検査を行うかどうか検討する必要があるでしょう。
ここでの溶連菌感染の事前確率を,インフルエンザでない可能性35%のうちの4割くらいと見積もると,14%となります。4割は当てずっぽうです。センタースコアが,扁桃炎なし,前頸部リンパ節腫脹なし,咳あり,38℃以上の発熱ありで計1点なら,事前確率12%という報告1)がありますから,まずまずの推測でしょう。
溶連菌の迅速診断検査の感度を86%,特異度を97%とすると2),陽性尤度比と陰性尤度比がそれぞれ29,0.14と計算されます。
事前確率14%はオッズにすると0.16ですから,陽性の時の事後オッズは4.64,事後確率は82%になります。陰性の時の事後確率は同様に2%と計算されます。陽性の場合には82%が溶連菌ですから,ペニシリン系抗菌薬を投与するという判断でよいと多くの人が考えるのではないでしょうか。陰性ならほとんど溶連菌感染を除外できます。
ここでは結果が陰性にしろ,陽性にしろ,検査が有用な状況です。インフルエンザ流行期の溶連菌感染の迅速診断検査は意外に役に立つことがわかります。
しかし振り返って考えてみると,溶連菌感染症の確率82%というのは,流行期の咳と熱でインフルエンザ80%という数字とほぼ同じです。インフルエンザについての確率80%は診断確定でなく,溶連菌では82%で診断確定というのは整合性が取れていません。つまり最初の時点でインフルエンザについても溶連菌についても迅速診断検査をして,というのは論理的には矛盾がある行為です。そうなると,今度はさらに溶連菌を確定させるための次の検査ということになりますが,それもまた違和感のある行為です。
この矛盾を解くには,初診の時点で迅速診断検査は行わずインフルエンザと診断し,外来フォローする中で,鼻の所見や咳よりも咽頭痛が前面に出てきて解熱し...
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