基礎から臨床へ,生殖医療の現在地
第25回日本臨床エンブリオロジスト学会の話題より
2020.02.10
基礎から臨床へ,生殖医療の現在地
第25回日本臨床エンブリオロジスト学会の話題より
青野展也大会長 |
生殖補助医療(ART)を取り巻く現況を多角的にとらえる
ラボの自動化やAIの応用によって変化しつつある胚培養士(以下,エンブリオロジスト)のこれからの働き方を示したのは西山輝紀氏(メルクバイオファーマ株式会社)。ラボの自動化やAIの台頭は,ワークフローの向上,人的要因に起因する質のバラつき等を減らすメリットをもたらす一方で,自動化したシステムの質管理を行えるのは人間しかいないため,新しい仕事を増やしてしまうデメリットも存在すると指摘した。これからのエンブリオロジストには,「新たに生み出される技術や成果を適正に評価するための情報収集能力が今以上に求められる」と発表をまとめた。
マウスのES細胞およびiPS細胞から機能的な卵子を誘導する体外培養法を開発した林克彦氏(九大大学院)は,生殖細胞の応用技術を将来活用する上での課題を整理した。マウスにおける生殖細胞系列に関する研究は,複雑な生殖細胞の分化メカニズムの解明に寄与し,ヒトの不妊治療への応用が期待されている。しかし,マウスにおいても体外培養の技術は依然として特殊技術の範疇を超えず,発生能を有する卵子の割合には作製が体内か体外かにより大きな差があると氏は語る(Nature.2016[PMID:27750280])。今後のヒトへの応用を見据え,「安全性,簡便性をより備えた技術開発に取り組みたい」と抱負を述べた。
阿久津英憲氏(国立成育医療研究センター)は,2018年11月に中国で報告されたデザイナーベビーの問題を取り上げ,ARTを取り巻くゲノム編集技術の現況について解説した。2012年,ゲノム編集技術の一つであるCRISPR/Cas9の登場により,ARTの環境がある程度整った国であれば,ゲノム編集を用いたデザイナーベビーは可能になるという。その上で,「安易な応用は取り返しのつかない事態を招きかねない」と警鐘を鳴らした。具体的には,意図しない遺伝子の改変が起こる懸念(オフターゲット作用),デザイナーベビーの永続的なフォローアップの必要性,世代を超えた社会的,環境的影響などが挙がる。現時点でも予見できない事象が多数存在することから,「不適切な利用をどう防ぐかを医療者個々人でも考えていく必要がある」と会場に呼び掛けた。
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